その空を明けるのは

 それから始発を待つ数時間、少しお互いのことを話した。俺の好きな特撮のシリーズ、変身形態、好きなシーン。七海は特撮のことは全くと言っていいほど知らなかったが興味深そうに話を聞いてくれた。

 きっとその魅力は半分も伝わっていなかったと思う。だけど、俺が特撮をどれくらいの熱量を持って好いているのか、それだけの魅力が特撮にはある、と。それくらいはきっと伝わったはずだ。

 俺の話以外にも七海の話を聞いた。ここに来た理由は友達とケンカしたから。友達の言い分も分かるけど許せなくて衝動的に怒ってしまったこと。でも、大好きだから明日しっかり謝ると決めたこと。

 夜の淋しさを紛らわすようになんでもない会話がずっと続いた。時期に空が白みだす。もう、俺の心は曇っちゃいない。

 朝日が昇りだすとようやく電車が来た。たった二人に思えた世界はもう一度人の営みを取り戻す。まだほとんど誰も乗っていない車両に俺たちは乗り込む。

「頑張ってこい」

 俺が最寄りで電車を降りた後、七海は拳を俺に向けて言い放つ。

「おう」

 閉まる車両に向かって俺も拳を返した。にかっと笑った七海の表情が俺に力を与えてくれる。

 少し歩いて家の玄関前にたどり着く。ただいま、といつも帰っていたドアが少しだけ重い。やっぱり逃げてしまおうか、弱い自分がそう囁く。でも、逃げたって何も変わらないから。母さんに分かってほしいから。俺は勢いよく玄関のドアを開けた。

 ドアを開けると目の前に母さんがいた。玄関マットの上で座って眠っているようだ。目には隈が出来ている。よっぽど心配して夜更かしをしていたのだろう。

 ドアの開いた反射の音で目が覚めた母さんと目が合う。何度か瞬きをして俺を見つめた後、母さんは俺を抱きしめて涙をこぼした。

「佑介の宝物捨てちゃってごめんね。本当に心配したんだから」

 言葉だけでなく抱きしめてくるその腕の力強さからその言葉の重みが伝わってくる。

「俺の方こそ……ごめん」

 俺は同じように力強く抱きしめながら言う。

 それは突然家を出たことにについて。

 それはどうせ分かってもらえないと勝手に諦めたことについて。

 『頑張れよ』七海の言葉が脳裏に蘇る。そうだ俺は話さなきゃいけない。

「母さん、俺話したいことがあるんだ」

 特撮のヒーローが好き。理解してもらえない、納得してもらえないかもしれない。だけど、それがなんだ。それなら分かってもらえるまで話せばいいだけだ。

 だって、俺は母さんにもっと俺のことを知ってほしいだけから。