夏休みに入る直前で、文化祭の準備が始まろうとしていた。
うちの高校は、九月に文化祭があることから、夏休み期間を使って準備することが多い。
出し物を何にするかで大いに盛り上がり、最終的には、コスプレ喫茶、謎解き、肝試しへと絞られた。
けれどコスプレは何をするか、謎を考えられる秀才はいるのかという疑問から、結果的に肝試しで確定となった。
そこまではよかった。俺はぜひとも裏方として参加させていただきたいと思っていたのに、願いは届かなかったらしい。
「間山はお化け役か」
黒板に書かれた配役を、後ろの席に座っていた朝宮に読み上げられる。
「……朝宮は裏方なんだな。羨ましい」
「そう? 当日も修繕で追われるらしいけど」
「そうなの?」
「例年、荒ぶる参加者に破壊されるって聞いた」
「荒ぶるってどんな奴だよ」
まあでも、裏方は裏方で大変なのかもしれない。お化け役も、衣装集めや裏方の補助として入ることになるらしい。
問題はここからだった。
「可愛い貞子がいてもいいんじゃない?」
衣装係となった常川田の発案により、それもいいとクラスメイトたちが団結を見せ、なぜか可愛い貞子を俺がすることになってしまった。
「最悪だ」
思わずこぼしてしまうと、後ろから「安心していい」と朝宮の声が聞こえて振り返る。
「絶対似合うから」
「……似合わないだろ」
そりゃあ朝宮より体格がいいわけじゃない。でもどう頑張ったって男は男だ。隠しようがないオス感は出てしまうだろう。
それでも常川田は「室内は暗いから」という理由で押し切った。
それなら可愛くしたところで見えないだろうという俺の意見はスルーされ、とんとん拍子で衣装は決まってしまった。
「貞子か。まあイケるな」
同じく衣装係になった榊の発言により、朝宮が怒ったのは言うまでもない。いい加減、その変態キャラはどうにかならないのか。
「間山、当日はどうすんの?」
「え?」
「文化祭。誰かと回る予定は?」
朝宮に聞かれて、ぶんぶんと首を振った。
「ないよ、去年もひとりだったし。今年も出番なくなったらひとりでフラフラすると思う」
「じゃあ一緒にいてほしいんだけど」
「それは全然いいけど……逆にいいの?」
「なんで?」
「朝宮と回りたい人なんていくらでもいるだろうから」
「いない」
「なんで即答なんだよ」
「いたとしても、俺が回りたいのは間山だけだから」
俺だけだと、そう言われて妙に心臓が大きく鳴った。
朝宮にとっては何気ない一言だったかもしれない。
それでも、誰かに「一緒に回ろう」と言ってもらえることも、必要としてもらえることも純粋にうれしい。
「……分かった、一緒で」
「ん」
そう言って朝宮は左手の小指を出してくる。
「指切りしよ」
「え、破らないよ?」
「ただ約束したいだけ」
約束か。そんな可愛いことを朝宮も言ったりするんだ。
朝宮の長い指に自分の小指を重ねると、それはぎゅっと強く握られた。
「じゃあ、約束ってことで」
「歌ったりしないの?」
「間山が歌ってくれんの?」
「い、いや……俺は遠慮させてもらって」
「うん、じゃあこれで」
軽く上下に動いて、それからゆっくりと離れていく。
小指には朝宮の指の形の感覚が残っていて、なんとなくもう片方の手でさする。
朝宮に触れると、なんでか変に意識してしまう。朝宮はいつも通りだから、これは俺だけがおかしいのかもしれない。
「ってことで、買い出しには朝宮と間山にも行ってもらいまあす」
どういうわけだか、何の脈絡もなく常川田が教室で宣言していた。
「何がどうなってそうなるんだよ」
「朝宮、お前は文化祭を心から楽しもうという意気込みはないのか?」
「ない」
「あるよな、そうだと思った。さすが同士。いつ空いてる?」
「空いてない」
「おっけ。じゃあ適当に候補日送っとくわ。間山は……あ、連絡先交換しよ。グループ作るから入っといて」
朝宮の返事なんてまるで聞いていないかのように、常川田がどんどん話を進めてしまう。
ものの数分後には、今週末に高校近くのショッピングモールに買い出しに行くことが決まってしまった。
