「たまには俺からもいいかなあって……思いまして」
「……」
「あ、朝宮?」
「ああ、夢か。びっくりした」
「え?」
「一瞬寝落ちしたらしい。間山からキスしてもらう夢見て」
「いやっ、夢じゃないから!」
「……ガチで?」
「ガチで」
「俺の妄想じゃなくて?」
「……こんなこと妄想してたのかよ」
聞いてるこっちが恥ずかしくなる。でも朝宮は真面目な顔で「何万回も」と答える。
「じゃあ……本当に間山から?」
「う、うん。ちょっと、朝宮を困らせてみたかったっていうのが本音だけど、調子乗りました」
「もっと調子乗ってください、お願いします」
朝宮が机に手をついて頭を下げる。これでは様子がおかしいイケメンだ。
「分かったから、たまにな、たまに」
「うん」
ゆっくりと絡んでいく指。さっきまで、つまずくことなく数式を解いていたその手が、今は俺の手を離さない。
「間山の手はちょっと小さいんだな」
「朝宮の手がでかいんだよ。俺の手の大きさはふつうで」
「ふつう、ね」
手を繋ぐという行為とはまた違う。だからなのか、いちいち心臓に悪い。
朝宮に触れるだけで、俺の思考は簡単に朝宮でいっぱいになる。
「……もし、さ」
「ん?」
「もし……最初の席替えで、俺と前後じゃなかったら……朝宮とはこういう関係になれなかったのかな」
後ろから回ってきた告白のプリント。あれを最初にもらったときは驚きしかなかったけど、今になって思う。あれがあったから、俺たちは付き合うことができた。
「どの席になっても、告白はしてたと思う」
「え?」
「間山が俺の前に座ってるのを見て我慢できなくなったってだけで、告白はしてたよ。間山のことが好きだったから」
真顔だからこそ、その真剣度合いがストレートに伝わってくる。
「だけど、席が前後でよかった。そうじゃなかったら、これだけアピールはできなかったし」
「……それは、ありがとう」
「ありがとうなんだ」
「それは、そうだろ。朝宮が俺のこと好きになってくれるだけじゃなくて、……ちょっかいとか、ああいうのされてうれしかったから」
戸惑うことも多い反面、嫌だと思うことは一度だってなかった。
それは付き合う前から朝宮が俺のことを大事にしてくれていたからだ。
朝宮の人柄に惹かれるようになって、気づけば恋になっていた。
「……だから、俺も朝宮と席が前後になれて本気でよかったって思う」
「はい、可愛い、逮捕」
絡んでいた指は、今は隙間を埋めるように繋がれている。
「やっぱり家だったらふつうに襲ってた」
「お、襲っ……!?」
「大丈夫、間山が学校を選んでくれたから、そうならずに済んだ」
一瞬でも朝宮の家に……なんて思ってしまったけど。そこまでは考えていなかった。
「じゃあ、朝宮の家には行ってもいいの?」
「……間山、今の流れ聞いてた?」
「へっ!? あ、その……そういう意味で言いたかったわけじゃなくて。朝宮の家って、誰も行ったことないって聞いたことあったなと思って」
ああ、と朝宮は納得したようにうなずいた。
「たしかに誰も呼んだことない」
「やっぱりそうなんだ。家に人を入れたくないのかなと思って」
「それはそうだけど、間山は別」
「え?」
「間山なら、毎日でも俺の家に来てほしいぐらい」
「そ、それは……さっきの流れもありまして」
しどろもどろになりながら答えると、ふっと、朝宮特有の笑いが聞こえる。
「じゃあ、言わないほうがよかったかも」
そうして、意地悪な笑みを浮かべるものだから、俺としては気が気じゃない。
「……でも、いつかは行きたい、です」
「ん、いつでもどうぞ」
朝宮の家に行ける日が来たら――そのときは、きっと。
そんなことを思いながら、ふと視界の端に映り込んだ問題集を見て、この時間がなんのためにあるのかを思い出した。
俺の視線を追ったのか、朝宮も同じように手元を見た。
「やりますか」
「……はい」
残念そうに離れていく指。でも手には、熱いぐらい朝宮の体温が残っていた。
