顔が、熱い。熱すぎて、顔を隠すクッションが手放せないでいる。
「息できてますか?」
岩崎さんが心配そうに声をかけてくれるけど、絶対に赤い顔を死神であろうが見られたくない。
「岩崎さん、どうしよう。わたし……」
言葉に詰まってしまう。岩崎さんは、呆れてしまわないかな。
つい最近まで、駿くんのことが好きで忘れられないって、至るところで駿くんとの思い出に胸を馳せていたのに。
死んでしまいたいと願うほど、辛い失恋だったはずなのに。
いとも簡単に違う人に転ぶのかと、軽い人間だと思われないかな。
「どうしたんですか?」
急かすわけでもなく、話せないことに嫌気がさしている訳でもない、穏やかな口調が耳に届いた。
高瀬くんが太陽だとしたら、岩崎さんは月のような人だ。暗い夜道をぼんやり照らすような、眩しすぎず暗すぎない、静かな温かさのある人。
「わたし、高瀬くんのこと好きになっちゃった」
そんな岩崎さんだから、こうして話そうと思えるのだ。ちゃんと冷やかさずに聞いてくれるって、わかっているから。
「どうしたらいいと思う?わたし、もう誰かを好きになったらダメなのに……」
ぎゅっと、クッションを握る手に力が入る。
駿くんのときももちろん辛かったけど、高瀬くんを好きになった今、気持ちを押し殺す選択しかないと思うと、息が詰まりそうだ。
別に思いを伝えたいとは思わない。
付き合いたいとも、思わない。
ただ、高瀬くんを好きになることが悪いことみたいで、嫌なだけだけど。
「なんでダメなんですか?いいじゃないですか」
岩崎さんの思わぬ反応に、つい顔を上げてしまう。彼の表情は、本当にわたしの発言に疑問を持っているような、言葉の意図を考えているような顔をしていた。
「なんでって……。だってわたし、もう死ぬんでしょ?」
「それはそうですけど……。死ぬ人が恋をしてはいけないなんてルールはありません。それに、気持ちを押し殺すことで成仏できないほうがこちらとしては困ります」
それはそうかもしれないけど……。わたしの事情に高瀬くんを巻き込むのは、違うと思う。
「もうすぐ死ぬ人に好きになられて、高瀬くんもきっと迷惑だと思うし……」
「あなたの好きな人は、そんなことであなたを拒否する人なんですか?」
「そ、れは……」
高瀬くんはきっと、そんなことで誰かを遠ざけたりしない人だ。むしろ優しく励まして、共に頑張ってくれる人だと思う。
それが友達でも、恋人でも。その対応はきっと変わらない。
「人生最後の恋になるんです。全力でぶつかってみたらいいじゃないですか」
「でも……」
「私から見ても、彼は素敵な少年だと思いますよ」
やんわり背中を押してくれているのに、まだ踏み出せずにいるわたしを見て、岩崎さんが笑った。
「私は恋をしたことがないまま、人生を終えました。だから小晴さんには、たくさん幸せを感じてほしいんです。残りの時間を気にせずに」
まるで同情を煽るようなセリフだけど、まんまと心を動かされた。わたしってチョロいんだなとつくづく感じる。
「わかった。わたし、高瀬くんにちゃんと恋する」
気合いを入れると、岩崎さんは窓の外を指さした。
「虹がでていますよ。あなたの未来はきっと、明るいです」
「そうだといいな」
本当にやってきてしまう、人生の終着点が近づいていることは一旦置いておいて。それまでの未来が明るく優しいものだといいな。
「息できてますか?」
岩崎さんが心配そうに声をかけてくれるけど、絶対に赤い顔を死神であろうが見られたくない。
「岩崎さん、どうしよう。わたし……」
言葉に詰まってしまう。岩崎さんは、呆れてしまわないかな。
つい最近まで、駿くんのことが好きで忘れられないって、至るところで駿くんとの思い出に胸を馳せていたのに。
死んでしまいたいと願うほど、辛い失恋だったはずなのに。
いとも簡単に違う人に転ぶのかと、軽い人間だと思われないかな。
「どうしたんですか?」
急かすわけでもなく、話せないことに嫌気がさしている訳でもない、穏やかな口調が耳に届いた。
高瀬くんが太陽だとしたら、岩崎さんは月のような人だ。暗い夜道をぼんやり照らすような、眩しすぎず暗すぎない、静かな温かさのある人。
「わたし、高瀬くんのこと好きになっちゃった」
そんな岩崎さんだから、こうして話そうと思えるのだ。ちゃんと冷やかさずに聞いてくれるって、わかっているから。
「どうしたらいいと思う?わたし、もう誰かを好きになったらダメなのに……」
ぎゅっと、クッションを握る手に力が入る。
駿くんのときももちろん辛かったけど、高瀬くんを好きになった今、気持ちを押し殺す選択しかないと思うと、息が詰まりそうだ。
別に思いを伝えたいとは思わない。
付き合いたいとも、思わない。
ただ、高瀬くんを好きになることが悪いことみたいで、嫌なだけだけど。
「なんでダメなんですか?いいじゃないですか」
岩崎さんの思わぬ反応に、つい顔を上げてしまう。彼の表情は、本当にわたしの発言に疑問を持っているような、言葉の意図を考えているような顔をしていた。
「なんでって……。だってわたし、もう死ぬんでしょ?」
「それはそうですけど……。死ぬ人が恋をしてはいけないなんてルールはありません。それに、気持ちを押し殺すことで成仏できないほうがこちらとしては困ります」
それはそうかもしれないけど……。わたしの事情に高瀬くんを巻き込むのは、違うと思う。
「もうすぐ死ぬ人に好きになられて、高瀬くんもきっと迷惑だと思うし……」
「あなたの好きな人は、そんなことであなたを拒否する人なんですか?」
「そ、れは……」
高瀬くんはきっと、そんなことで誰かを遠ざけたりしない人だ。むしろ優しく励まして、共に頑張ってくれる人だと思う。
それが友達でも、恋人でも。その対応はきっと変わらない。
「人生最後の恋になるんです。全力でぶつかってみたらいいじゃないですか」
「でも……」
「私から見ても、彼は素敵な少年だと思いますよ」
やんわり背中を押してくれているのに、まだ踏み出せずにいるわたしを見て、岩崎さんが笑った。
「私は恋をしたことがないまま、人生を終えました。だから小晴さんには、たくさん幸せを感じてほしいんです。残りの時間を気にせずに」
まるで同情を煽るようなセリフだけど、まんまと心を動かされた。わたしってチョロいんだなとつくづく感じる。
「わかった。わたし、高瀬くんにちゃんと恋する」
気合いを入れると、岩崎さんは窓の外を指さした。
「虹がでていますよ。あなたの未来はきっと、明るいです」
「そうだといいな」
本当にやってきてしまう、人生の終着点が近づいていることは一旦置いておいて。それまでの未来が明るく優しいものだといいな。


