「あ、おった!」
 
 ちゅうじんと共に裏山への道を歩いていると、亜莉朱が建物の屋根を伝って俺たちの前にやってきた。突然の登場に驚く俺とちゅうじん。
 
「なんだ亜莉朱、こっちに来てたのか」
「久しぶりだな!」
「久しぶりうーさん。ちゃっちゃと任務終わらせて、見送りに来たで」
 
 白のカッターシャツに紺袴、紺羽織と制服のままやってきた亜莉朱は隠れ札を外すと、装着していたウエストポーチに仕舞った。

 多少の汚れはあるが、血はついてないことから大した怪我はしていないようで安堵する。
 
「その様子だとちゃんとこなせたようだな」
「うちを舐めんのも大概にしぃや。この3年でどえらい強なったんやからな。この調子で卒業試験も合格したるわ」
「頑張れよ。それじゃ、改めて行くとするか」

 日が沈み始める中、俺たちは裏山へと再び歩を進めた。
 
 ◇◆◇◆
 
 
 無事、裏山へと到着するころにはすっかり日も沈んで真っ暗になっており、俺たちはちゅうじんに案内されながらUFOのある地点に続く山道へ進んでいく。

「なぁ、ホンマにこんな山奥にUFOなんかあるん?」
「あるぞ。ほら、着いた」
「え、何もあらへんけど……」
 
 亜莉朱は辺りを見回すも、特にUFOらしき姿は見当たらない。

 まぁ、UFOに搭載されている迷彩は俺たち霊眼持ちの目も欺くからな。戸惑うのも当然だろう。

 と、ちゅうじんが迷彩を解いたようで、目の前に円盤状の機体が現れる。

「え、ガチやん。やばっ!」
「ふふん! これがボクの機体だぞ」

 亜莉朱が唖然とした表情でUFOを見つめていると、ちゅうじんは誇らしげに応える。

 亜莉朱は初めて見るUFOに興奮しているようだ。未知のものを見ると誰だってそうなるよな。俺だって初めて見た時はビックリしたもんだ。

 ちゅうじんと出会ったときのことを思い出しながら、UFOを眺めていると、入り口が開いてスロープが自動で下りてきた。ちゅうじんはそのまま中に入ろうと進み始める。

 が、ふと足を止め、俺と亜莉朱の方を向いた。

「あー、良かったら入るか? 流石にこの量のプレゼントを1人で運ぶのは大変だし」
「え、良いん⁉」
「ああ。別に見られて困るようなものもないしな」
「ほな、お邪魔しまーす!」

 亜莉朱はうきうきした表情で臆することなく、プレゼントを持ってUFOの中へと入っていく。時折、キョロキョロと見回しながらしばらく廊下を進んでいけば、ちゅうじんがメインルームの前で立ち止まった。

 ちゅうじんはポケットからカードキーを出し、機械に翳してロックを解除。すると、目の前の扉が開いてちゅうじんは中へと入っていった。
 
 俺と亜莉朱も続けて中に入る。

「おお、凄い!」
「うーさんって本当に宇宙人やったんやな」
「宇宙人じゃなかったら何なんだよ……」

 周囲を観察している間、ちゅうじんはプレゼントを台に置き、慣れた手つきでコントロールパネルを操作していく。その間に俺と亜莉朱はプレゼントをどんどん中へと運んでいくことに。

 プレゼントをひとしきり運ぶこと30分。ちゅうじんは発進準備を終わらせたようで、俺たちに外へ出るように促した。

「さて、今度こそ最後だな」
「おう」

 ちゅうじんが返事をすると、亜莉朱が名残惜しそうな表情で話し始めた。

「これでうーさんともお別れやな。ちょっとの間やったけど、一緒に過ごせて楽しかったで」
「ボクも亜莉朱と一緒に出掛けたり話したりできて楽しかったぞ。正月の年末年始は色んな意味で死ぬかと思ったけどな」

 今年の年末年始は母さんの料理食ってお腹壊したかと思えば、社務所での慣れない仕事に、年末の大掃除という名の祟魔退治。

 つい2週間前には天邪鬼と対峙したし、本当にまだ2月上旬なのかってぐらいに色んなことがあったな。年末年始はあれはあれで楽しかったし、潜んでいた黒幕も無事牢獄行き。送別会もやって、文句なしの万々歳だ。

 ……ん? あ、忘れちゃいけないものがあった。
 
「日本刀の他にもう1つ渡しておくもんがあったわ。はいこれ」
 
 俺はポケットの中から透明の袋に入った萌黄色の御守をちゅうじんへ渡す。

「この御守……」
「ちゅうじんが亜莉朱相手に困惑してたときのやつだな」
「あの時は怖かったぞ……」
「んー? なんか言うた?」
 
 ちゅうじんがそう漏らすと、亜莉朱が圧のかかった笑みを浮かべて詰め寄ってくる。
 
「い、いや何でも……。多田、ありがとな。大事にするぞ」
「そうしてくれ。落としたりしたら呪い殺すからな」
「何で本来、祓う側が呪殺しようとすんねん。って、うち何も用意してへんわ……。ごめんなうーさん」
「見送りに来てくれただけでも十分嬉しいんだぞ」
 
 ちゅうじんは笑顔でそう言いながら、御守を上着の胸ポケットへ仕舞った。さて、渡すもんも渡したし、最後の挨拶といこう。
 
「お前と出会ってから1年も経ってないが、それなりに楽しい毎日だった。改めてお礼を言わせてくれ」
「ボクも多田と会えて良かったぞ。じゃなかったらキテレツ荘のみんなともSSのみんなとも、多田の家族とも会えてないわけだしな。煩いときもあったけど、それも良い思い出だ。ボクが居なくなっても元気でやれよ!」
「煩いは余計だ。ま、ぼちぼちやっていくよ」
 
 ジト目でちゅうじんを見返しつつ、内心、最後まで生意気なやつだと思う。最後の挨拶を終えたちゅうじんは踵を返して、入り口の方へと足を進める。

 ちゅうじんがこっちに来てから騒がしい毎日だったけど、それも今日で終わりか。

 そう感傷に浸っていたら、UFOの出入り口に立ったちゅうじんが俺たちへ大きく手を振って来た。
 
「うーさん元気でなー!」
「もう落ちてくるなよー」
「勿論だぞ!」

 ちゅうじんは大きな声で返事をすると、UFOの中へと消えていった。

 数分経過したところで、さっきまで暗かった周囲が光に照らされる。思わず、眩しさを瞑る。徐々に目が慣れていく頃にはUFOが上昇していくのが視界に映った。

「おぉ、浮いとる!」
「凄ぇな」

 上昇しきったのかUFOは一瞬その場に停止すると、光の速さでジグザグを宙に描きながら宇宙へと飛んでいった。

 少しして、俺はUFOの飛んでいった夜空を呆然と眺めながらぽつりと口を開く。

「行ったか」
「やね。マジでUFOやったな」
「いや、今更かよ」

 亜莉朱の発言に俺は思わず吹き出しながらツッコむ。亜莉朱は笑うなと言いたげに顔を膨れさせ、不満そうにした。俺は軽く謝りながら、亜莉朱と共に裏山を降りるのだった。