「……全然気付かなかった」
彼の話を聞いて、徐々に思い出した。
駿くんに会いたくて、夜にも関わらず思い出を巡って散歩をしていた。それはよくやっていたから覚えてる。
きっとその中で出会ったのだろう。
駿くんじゃない、高瀬くんを思って必死に家とコンビニへ走ったことが、今確かに頭に浮かんできていた。
「忘れててくれててほっとしたけどね。こんなの知られて、せっかく再会したのに嫌な気持ちにさせるのも嫌だったから」
高瀬くんの苦しそうな笑いにわたしの心もこれでもかと締め付けられる。
そんなこと、思うわけないのに。
まだ痛いのか、もう傷跡だけで痛みなんてないのか、わからないけど。
一度空いた穴が完璧には塞がらないように、心の傷は思い出す度多少の痛みが伴うものだろう。
「あのときこの場所に来てくれたから、今わたし、こんなに幸せなんだね」
いじめっ子に感謝する気持ちはさらさらないけど。高瀬くんの痛みにそれがあってよかったと思う気持ちも全くないけど。
ここに来て出会えたことは、なによりも嬉しくて感謝してる。
「だからこの痛みも、無駄じゃないよ。いじめっ子たちの言葉より、わたしに出会うために作った傷だと思ってよ」
堂々と晒せとは言わないし、思わない。
ただ、彼が背負うものが少しでも減ってくれたら。
それだけで、きっと見える世界はちょっとだけ変わるから。
紅葉の絨毯の上で緩やかに笑う高瀬くんが、もうこれ以上心に傷を負いませんように。
傷を与えてしまうのはわたしなのに、矛盾したことを思っているけど。
願うくらい許してね、神様。