席替えしたら、どうやら後ろの男が俺のこと好きらしい

 ふと、斜め前に本屋が見えた。
「あ……ちょっと寄ってもいい?」
「うん」
 足を伸ばしたのは新刊コーナーだ。夏休みということもあり、俺と同じ年代の人たちが本を見ている。
「間山は本読むの?」
「読書家ってわけではないけど、月に一冊ぐらいは読むかな」
「へえ、初めて知った」
 たしかに学校では読んだことがないかもしれない。
 本棚を見ていると、隣で朝宮は目に入ったものを手にとっては眺めていた。
「朝宮も本は読む?」
「間山が読んでるから読もうかなって思ったところ」
 朝宮はどこまでも俺を軸にして考えてくれるらしい。
「間山のオススメ教えてよ」
「俺は……個人的に好きなやつで、朝宮が好きとはならないかもしれないんだけど」
「いいよ。この本を間山が好きなんだなって思いながら読みたいだけだから」
「……じゃあ、これかな」
 照れを隠すように、本を手に取る。
「あらすじとかも見ないで読んでほしい。ふつうに面白いと思うから」
「ありがと」
 そのままスタスタとレジに行ってしまう。本当に、俺がオススメしただけで買ってしまった。
 その後ろ姿をなんとなく眺めていたら、会計をしていた朝宮が振り返った。
「間山、こっち来て」
 呼ばれてレジに行くと、朝宮が俺の顔を見た。
「栞キャンペーンの対象商品らしい。どれがいい?」
「え、俺?」
「間山が欲しいの選んで」
「俺はいいよ。朝宮が使うんだし」
「本読むときは、その辺にある紙をいつも挟んでる」
「その辺って……」
 言われてみれば、俺も栞になりそうなものがなくてティッシュペーパーを挟んだことはある。
「間山のほうが大事に使いそうだから、俺がもらうよりいい」
「……そう?」
 それなら、とひとつの考えが浮かんだ。
 四種類ある栞の中から、夏の星空をモチーフにしたデザインのを選ぶ。
 時期的にも、今が夏だからいいと思ったのもあるけど――。
「じゃあ、間山これ」
「うん、ありがとう」
 朝宮からしっかりと受け取って、それから朝宮に「はい」と渡した。
 返されたことに驚いたように、朝宮が戸惑うような顔を見せる。
「ええと?」
「俺が受け取ってから、朝宮に渡した栞。まあ金出してるのは朝宮だし、本人に返すのはどうかとも思うんだけど」
 手元にある栞。このデザインを選んだのは、なんだか朝宮っぽいなと思ったからだ。
 たぶん、朝宮の名前に星という字があるからだとは思うけど。
「朝宮も大事に使いそうだし。だから朝宮のイメージに合うようなものを選んだ」
「間山が俺に……」
 会計したばかりの本と一緒に、朝宮は大事そうに抱えた。
「分かった、これも俺が死んだら棺に入れて」
「なんでだよ」
 そのときまで、一体何十年あると思っているのか。
 でも朝宮ならずっと持っていてくれそうな気がした。
「初の本屋デートに、間山からのプレゼントか……今日で人生終わってもいい」
「縁起でもないこと言うなよ」
「デートは否定しないでくれるんだ」
「そッ、それは、あの……ツッコミどころが多かっただけで抜けたっていうか」
「うん、そういうことにしよう」
「そういうことじゃなくて、本当に抜けただけで!」
 必死で訴えたところで、朝宮は満足そうに「そうだね」と口にするだけ。
 これじゃあ逆に墓穴を掘っているとしか思えない。
「あ、いた!」
 そのとき、常川田の盛大な声が響き渡ったことで、朝宮との時間は強制的に終わった。
「置いていくなんてひどい! ふたりで楽しんでるし」
「榊は?」
「置いてきた」
「自分が言ってること、矛盾してるって思わねえの?」
 朝宮は呆れたような顔を見せるけど、その手には俺がオススメした本がしっかりと握られていた。