席替えしたら、どうやら後ろの男が俺のこと好きらしい

 でも、付き合ったその先を、俺は知らない。
 一緒に帰ることは定番になるとは思うけど、そこで手を繋いだりするのだろうか。朝宮の手に触ったことはあっても、握るという行為は今までなかった。
 もしかしたら朝宮は、人の目がある場所で手を繋ぎたいと思わないタイプかもしれない。だとしたら変に意識するのはやめよう。
 ただ、触れてほしいとは思ってしまう。
 せめて人の目がないところでもいいのなら、俺は朝宮が持つ体温に触れていたいと思うし、できることならそれは長く持続してほしい。
 昨日も、家に帰ってから何度も朝宮の腕の中を思い出しては枕に顔をうずめた。
 朝宮がやさしく触れてくれるのは好きだけど、強引になる瞬間も好きだ。そういうことをこれから何度も経験するのだろうか。俺だけしか知らないような顔がこれからたくさん見られるのだろうか。
 頭の中で思い起こされる記憶は、ついには夢の中でも続き、俺はそこでも朝宮に抱きしめられていた。
 目覚めて、すぐに朝宮との関係を確認するぐらいには、俺にとって幸せなものだった。
 だから緊張はしても、これからはそういうことが増えていく覚悟はしているつもりで。
 なんて、こんなことを考えているのは俺だけなんだろうか。
「間山」
 ひとりで勝手に悶々としていたら、あっという間に放課後になっていた。思っていた以上に、朝宮の後ろの席を満喫している自分がいる。朝宮が振り向いて俺を呼んでいた。
「今日一緒に帰れる?」
「えっ、あ、帰れる」
 ついでに予定もないから一緒にいられる、と言おうとしてやめた。
 最寄り駅まで歩いている間、「アイスはどこで食べるのが一番うまいか」という謎の討論会が始まった。
「学校帰りとかいいと思うけど、朝宮は?」
「いいね。俺はこたつで食べるのも好きだけど」
「こたつかあ。朝宮の家ってこたつあるんだ」
「いや、ない。ばあちゃん家で食べてたなと思って」
 そっか、朝宮っておばあちゃんとかいるんだな。当たり前だけど、そういう家族の話を聞けるのは単純にうれしい。
 その間、何度か朝宮の手の甲とぶつかったけど、俺たちは手を繋ぐことなく歩いていた。そのことが妙に寂しくて、けれども繋ごうとも言い出せない。
 駅に着いてしまえば、俺たちはここで解散することになる。ああ、嫌だな。もう少し一緒にいたかったのに。
でも、そんなこと言ったら、朝宮を困らせるだろうか。それともドン引きされるだろうか。……いや、それはないか。
 少なからず、好印象な反応は返ってくるとは思うけど。
「じゃあ、明日」
 と手を挙げた朝宮の、もう片方の手を俺は掴んだ。引き止めるように、まだ一緒にいたいと伝えたいがために。
「……間山?」
「もう、帰んの?」
 必死で紡ぎだしたなけなしの勇気は、朝宮を多少なりとも驚かせることになったらしい。でもこれ以上は限界だ。変に言葉を繋げたりできない。だから伝わってほしい。
 俺が言いたいことを。望んでいることを。