「では、トップバッターは言いだしっぺの私から!」
 
 甘野さんはビシッと手を挙げて告げると、20箱分のタッパーを手で指し示す。
 
「じゃじゃーん! おかずの詰め合わせ約1週間分です! 宇宙空間にいる1週間程は食料調達ができないとのことでしたので。私からのプレゼントと言いますか、差し入れです」
「おぉ~! 相変わらず美味そうだな! 有難く頂戴するぞ!」
 
 ちゅうじんは色とりどりのおかずに目を爛々とさせる。確かに食事は幾ら宇宙人とはいえ、必要になってくるだろう。

 それに俺の家に墜落した際、食糧庫が駄目になってしまったらしく、UFOの中にはまともに食べるものが無いらしい。

 そこで1週間前の休日に、ここにいるみんなで冷蔵庫やらキッチンやら必要になってくるものをUFOの中に運んだのだ。

 ちゅうじんによれば、あのUFO内で電気紛いの物は生み出せるらしいのでそこは問題ないという。
 
 まぁ、光線銃やらライトセーバーがあるんならそういうのもあっておかしくないわな。
 
「じゃあ次は私ね。まだ見本の状態なんだけど、これ」
「あ、これって」

 恵美さんが見本と表紙に書かれた1冊の本をちゅうじんに差し出してきた。ちゅうじんは受け取ると、それが何なのか察したようで、反応する。
 
「そう。この間、取材させてもらったものを冊子にしてまとめたの。まだ発売までは2ヶ月あるから本物は渡せないけど、取材させてもらったせめてものお礼に受け取って」
「わざわざありがとな! UFOの中でじっくり読ませてもらうぞ」
 
 俺もこの前、ざっと中を確認したがなかなかいい出来になっていた。恵美さんによれば、うーさんに何とか見本だけでも渡そうとなり、その代償として秋葉が苦しむ結果となってしまったのだ。

 見本を恵美さんと一緒に見せにきたときの顔色と言ったら幽霊に負けないぐらいに悪かった。あの様子じゃ連日徹夜で原稿を仕上げたのだろう。

 今度、菓子折りでも持って北桜神社の方に挨拶でも行こう。
 
「では、お次は僕から。地球のことをもっと知りたいだろうと思ってね。外事課の方で毎年作ってる世界各国の文化や歴史、観光などの情報が載ったマテリアル50年分をプレゼントしよう!」
「え、めちゃくちゃ嬉しいぞ! これさえあれば、ルプネスのみんなにも地球のこと知ってもらえるしな」

 ちゅうじんは六法全書並みに分厚いマテリアルを軽々と持ち上げて中身をペラペラと見ていく。

 これを50年分ってことは全部で50冊か……。

 大家さんも本当に良く集めたもんだ。後でUFOに運ぶときが大変だろうがな。
 
「じゃ、次は私からだ。流石におかずだけじゃ物足りんだろうと思ってな。神社に奉納された米袋を持ってきた」
「この1年弱、ここに来てからほぼ毎日米を食べてきたからな。今更、米が無い生活は考えられないんだぞ」

 ちゅうじんは喜んでいるが、俺にはこれから焚かれる米がどんな悲惨な目に遭うのか心配でならない。

 ここに来てからというもののちゅうじんの料理音痴には苦しめられてきたから、ある意味帰還してくれるのは有難いな。

 というか、奉納された米袋を持ってくる夜宵もどうなんだ……。

 まぁ、こんだけあったらちゅうじんへのプレゼントにもしたくなるだろうけどな。
 
 何とも言えない中、俺は10袋以上ある米袋を見つめる。と、ジュリアが一歩前に出た。
 
「はい、うーさん。私からは漫画とDVDをプレゼントします! 日本が誇るものと言えば、やはりこれでしょう。UFOにも電気設備とテレビはあると聞きましたからね。是非偵察のお供にでもしてください」
 
 プレゼントブースの一角に30箱以上の段ボールが積まれていた。ジュリアによれば、この全てにDVDや漫画が入っているらしい。
 
「え、こんなにたくさん良いのか⁉」
「勿論です!」

 流石にヤバいな……。どんだけお金かかってんだよこれ。

 もうここまで来たら流石にやりすぎじゃないかと心配になってくる。ジュリアの大胆さに顔を引き攣らせていると、次は王子が前に出て、透明のボックスを指差した。
 
「次は俺から。うーさんは色んな星の偵察任務で戦闘するって聞いたから、1000本分の苦無をプレゼントだ」
「苦無の扱いはみっちり教えて貰ったからな。壁を上ったりするときも、戦闘時も、それ以外でも使える。これだけあれば在庫は十分だな」

 どんだけあるんだよ苦無。明らか1人が持っていい量じゃねぇぞこれ……。

 王子のことだからこれ以上に所持してるんだろう。明日からは一掃用心して仕事に励まないとな……。
 
 で、プレゼント渡しも残るところ俺1人か。俺はみんなみたいにそんな大層なもんは用意できなかったが、ないだけマシだろう。

 俺はロビーの壁に立てかけてあった竹刀袋から中の物を取り出す。
 
「俺からのプレゼントはお前がずっと欲しがってた日本刀だ。親父によれば、かれこれ100年以上はずっと蔵の中に眠ってたらしいからな。この先も使われないよりかはマシだろう。ちゃんと手入れしてあるからそこは安心しろ」
「おぉ、やった!」
 
 俺は黒鞘の日本刀をちゅうじんに手渡す。受け取ったちゅうじんは、さっそく柄を持って鞘から引き抜いて検分し始めた。

 蔵に仕舞ってあったときは刃こぼれが酷く、切れ味も悪くなっていたのだが、知り合いの鍛冶師に頼んで、新品同様までに研いでもらったのだ。

 ちゅうじんが刀を上に翳すと、ロビーの灯りで見事に反射した。
 
「日本刀は1000年以上持つから長い時を生きるお前にはぴったりの武器だろ。あぁ、手入れはしっかりやれよ。下手な使い方して折ったら許さんからな」
「も、勿論だぞ……」

 軽く圧という名の殺気をかけてやると、ちゅうじんは強張った表情でブンブンと首を上下に振った。

 ちゅうじんはおぼつかない様子で刀を鞘に納めて両手で抱える。これは少々やりすぎたかもしれんな。
 
「では、最後にうーさんからみんなに向けて一言!」
「少しの間だったけど、楽しかったぞ! プレゼントもこんなに貰ったし、本当にみんなには色々世話になった。ボクが居ない間も元気でな!」

 ちゅうじんが話し終えると、拍手と共に別れを惜しむような声がちらほらと聞こえてくる。

 そうして送別会の幕は閉じ、ちゅうじんはみんなに別れを告げると、念力で受け取ったプレゼントを外まで運び、キテレツ荘から出た。

 念力で浮いた数多のプレゼントは全て隠れ札が貼られているので、一般人に見られることは無い。

「それじゃあ行くか」
「おう!」
 
 俺とちゅうじんはそのままUFOのある裏山へと足を進めた。