席替えしたら、どうやら後ろの男が俺のこと好きらしい

 ああ、そういうところに惚れていたんだっけ。
「何逃がしてんだよ。お前ほんとうざい――」
 間山に向かって振り上げられた男の手を、思いっきり掴んだ。
「なに触ってんだよ」
 怒りで支配される。じわじわと広がっていく敵意を、どう消化させようか。男が喚いている。でも何を言っているのか聞こえない。
「朝宮」
 それなのに、間山の声だけは鮮明に、浸透していくように聞こえた。
「朝宮」
 もう一度呼ばれ、それから間山を見た。何かを懇願するような瞳。大丈夫だから、と口の形が言った。
 大丈夫じゃないだろ、その顔。なんで無理して笑おうとすんの。
「朝宮、手、離そう」
 そっと、俺の手首に間山の手が伸びる。ガラの悪い男を掴んでいた手だ。
 離せ、とはこのことだったのか。間山の指示通りに動けば、目の前の男は俺をきつく睨んでその場を去っていく。
 間山は女子にお礼を言われていた。「俺は何もしてないよ、こっちの朝宮が助けてくれたから」とまだ笑おうとする。そんな余裕ないくせに。
 だって、俺の手を掴んでいる間山の指は震えているんだから。
「朝宮、大丈夫?」
 女子も立ち去ると、間山が俺を見た。一体誰が言ってるんだと口をついて出そうになってしまった。
 どこまでも自分ではなく、他人を優先してしまうその癖は、どうしたらなくなってくれるのだろうか。
 ようやく周りのざわざわとした雑音が戻ってきた。ここには、好奇の目で見てくる奴しかない。
「こっち」
 間山を連れて廊下を歩く。行き先なんてどこにもない。どこに行けば間山とふたりきりになれるんだろう。この空間から、間山だけを切り取ることができるんだろう。
 どこか、どこか。そうして探し出した先に、出し物をしていない教室を見つけて入った。鍵を閉めれば、間山は「え」と声を出していたけれど、今はゆっくりとその戸惑いをほどいてやれるほどの余裕がない。
「触りたい」
 間山に遠慮なくぶつける。本当は、そんなことさえ聞かずに抱きしめてしまいたい。
「……俺は、ずっとそう思ってたよ」
 恥じらいながら、顔を真っ赤にさせた恋人に、ぷつんと頭の中にある何かが切れた。
 まずは左手を掴んで抱き寄せ、もう片方の手で小さな後頭部に手をそえた。さらりとした髪が俺の指の間に入り、「あさみや」と艶のある声で呼ばれてしまえば、残っていた理性はかき乱される。
「俺も、朝宮に触っていい?」
「なんで聞くの」
「一応、朝宮が聞いてくれたから」
「いいに決まってるでしょ」
 そう答えれば、こわごわと間山に抱きしめられた。ああ、可愛い。どうして俺の恋人はこんなにも可愛くて仕方がないのだろう。だめだ、いろいろ爆発しそう。
 外からは文化祭で賑わう声が聞こえてくるのに、ここには俺たちふたりだけの世界があるような気がして、ずっとこのままだったらいいのにと思ってしまう。