席替えしたら、どうやら後ろの男が俺のこと好きらしい

 ようやくまともな息が吸えた感覚になり、気が楽になる。やっぱり俺には女の子と楽しく遊ぶとかは向いていない。そもそも、どうしたら楽しんでもらえるかさえ考えられないんだから、モテないの一言に尽きる。
 プラスチックのグラス片手にドリンクバーの前へと向かっていると。
「ねえ、さっきの人ってSNSで見たことない?」
 突然聞こえてきたその声に足を止める。この角を曲がればドリンクバーだけど、おそらくその前には先客がいる。
「私も思った。友達がイケメンすぎるってアカウントの人でしょ?」
「そう! レベチすぎてふつうに好きなんだけど」
「彼氏いるじゃん」
「なんていうか別枠で」
 楽し気なその会話。普段なら気にしなかったはずなのに、前に朝宮をSNSで見たから過剰に反応してしまう。
「北高の人だったよね。頭だけじゃなくて顔の偏差値も高いんだね」
「友達に朝宮って呼ばれてたよ」
 ……あの男は、どこまで騒がれるんだ。
「付き合うとかは無理だから写真だけでも撮ってもらえないかな」
「あ、投稿する気しかない顔」
「ちょっとバズってくれたらうれしいじゃん」
 朝宮を自慢したくなる気持ちはすごく分かる。そういう男なんだよな、朝宮って。
 でもさ、ちょっと違うような気もする。
 朝宮は写真や動画を嫌うし、自分でもSNSをやらないぐらいには徹底してたりもした。
 きっと、こういうことが日常的にあるからなのだろう。 
人を魅了する朝宮と俺では、やっぱり住む世界が違う。
 違うけど、でも、朝宮のいいところってもっとたくさんあるはずなのに。
「そろそろ戻ろ」
 女の子の声が聞こえて焦る。まずい、このままだと話を聞いてたみたいな感じになる。死角になっていたとはいえ、何も気にせずドリンクバーに行けるだけの覚悟もない。
 ひ、ひとまず退散しよう。
 くるりと振り返ったところで、真後ろになぜか朝宮がいた。
「ひっ!?」
 持っていたグラスを落としそうになった。
「あ……朝宮」
 何を考えているのか分からない顔でイケメンが立っていた。ズボンのポケットに手を突っ込んでいる姿がサマになる。かっこいい奴は何をしていてもかっこいいことには変わりないらしい。
 いや、それよりも、もしかしてあの子たちの話を聞いていたんじゃないのか。
 だとしたら気分良くないだろうな。女の子たちがここを通ったら……と思ったけど、一向に誰かが通る気配もない。
 どうやら反対側の通路を使って部屋に戻ったようだ。
 はあ、っとどっと疲れが押し寄せる。
「ええと、朝宮も飲み物?」
「いや、間山が戻ってくんの待ってた」
「え……?」
 俺が戻ってくるのを?
「で、間山見つけたけど、なんか固まってるからそれ見てた」
「恥ずすぎんだろ……!」
 盗み聞きしてる姿を見られるとか、どう考えても気まずい。しかも内容は朝宮のことだ。
 そうじゃなくても、朝宮に「バカ‼」と言い逃げしたあの日から、会うのは久しぶりだ。