私も、心からそんな風に願っていた。
でも。
《姉ぇちゃんごめん》

そんな書置きを残して弟がいなくなったのは、去年の7月ことだった。
ダラダラと続く蒸し暑い梅雨がようやく明けて、これなら夏本番というときだった。

ぬけるような青空の下、警察官が物々しく自宅を出入りして近所の人たちがなにごとかと様子を見に来た光景を、今でも鮮明に覚えている。

『いえ、家庭内ではなにも問題はなかったです』
『あの子が家出なんて、ちょっと考えられないです』

立派な書置きという証拠が残っているのに両親は必死になって警察官にそう訴えていた。
確かに、家庭内では大きな問題はなかったと思う。