あのとき、榊にチラシを奪われた俺は、意地でも手伝わせるべきではなかった。
「……カラオケ」
「チッチッ、ただのカラオケじゃなくて合コンカラオケ」
合コンなどという響きとは、一生無縁だと思っていた。俺が行くような場所ではないし、仮に行ったとしても学校と同じく俺は空気と化すだけだ。
チラシを配り終えた直後、榊にそのまま連行された。ケーキを買ってくれるというから大人しくついてきたのに、合コンと知っていればもう少し抵抗した。
今思えば、榊がマンションから出てきたのは合コンに向かうためだったわけだ。
妙に香水くさいとは思っていたけど、女の子に会うためだったのか。
榊の後ろには、今日集められたメンバーがいた。地元の友達だと言っていたけど、陽気なメンバーしかいないのか入店前からソワソワしていた。
「やべえよ、今日って崎校だろ」「お嬢様じゃん」「やべ、香水つけすぎた」「お前出禁」
そんな会話が聞こえてくるたびに、回れ右で即座に帰宅したかった。
「こんなの聞いてないって」
「言ったら来ないっしょ。そもそも間山のためでもあるんだから。女を知りたいって」
「言ってないから!」
そうこうしている間にも、今日のお相手である女の子たちがやってきてしまう。いかにも明るそうな子たちで「今日ずっと楽しみで」と華やかに笑う。男子校にはない空気感だ。
榊に、がしっと肩を組まれ、いよいよ逃げ道を失う。なんでこんなことになったんだ。
最初から和気あいあいとした時間で、これからどうなるのかと思っていた矢先。
店に入った瞬間に空気が一気に変わった。
ちょうど受付にいる二人組には見覚えがある。
「うわ、まじか」
誰かがぼそっと呟いた。榊のお仲間だ。その声で振り返った受付の二人組が俺を見て目を見開く。
そこには朝宮がいて、隣には常川田も一緒だった。
片や俺はというと、榊にしっかりとホールドされた状態で、後ろには女の子たちがいる。どこからどう見ても合コンだと分かるようなシチュエーションだった。
「あれ、榊と間山だ」
先に口を開いたのは常川田だ。
「榊、何回も連絡したんだけど」
「重要ミッションがあったんだよ、なっ?」
俺に話を振るな!
これじゃあ共犯みたいじゃないか。
「今の人たちかっこいいね」「心臓止まるかと思った」
そんな会話が聞こえてくるたびに、榊集団は肩を落とす。榊だけは「学生八名のフリーパックで」と慣れているのか受付を済ませていた。
「え、いいなあ。俺も一緒がいい!」
常川田の提案で、榊が「んじゃあ十名で」とあっさり変更する。
朝宮を見ると、一瞬目が合ったけど、すぐに逸らされてしまった。
このタイミングで顔を合わせるのは気まずい。
部屋に着いてからも朝宮のことばかり気になって、自己紹介では失敗して「間山です」以外は何も言えなかった。
それを榊が「合コン初めてで緊張してんの」とフォローしてくれたけど、正直お礼を言える余裕もなかった。
「じゃあトップバッター飾りまーす」
全員の挨拶が終わると、榊は意気揚々と歌を入れ始める。
大人数だったこともあり、朝宮とは座る場所が離れた。つまらなさそうにスマホを見ている。ってか朝宮もカラオケに行ったりするんだな。まあするよな。つーか朝宮って歌うのか?
