席替えしたら、どうやら後ろの男が俺のこと好きらしい

「いや、あの視線は感じるかもしれないけど、そこに変な意味はないから」
「きょどりすぎ」
 目を細めて笑うその姿にノックアウト。ふつうにやばい。多分この席、俺の理性が保てないような気がしてならない。
「……離れなくてよかったな」
 ん、と簡潔に朝宮は答えたけど、その顔は心底嬉しそうで笑ってしまった。
 なんか子どもみたいだな、朝宮って。
 余裕そうなところばかり見てきたけど、こういう一面も持っているのかと思うときゅんとしてしまう。
 きゅん、とか思ったりするんだな、俺。
「朝宮が前の席でよかった」
「俺は後ろの席がよかったけど」
「そうなの?」
「この席だと授業中に間山が見れない」
 それはそうだ。俺もこれまで、朝宮が見えていたわけじゃない。でもそうか。そのときはまだ、朝宮を好きになる前だったんだ。
 好きを自覚してから、朝宮が見えない場所にいるってなんかイヤかも。
「じゃあ休み時間は、こうして一緒にいよう」
「……」
「朝宮?」
「なんで俺の恋人って犯罪級に可愛いんだろう」
「ま、真顔で言うことか?」
「ガチだから。はあ、授業中もこうして後ろ向いてようかな」
「さすがに注意されるだろ」
 そうは突っ込むけど、注意されるぐらい朝宮はなんとも思わないんだろうな。たぶん、本気で後ろ向く度胸ぐらいはある。
「ふふ」
 つい笑みがこぼれてしまう。
「なんで笑ってんの」
「いや、席替えだけで情緒不安定になったなって」
「俺たち以外でもすごい盛り上がりようだったからな」
 阿鼻叫喚が生まれるこのイベント。男子校だからか野太い声が響き渡り、隣の教室にいた教師が「うるせえ!」と一喝しに来た。何事かと思うのではなく、慣れた様子なのも日常だ。
「さっきまでの絶望が嘘みたい」
「間山すごい顔してたもんな」
「朝宮は違った?」
「俺は死活問題だったよ」
「俺より深刻じゃない?」
 席替えでこんなに騒いでいたら、クラス替えはどうなるんだろうか。想像してしまい、もし別々になったらと思うと気分が落ちた。
 俺はずいぶんと欲深くなってしまったらしい。でも、できれば朝宮とは三年でも同じクラスでいたいし、席も近いほうがいい。
「席替え落ち着いたな? よし、じゃあ三者面談の用紙、後ろから回してこい」
 そんなもんあったっけ、と思い返しながら、そういえばもらっていたなと思い出した。
 朝宮に回そうとして、ふと机の中にしまっていた黄色い付箋を取り出す。
 ……どうか、このまま担任の元までいきませんように。
 祈りながら恐る恐るプリントを回した。
 朝宮は俺からプリントを受け取り、そのまま前の奴に回そうとしたけど、何かに気づいたように動きを止めた。
 少し経って、それから朝宮が勢いよく振り返った。
「真似されると思わなかった」
 その手には黄色い付箋。俺が書いたものは回されることなく、朝宮の手元でとどまってくれた。
【好きなんだけど】
 朝宮が初めて書いてくれた言葉に寄せたつもりだったけど、今になって思えば、浮かれ度合いがそこにまざまざと出てしまっているような気がする。
 俺ってこんなことする人間なのか。それは朝宮と思いが通じ合わなければ知りえなかった自分の一面だ。
「気づいてもらえて助かった」
「これを前に回してたら、俺が俺を許せなかっただろうな」
 朝宮は付箋を回収してプリントを前に流した。それから、大事そうに付箋を見つめ直し、スマホを取り出す。おもむろに透明なケースを外すものだから、何をするのだろうかと眺めていれば、付箋が見事に収納されることになった。
「は!?」
「ん?」
「な、なんでそんなところに貼るんだよ」
「いつでも見えるところに」
「やめろって……」
 こいつ、好きな奴とのプリクラとかもここに貼りそうだな。いや、好きな奴って俺か。
 なんか、ほんとうに付き合っているみたいだな、と馬鹿みたいに実感して。何度味わっても満たされることがないような幸福感が広がっていく。