完全に私たちの前から姿を消してしまった。

☆☆☆

弟が家出してから両親の教育方針は変わるだろうと思っていたけれど、そうはならなかった。
『そろそろ大学を考えないとね』
それは弟がいなくなってひと月が経過したときのことだった。

それまでは弟がひとりいなくなっただけでお通夜のような食事風景で、ふたりともろくに家のことができなくなってしまっていた。

あれだけ手塩にかけてきた弟が自ら失踪してしまったのだから、その落ち込みようを見ていても不思議はなかった。
でも、この日は違った。

思えば食卓にスーパーのお惣菜以外のものが並んだのはひと月ぶりのことだった。
『え?』