やっぱりコミュ力ってすごいな。俺も見習いたい。
うちの高校は、九月に文化祭があることから、夏休み期間を使って準備することが多い。
出し物を何にするかで大いに盛り上がり、最終的には、コスプレ喫茶、謎解き、肝試しへと絞られた。
けれどコスプレは何をするか、謎を考えられる秀才はいるのかという疑問から、結果的に肝試しで確定となった。
そこまではよかった。俺はぜひとも裏方として参加させていただきたいと思っていたのに、願いは届かなかったらしい。
「間山はお化け役か」
黒板に書かれた配役を、後ろの席に座っていた朝宮に読み上げられる。
「……朝宮は裏方なんだな。羨ましい」
「そう? 当日も修繕で追われるらしいけど」
「そうなの?」
「例年、荒ぶる参加者に破壊されるって聞いた」
「荒ぶるってどんな奴だよ」
まあでも、裏方は裏方で大変なのかもしれない。お化け役も、衣装集めや裏方の補助として入ることになるらしい。
問題はここからだった。
「可愛い貞子がいてもいいんじゃない?」
衣装係となった常川田の発案により、それもいいとクラスメイトたちが団結を見せ、なぜか可愛い貞子を俺がすることになってしまった。
「最悪だ」
思わずこぼしてしまうと、後ろから「安心していい」と朝宮の声が聞こえて振り返る。
「絶対似合うから」
「……似合わないだろ」
そりゃあ朝宮より体格がいいわけじゃない。でもどう頑張ったって男は男だ。隠しようがないオス感は出てしまうだろう。
それでも常川田は「室内は暗いから」という理由で押し切った。
それなら可愛くしたところで見えないだろうという俺の意見はスルーされ、とんとん拍子で衣装は決まってしまった。
「貞子か。まあイケるな」
同じく衣装係になった榊の発言により、朝宮が怒ったのは言うまでもない。いい加減、その変態キャラはどうにかならないのか。
「間山、当日はどうすんの?」
「え?」
「文化祭。誰かと回る予定は?」
朝宮に聞かれて、ぶんぶんと首を振った。
「ないよ、去年もひとりだったし。今年も出番なくなったらひとりでフラフラすると思う」
「じゃあ一緒にいてほしいんだけど」
「それは全然いいけど……逆にいいの?」
「なんで?」
「朝宮と回りたい人なんていくらでもいるだろうから」
「いない」
「なんで即答なんだよ」
「いたとしても、俺が回りたいのは間山だけだから」
俺だけだと、そう言われて妙に心臓が大きく鳴った。
朝宮にとっては何気ない一言だったかもしれない。
それでも、誰かに「一緒に回ろう」と言ってもらえることも、必要としてもらえることも純粋にうれしい。
「……分かった、一緒で」
「ん」
そう言って朝宮は左手の小指を出してくる。
「指切りしよ」
「え、破らないよ?」
「ただ約束したいだけ」
約束か。そんな可愛いことを朝宮も言ったりするんだ。
朝宮の長い指に自分の小指を重ねると、それはぎゅっと強く握られた。
「じゃあ、約束ってことで」
「歌ったりしないの?」
「間山が歌ってくれんの?」
「い、いや……俺は遠慮させてもらって」
「うん、じゃあこれで」
軽く上下に動いて、それからゆっくりと離れていく。
小指には朝宮の指の形の感覚が残っていて、なんとなくもう片方の手でさする。
朝宮に触れると、なんでか変に意識してしまう。朝宮はいつも通りだから、これは俺だけがおかしいのかもしれない。
「ってことで、買い出しには朝宮と間山にも行ってもらいまあす」
どういうわけだか、何の脈絡もなく常川田が教室で宣言していた。
「何がどうなってそうなるんだよ」
「朝宮、お前は文化祭を心から楽しもうという意気込みはないのか?」
「ない」
「あるよな、そうだと思った。さすが同士。いつ空いてる?」
「空いてない」
「おっけ。じゃあ適当に候補日送っとくわ。間山は……あ、連絡先交換しよ。グループ作るから入っといて」
朝宮の返事なんてまるで聞いていないかのように、常川田がどんどん話を進めてしまう。
ものの数分後には、今週末に高校近くのショッピングモールに買い出しに行くことが決まってしまった。
やっぱりコミュ力ってすごいな。俺も見習いたい。