了
「……」
「あ、朝宮?」
「ああ、夢か。びっくりした」
「え?」
「一瞬寝落ちしたらしい。間山からキスしてもらう夢見て」
「いやっ、夢じゃないから!」
「……ガチで?」
「ガチで」
「俺の妄想じゃなくて?」
「……こんなこと妄想してたのかよ」
聞いてるこっちが恥ずかしくなる。でも朝宮は真面目な顔で「何万回も」と答える。
「じゃあ……本当に間山から?」
「う、うん。ちょっと、朝宮を困らせてみたかったっていうのが本音だけど、調子乗りました」
「もっと調子乗ってください、お願いします」
朝宮が机に手をついて頭を下げる。これでは様子がおかしいイケメンだ。
「分かったから、たまにな、たまに」
「うん」
ゆっくりと絡んでいく指。さっきまで、つまずくことなく数式を解いていたその手が、今は俺の手を離さない。
「間山の手はちょっと小さいんだな」
「朝宮の手がでかいんだよ。俺の手の大きさはふつうで」
「ふつう、ね」
手を繋ぐという行為とはまた違う。だからなのか、いちいち心臓に悪い。
朝宮に触れるだけで、俺の思考は簡単に朝宮でいっぱいになる。
「……もし、さ」
「ん?」
「もし……最初の席替えで、俺と前後じゃなかったら……朝宮とはこういう関係になれなかったのかな」
後ろから回ってきた告白のプリント。あれを最初にもらったときは驚きしかなかったけど、今になって思う。あれがあったから、俺たちは付き合うことができた。
「どの席になっても、告白はしてたと思う」
「え?」
「間山が俺の前に座ってるのを見て我慢できなくなったってだけで、告白はしてたよ。間山のことが好きだったから」
真顔だからこそ、その真剣度合いがストレートに伝わってくる。
「だけど、席が前後でよかった。そうじゃなかったら、これだけアピールはできなかったし」
「……それは、ありがとう」
「ありがとうなんだ」
「それは、そうだろ。朝宮が俺のこと好きになってくれるだけじゃなくて、……ちょっかいとか、ああいうのされてうれしかったから」
戸惑うことも多い反面、嫌だと思うことは一度だってなかった。
それは付き合う前から朝宮が俺のことを大事にしてくれていたからだ。
朝宮の人柄に惹かれるようになって、気づけば恋になっていた。
「……だから、俺も朝宮と席が前後になれて本気でよかったって思う」
「はい、可愛い、逮捕」
絡んでいた指は、今は隙間を埋めるように繋がれている。
「やっぱり家だったらふつうに襲ってた」
「お、襲っ……!?」
「大丈夫、間山が学校を選んでくれたから、そうならずに済んだ」
一瞬でも朝宮の家に……なんて思ってしまったけど。そこまでは考えていなかった。
「じゃあ、朝宮の家には行ってもいいの?」
「……間山、今の流れ聞いてた?」
「へっ!? あ、その……そういう意味で言いたかったわけじゃなくて。朝宮の家って、誰も行ったことないって聞いたことあったなと思って」
ああ、と朝宮は納得したようにうなずいた。
「たしかに誰も呼んだことない」
「やっぱりそうなんだ。家に人を入れたくないのかなと思って」
「それはそうだけど、間山は別」
「え?」
「間山なら、毎日でも俺の家に来てほしいぐらい」
「そ、それは……さっきの流れもありまして」
しどろもどろになりながら答えると、ふっと、朝宮特有の笑いが聞こえる。
「じゃあ、言わないほうがよかったかも」
そうして、意地悪な笑みを浮かべるものだから、俺としては気が気じゃない。
「……でも、いつかは行きたい、です」
「ん、いつでもどうぞ」
朝宮の家に行ける日が来たら――そのときは、きっと。
そんなことを思いながら、ふと視界の端に映り込んだ問題集を見て、この時間がなんのためにあるのかを思い出した。
俺の視線を追ったのか、朝宮も同じように手元を見た。
「やりますか」
「……はい」
残念そうに離れていく指。でも手には、熱いぐらい朝宮の体温が残っていた。
了



