《一番線に◯◯方面行きの最終電車がまいります。乗り遅れないようご注意ください》
最終電車のアナウンスが構内に鳴り響く。電光掲示板には『電車がきます』の文字。それから約十秒後、電車が到着し、煙草とお酒の匂いを纏ったサラリーマンや学生の集団がぞろぞろと乗り込んでいく。数分の猶予。だけど私は乗らなかった。わざと、そうした。
目の前で電車の扉がゆっくりと規則正しい速度で閉まるのを見届けたと同時に《着いたよ》とメッセージが届いたので《今から向かいます》と当たり障りのない返事をし、文字どおり改札に向かった。
私、花森桜子は今日〝意図的に〟終電を逃した。



