席替えしたら、どうやら後ろの男が俺のこと好きらしい

「夢、じゃないよな?」
 目覚めてすぐ、昨日のことを思い出す。ワンチャン熱さにやられた妄想だったってこともある。
 慌ててスマホを開くと、いつもならまだ寝ている時間だった。朝宮とのトーク画面を見れば、昨日のことが妄想ではなく事実だったことを裏付けるように、「好きだよ」という朝宮からの連絡が届いていた。
 どうやら本当に朝宮と付き合うことになってしまったらしい。
 今でも思い出す朝宮のしっかりとした腕。抱きしめられたときに香った朝宮の匂いが今でも忘れられなくて、思い出すと変になってしまう。変態は榊だけで十分だ。
 おはよう、と送れば既読はつかなかった。まだ寝ているのかもしれない。
 というか、ナチュラルに、おはようなんて送って大丈夫だったのか……?
 送ったあとに気づいて送信を取り消そうとし手が止まる。変なことを送ったわけでもない。このままにしたほうがいいんじゃないかと悶々とする。
 あの朝宮に、ついに告白をしてしまった。そして結ばれてしまった。
 ……というところまではよくて。
 俺はつまり彼氏持ちになったということだろうか。付き合うということで間違いはないと思うけど、だからといってひとり浮かれるのも避けたい。
 朝宮はどんな顔で今日学校に来るんだろう。
 いまだ既読にならない画面を見ては、眠っている朝宮を想像する。どんな寝顔なのだろう。そんなことを考えたところでぶんぶんと頭を振る。
 早く朝宮に会いたい。その気持ちだけで制服に着替えた。
 それから、いつもより一時間も早い電車に乗って学校に向かった。
 今までの高校生活で一番のりを初めて経験した。
 誰もいなかった教室に、続々と人が入ってくるたびに、朝宮なんじゃないかと期待しては落胆する。
 そういえば朝宮っていつもギリギリに登校してたな。今日に限って早く来たりしないのか。なんて期待したが、朝宮が現れない。
 途中で榊に「俺ってどのあたりがかっこいい?」などという謎の質問を向けられ、面倒だから「全部」と答えれば満足そうに戻った。
 俺を見たら朝宮はどんな顔をするんだろう。そればかりで頭がいっぱいになる。
 付き合っていたら、特別な挨拶とかあるのか。いや、そんなもの聞いたことない。
 誰かと付き合った経験がないから分からない。朝宮に任せればいいのか。
 あれやこれやと考えていたら、朝宮はいつも通りの時間にやってきた。
 朝宮の顔を見た瞬間、会いたいとか好きだとか言いたかった気持ちよりも、恥ずかしさのほうが増幅して、ぐいんと前を向いてしまった。
「おはよ、間山」
 朝宮の声がして「お、おは」と意味不明なところで区切った挨拶をしてしまう。後ろから、ふっと笑う声がして恥ずかしい。意識しまくりなことがバレバレだ。
 だから、正直浮かれていた。好きな人が後ろの席にいるという幸せで満ち足りた生活が、まさか担任の気まぐれで、絶望へと突き落とされるとは思いもしなかった。
「席替えするぞー」
 席替え。その言葉を聞いた瞬間、俺の思考は全て止まった。
どうか聞き間違いであってくれ。そうじゃないと一生恨んでしまうかもしれない。
「席替えな、よし席替えだ」
 だめだ、念押しされるように席替えを表明された。この教師は本気だ。恨むしかない。
 担任に悪意がないのは分かっているが、納得いかない。