「ほら、そっちも入れろ」
隣に座っていた男に機械を渡され、思わず受け取ってしまう。
「え……」
いや、カラオケなんて人生で来たことないのに歌えるわけない。
戸惑っている間にも、すでになんとなく男女の組み合わせができてきて、榊は早速女の子からアプローチされていた。なのに「俺、この歌得意なんだよ」と熱唱し始める。歌を聞かせたいというよりも自分が歌いたいという気持ちのほうがデカいらしい。
常川田も女の子慣れしていて、コスメの話で盛り上がっている。
朝宮とも話したい女の子はいそうだけど、朝宮自身が壁を作って、誰も近寄れない。
正直、この中で俺と話したいと思ってくれている女の子はいなさそうなので、機械をこそっとテーブルの上に置いて部屋を出る。
「……カラオケ」
「チッチッ、ただのカラオケじゃなくて合コンカラオケ」
合コンなどという響きとは、一生無縁だと思っていた。俺が行くような場所ではないし、仮に行ったとしても学校と同じく俺は空気と化すだけだ。
チラシを配り終えた直後、榊にそのまま連行された。ケーキを買ってくれるというから大人しくついてきたのに、合コンと知っていればもう少し抵抗した。
今思えば、榊がマンションから出てきたのは合コンに向かうためだったわけだ。
妙に香水くさいとは思っていたけど、女の子に会うためだったのか。
榊の後ろには、今日集められたメンバーがいた。地元の友達だと言っていたけど、陽気なメンバーしかいないのか入店前からソワソワしていた。
「やべえよ、今日って崎校だろ」「お嬢様じゃん」「やべ、香水つけすぎた」「お前出禁」
そんな会話が聞こえてくるたびに、回れ右で即座に帰宅したかった。
「こんなの聞いてないって」
「言ったら来ないっしょ。そもそも間山のためでもあるんだから。女を知りたいって」
「言ってないから!」
そうこうしている間にも、今日のお相手である女の子たちがやってきてしまう。いかにも明るそうな子たちで「今日ずっと楽しみで」と華やかに笑う。男子校にはない空気感だ。
榊に、がしっと肩を組まれ、いよいよ逃げ道を失う。なんでこんなことになったんだ。
最初から和気あいあいとした時間で、これからどうなるのかと思っていた矢先。
店に入った瞬間に空気が一気に変わった。
ちょうど受付にいる二人組には見覚えがある。
「うわ、まじか」
誰かがぼそっと呟いた。榊のお仲間だ。その声で振り返った受付の二人組が俺を見て目を見開く。
そこには朝宮がいて、隣には常川田も一緒だった。
片や俺はというと、榊にしっかりとホールドされた状態で、後ろには女の子たちがいる。どこからどう見ても合コンだと分かるようなシチュエーションだった。
「あれ、榊と間山だ」
先に口を開いたのは常川田だ。
「榊、何回も連絡したんだけど」
「重要ミッションがあったんだよ、なっ?」
俺に話を振るな!
これじゃあ共犯みたいじゃないか。
「今の人たちかっこいいね」「心臓止まるかと思った」
そんな会話が聞こえてくるたびに、榊集団は肩を落とす。榊だけは「学生八名のフリーパックで」と慣れているのか受付を済ませていた。
「え、いいなあ。俺も一緒がいい!」
常川田の提案で、榊が「んじゃあ十名で」とあっさり変更する。
朝宮を見ると、一瞬目が合ったけど、すぐに逸らされてしまった。
このタイミングで顔を合わせるのは気まずい。
部屋に着いてからも朝宮のことばかり気になって、自己紹介では失敗して「間山です」以外は何も言えなかった。
それを榊が「合コン初めてで緊張してんの」とフォローしてくれたけど、正直お礼を言える余裕もなかった。
「じゃあトップバッター飾りまーす」
全員の挨拶が終わると、榊は意気揚々と歌を入れ始める。
大人数だったこともあり、朝宮とは座る場所が離れた。つまらなさそうにスマホを見ている。ってか朝宮もカラオケに行ったりするんだな。まあするよな。つーか朝宮って歌うのか?
「ほら、そっちも入れろ」
隣に座っていた男に機械を渡され、思わず受け取ってしまう。
「え……」
いや、カラオケなんて人生で来たことないのに歌えるわけない。
戸惑っている間にも、すでになんとなく男女の組み合わせができてきて、榊は早速女の子からアプローチされていた。なのに「俺、この歌得意なんだよ」と熱唱し始める。歌を聞かせたいというよりも自分が歌いたいという気持ちのほうがデカいらしい。
常川田も女の子慣れしていて、コスメの話で盛り上がっている。
朝宮とも話したい女の子はいそうだけど、朝宮自身が壁を作って、誰も近寄れない。
正直、この中で俺と話したいと思ってくれている女の子はいなさそうなので、機械をこそっとテーブルの上に置いて部屋を出る。



