席替えしたら、どうやら後ろの男が俺のこと好きらしい

「あ、うさぎさんに短冊もらうの?」
 例の美人さんがイベントスタッフの説明を受け、俺の元へと寄ってくる。
「二枚ください」
「おい、俺の分入ってないよな」
「もちろん入ってるに決まってるじゃん」
 悪態をつく朝宮は、呆れた様子だ。常川田や榊と一緒にいるときよりも、言葉に乱暴さがあるような気もしなくはない。よっぽどこの美人さんと仲がいいのだろうか。
「子どもがやるようなやつだろ」
「そんなことないよ。年齢制限ないし、大人から子どもまでって書いてますう」
 俺と榊を見て、朝宮は気心の知れた仲だと言った。でも俺から見れば、このふたりの関係こそ、まさしくその言葉がぴったり当てはまるように思う。
「俺は書かないから」
「書いてよ、なんでもいいんだから」
 これ以上ふたりの会話を聞いていたくなくて、テントを出て短冊を道行く人に配りまくる。誰でもいい。とにかく書いてほしい。そして朝宮の願いを見えないようにしてほしい。
 あと五分のはずなのに、どうしようもなく長く感じる。この場所から早く立ち去りたい。
 朝宮は美人さんとまだ何かを書いていた。
 ああいうのを見たくないって思う俺って心が狭いのかな。朝宮が誰といようが、そんなの俺には関係がないことなのに。
 ツンツンと押され振り返ると、イベントスタッフが時間だと教えてくれた。
 俺はいそいそと関係者スペースに入り、外から見えないことをしっかりと確認して、着ぐるみを脱ぐ。
 暑くてどうにかなるかと思った。それはきっと朝宮のせいでもあるけれど。
 ……あれ、俺って朝宮に告白するつもりでいたよな。
 その意気込みがすっかりなくなってしまっている。
 一度は決めたことなのに、たまたま彼女といるところを見かけたからって、うじうじするなよ。
 と自分に喝を入れたところで、さすがにあの美人さんには敵わない。
「……水、どこやったっけ」
 肝心の水分補給をするためのペットボトルが見当たらない。きっとテントに忘れてきたんだ。
 戻れば、朝宮と美人さんはいなくなっていた。それよりも、俺が無心に短冊を配ったせいか、イベントスタッフに「むやみに配るな」と小言を言われてしまった。
 さっきよりも増えた短冊が、夏風でひらひらと舞っている。
 この中に朝宮の短冊もあるんだろうな――。