席替えしたら、どうやら後ろの男が俺のこと好きらしい

「……緊張してきた」
 当日、待ち合わせ場所に着いたのは指定されていた時間の十五分前だった。
 友達とどこかに出かけるということが初めてで、あまり寝れなかった。それに、服も悩みに悩んで天に頼ることにした。
『晴が友達と!? 気合い入れないと』
 おしゃれな天がずいぶんと張り切ってくれたおかげで、普段の冴えない私服よりはかなりマシにはなったと思う。
「まあ、天のほうが身長でかいから、服もサイズはあんま合ってないんだけど」
 いっそ制服で来ようとしていたことを考えれば、ひとりだけ浮くことはない……と信じたいけど。
「間山?」
 朝宮の声がして周囲を見渡せば、そこにはゆるめの黒シャツに、同じ色のワイドパンツというシンプルながら長身のスタイルが存分に活かされた服装のイケメンがいた。
「……あ、さみや」
「間山の私服初めて見た。似合ってる」
 俺が言えなかったことを、朝宮は平然と言ってしまう。
「いや、これは天の……兄貴の服で。俺のではないんだけど」
「そうなの? じゃあこれからは俺の服貸すから言って」
「……着れないだろ、素材がよくないと光らない服なんて」
 朝宮の服を借りようものなら、俺がダメにしてしまう気がする。
 それならいっそ高校の制服かジャージを着ていたほうが落ち着く。
「え⁉ 朝宮が遅刻してないんだけど!!」
 そこにエネルギッシュな常川田が登場する。原色を散りばめたパッチワークみたいなシャツに、ピンクのドットソックスと真っ赤なスニーカーというカラフルな服装は常川田によく似合っていた。
「いつも俺たちの約束は遅刻かすっぽかすのに、今日はちゃんと時間前に来てるし」
「間山を待たせるわけにはいかないだろ」
 朝宮が平然と言った。てっきり時間を守る奴だと思っていた。
「間山効果すごすぎじゃん。これから朝宮を駆り出すには間山もセットだな」
「い、いや、俺がいても……」
「間山がいるならどこでも飛んでく」
「あはは、飛んでくんだって。よかったね、間山」
 果たしてそれは「よかった」のか?
「うーっす……は? 朝宮が遅刻してない」
 そして遅れてやってきた榊は黒地に白い花柄の開襟シャツをラフに着こなしていた。よかった、天の力を借りなかったら俺だけ場違いでしかなかった。
「榊、そのくだりは終わったんだって」
「なんだ、終わってんのか。じゃあ行くか」
 常川田に言われ、さらりと朝宮がいるという事実は流れていった。
「パパっと用事済ませて遊ぼうよ」
 常川田が先陣を切って進み、俺は一番後ろをついていく。
 買い出し自体は、学校のストックで賄えないものを補充するぐらいで、そこまで大変ではなかった。
「うわあ、かわいい。これは無理だ、買うしかないやつ」
 ある程度買い出しが終わったところで、常川田の長い寄り道が始まった。足を止めるのはこれで三店舗目だ。
榊は少し離れたところで女の子と電話を始めた。
「間山」
「うん?」
 朝宮に呼ばれると、そのタイミングで服の袖を掴まれた。
「抜けよ」
「え、いいの? 常川田困らない?」
「むしろ俺たちの存在忘れてるから。榊もいるから大丈夫」
 大丈夫なんだろうか。いろいろと確信が持てないけれど、ここにいても時間が過ぎていくだけなら、少し抜けても問題ないかもしれない。
「じゃあ、行くか」
 常川田たちが気になりつつも、朝宮とふたりでその場から離れることにした。
「なにか見たいものある?」
「うーん、朝宮は?」
「間山が行きたいところ」
 そう言われてしまうと困る。たとえ行きたい場所があったとしても、朝宮を俺の用事に付き合わせるのもなんか申し訳ない。