席替えしたら、どうやら後ろの男が俺のこと好きらしい

「この前したばっかじゃん」
 常川田が正論を言い出すが、「俺が飽きたんだよ」と教師らしくないセリフを堂々と言い放ち、有無を言わさない速さで席替えの展開へと決まってしまった。
 どうしよう、もし朝宮と席が離れたら。
 思えば、ここって無条件に朝宮と近くにいられる場所だったんだよな。
 好きで、付き合えたばかりなのに、まさかこんなことになるなんて、俺って運なさすぎだろ。
 朝宮はどう思ってんだろ。俺と同じかな。それともあっさりしてんのかな。
 聞くに聞けず、朝宮からも話しかけられることはなかった。
 席替えへのブーイングがなかったわけではないが、主に最後列の奴たちが躍起になっていただけで、多数決の結果でいえば却下された。
 俺も反対派に回ろうと思ったけど、朝宮が何も言わないところを見ると、出しゃばることもできなかった。
 ……俺たち、離れ離れになるんだぞ?
 本当にこのままでいいのか?
 なんて。
 都合がいい。こんなときでさえ朝宮から動いてくれないかなと期待ばかりしている。いつだって朝宮から動いてくれていたのに。
 深呼吸をする。俺は離れたくない。朝宮から。
 意を決して振り返ると、いつも通り頬杖をついた状態の朝宮と目が合った。
「朝宮……俺、」
「ほら、くじ引いてねえやつ、さっさと前に出ろ」
 勇気を振り絞ったつもりだったが、その声は担任によってかき消されてしまった。
「間山?」
「……なんでもない」
 伝えたところでどうなる。席替え嫌だよおと嘆くだけの男はみっともない。
 どれだけ足掻いたところで決まってしまったのだ。
 離れても仕方がない。俺が朝宮の席まで行けば解決するだけの話だ。うん、なんの問題もない。
 なぜなら俺たちは付き合っているのだから。
 その想いさえあれば、端と端に離れていようが、どうとでも乗り越えていける。
 ――その、はずだった。
「……まじか」
「俺の運、ここで尽きてもいい」
 結果、席替えしたら、今度は前後が逆になった。
 元・朝宮の席に俺が座り、元・俺の席に朝宮が座っている。前に朝宮が座ってんのはなんか変な感じだ。
 もう終わったと思っていたのに、俺はまだツイているらしい。
 目の前には大きな背中と、サラサラした黒髪。
 ああ、朝宮だ。
 当たり前なのにそんなことを思ってしまうぐらいには浮かれていた。
 好きな人が前にいる。手を伸ばせばいつでも触れてしまえる。こんな距離で本当に大丈夫なんだろうか。俺は冷静さを保つことはできるんだろうか。
 しばらくぼうっと朝宮の後ろ姿を眺める。
 そっか、ずっと見てられるな、ここって。
 朝宮の後頭部とか、こんなまじまじと見たことなかった。後ろ姿でもイケメンって分かるんだな。つーか、この席って朝宮のこと見放題じゃん。
 さっきまで自分のことを情けないと思っていた時間はなんだったのか。
 今では席替えができたことに感謝している。ありがとう、担任。ありがとう、多数決。
「すげえ視線感じるけど」
 朝宮が振り返る。だめだ、好きだって自覚してから、朝宮が何倍もかっこよく見えて仕方ない。こんなにもキラキラしてたか?