数日後の放課後。

教室の布告欄には、体育祭の大隊リレー選手の発表が貼り出されていた。

けれど、葶驀は一瞥もせず、いつも通り教室を出る。校門をくぐる、そのとき――

「どうやって教室を出たの? 一度も気づかなかったから、走って追いかけたよ!」

渃嫣の声が後ろから飛んできた。

「いつも通りだよ」

葶驀の返答は、あまりに淡白すぎた。

「全然存在感ないよね……」

渃嫣は呆れたように嘆息する。

「存在感の定義と単位って何だ?」

葶驀は、まるで本当に疑問に思っているような口調で問い返した。

「知らないよっ!」

二人は並んで歩きながら、しばらく無言になった。

「ほら、私は選ばれたよ。林くんは19番、私は10番」

渃嫣はスマホを取り出し、写真で撮っておいた発表表を見せてきた。

「おめでとう」

葶驀は感情ゼロで告げた。

それが余計に気に入らなかったのか、渃嫣はむすっと唇を尖らせる。

「ねえ、先にあのコンビニまで競争しようよ。負けたら飲み物奢って!」

そう言い終えると、渃嫣はすぐに走り出した。

どうやら、こうすれば葶驀でも追いつけないと思ったらしい。

コンビニは学校からそれほど遠くない場所にあったため、二人はすぐに到着した。

葶驀は店に入り、冷凍庫からアイスキャンディーを二本取り出した。

会計を済ませると、イートインスペースの一角に座った。

しばらくして、飲み物を手に戻ってきた渃嫣が、葶驀の前にカップを置いた。

「ほら、あげる。」

渃嫣は明らかに不満そうな顔をしながら、飲み物のボトルを葶驀に投げ渡した。

「フライングしたのに負けるなんてね。」

葶驀はそう言ったが、顔には笑みも怒りもなく、ただ何を考えているのか分からない表情を浮かべていた。

「うるさい!」

渃嫣はわざと怒ったふりをして言った。

葶驀は、自分の持っていたアイスキャンディーを差し出した。

「はい、アイス」

翠綾は驚いた表情を浮かべ、信じられないというような目で術潭を見つめた。

「クラスの大隊リレーの代表になったお祝いってことで」

術潭は淡々とそう告げた。

翠綾はアイスを受け取り、それを見つめながら、何か言いたげに口を開きかけた。

「どうかした?アイス苦手だった?だったら、代わりに俺が食べようか」

術潭が不思議そうに聞く。

「ううん、違うの。ただ、その……体育祭の日、時間ある?行きたい場所があるの。」

翠綾はどこか恥ずかしそうに、ためらいがちにそう言った。

葶驀は、特に予定もなかったし、学校行事を避けているわけでもない。

「空いてるよ」

いつもの口調で、そう答えた。