席替えしたら、どうやら後ろの男が俺のこと好きらしい

 文化祭も終わり、日常が戻ってきた。
 それはいい。ただ、困ったことがひとつだけ。
「勉強教えようか」
 前の席に座る朝宮から提案を受けたのは、中間テストが来週に迫っていることを知って絶望していたときだった。
「え……いいの?」
「俺でいいならだけど」
「朝宮以外誰がいるんだよ!!」
 俺は知っている。去年だってほとんどの成績が最高点だったことを。この前の一学期の期末テストで、成績がトップ3だったことを。
 成績表に朝宮光星という名前を見つけて、思わず写真を撮ってしまった。
 俺の名前が載ることは絶対ないけど、朝宮の名前が載っているとうれしい。
 そんな俺を、横から撮影されていたことに気づいたのは後々で、朝宮は自分の成績なんて興味がないらしい。
「朝宮がよかったらお願いしたい」
「ん、いーよ」
「じゃあ、場所は――」
 ふと、自分の家を思い浮かべた。
 きっと天が朝宮と会ったら、しつこく話しかけてきそう。
 かといって、朝宮の家は……どうなんだろう。金持ちだとは聞いたことあるけど、誰も朝宮の家に行ったことはないらしい。
 人を入れたくないなら、行きたいって言わないほうがいいよな。
 ……それに、行ったら勉強どころじゃなくなる気もする。
「場所は?」
「えっ、あ……きょ、教室とか?」
「じゃあ、放課後ここで」
「う、ん」
 そうして、教室に居残り朝宮から勉強を教えてもらうことになったけど――。

「間山、どこが分からない?」
「……全部です」
 目の前に広がる数学の問題集には、呪文のような数字がいくつも並んでいる。
「分かった、じゃあまず等差数列の問題からやろう」
「よろしくお願いします」
 深々と頭を下げる。ここは朝宮の頭の良さに甘えて、しっかりと勉強させてもらおう。いい点数を取れば、朝宮がくれたこの時間も無駄にならないはずだ。
 意気込んで少し前のめりになったとき、ふわっと朝宮の匂いがした。香水とかじゃなくて、柔軟剤の香りみたいな。