天邪鬼との戦闘から2週間が経過し、2月に突入。

 老舗旅館・甘野での密着取材は無事に終わり、恵美さんによると今は編集段階だという。

 あの後、天邪鬼はというと、海希や朝姫さんを含めた日輪の捜査部によって無事逮捕。今は祟魔専用の牢獄に収容されているらしい。
 
 そんなこんなで2月に入って寒さも強まる中、俺たちはちゅうじんの送別会をすべくキテレツ荘の敷地内にある庭へと集まっていた。

 大家さんが、ちゅうじんが帰還すると知った矢先、キテレツ荘の住民とSSのみんなでと呼びかけていたのだ。
 
 現在時刻は17時。送別会があるからとみんな仕事を早めに切り上げ、準備が完了。

 目の前には1台のバーベキュー用コンロが設置され、たくさんの食材が並べられていた。そして、全員の手に飲み物が行き渡ったところで、大家さんが口を開いた。
 
「ではでは~! うーさんの無事の帰還を祝して、乾杯~!」
 
 大家さんの掛け声とともにみんな紙コップを当てて飲みだす。
 
 仕事終わりの1杯は最高だな~。

 そうお酒ではなくジュースの入った紙コップを眺める。
 
「例のごとく、色々用意してますからいっぱい食べてくださいね~」
 
 キテレツ荘の料理番長である甘野さんがコンロに火をつけて、トング片手に肉を焼いていく。

 コンロの周りにはいち早く肉を取ろうと、みんなが箸を構えて集まっていた。
 
「なんでこんなクソ寒い中、バーベキューなんだよ……」
「寒い冬こそバーベキューでしょ。ほら、早くしないとお肉無くなっちゃうよ~」

 大家さんは紙皿と箸を持ってコンロの方へ向かっていく。と、第1陣の肉が焼けたようで、コンロの周りで肉をかけた争奪戦が始まった。

 どんだけ肉食いたいんだよあいつら……。

 俺も紙皿と箸を持って争いの場に歩き出す。
 
「よっしゃ! いただき!」
「主役より先にとってどうするんですか!」
 
 どうやら最初の勝者は主役のちゅうじんではなく王子のようで、ジュリアがツッコミを入れていた。

 と、夜宵がジュリアの肩に手を置いて喋り出す。
 
「戦場じゃ主役も何も関係ない。何事も早いもん勝ちだ」
「そうだぞ! ぽけっとしてたら獲物を取られるんだからな」
「全く……。では、アタシも遠慮なく!」
 
 夜宵だけでなく、主役であるちゅうじんもそう言うので、ジュリアは観念したのか箸を高速で動かして肉を掴みにかかった。
 
 SSメンバーが争う中、恵美さんはその様子を眺めながら肉を口に運ぶ。
 
「美味しっ~! これ結構上等なお肉なんじゃない?」
「この日のためにわざわざ最高級の取り寄せたからね~」
「おかげですっと切ることができましたよ。あれもう1回やってみたいですね~」
 
 大家さんの言葉に甘野さんが目を輝かせる。
 
 反応するところそこかよ。でも、そういうところは甘野さんらしいな。
 
「はい、多田さんも」
「ありがとうございます」
 
 甘野さんがトングで掴んだ肉を手に持っていた紙皿に乗せてくれた。さっそく食べてみる。
 
「……おぉ、流石はブランド牛。日々の疲れが吹っ飛ぶ美味さだな」

 口に含んだだけで、溶けるような柔らかさ。肉汁も程よく、しつこさを感じない。
 
 老舗旅館・甘野で食べた御前も絶賛だったけど、やっぱり俺にはこういう庶民の食事が肌に合うな。
 
 そう思いながら次の肉を取ろうとコンロに目を向けてみたら、肉が無くなっていた。
 
 噓だろ……。俺まだ1枚しか食べてないのに……!
 
「言っただろ? 早い者勝ちだって」
「クソ……俺はこの戦に負けたのか」
 
 ちゅうじんが肉を頬張りながら、嘲笑うような目つきを向けてくる。
 
 せめてもう1枚だけ食べたかったな……。
 
 後悔しつつ、まだコンロの上に残っている野菜を紙皿に乗せて食べていく。

 20分もしないうちにバーベキューを終え、みんなで片付けをしたら、大家さんがみんなに向けて話し出す。
 
「食べ終わったことだし、お次はプレゼント渡し! みんなロビーの方まで移動しようか」
 
 大家さんに言われて、寒い外から暖房の効いたロビーに移動すると、ロビーの一角いっぱいにプレゼントが置かれていた。

 相変わらず凄い量だな……。これ全部ちゅうじんに向けてとかえげつない。

 あまりの多さに呆れていたら、ちゅうじんが俺たちの方を向いてきた。
 
「おぉ、凄い量だな! これ全部ボクにか?」
「えぇ、そうですよ。この日のためにみんな準備してきましたからね」

 甘野さんは自信満々な表情を浮かべる。準備期間は僅か1か月。プレゼントを用意した当事者ながら、その間によくもこれだけのプレゼントを用意できたものだ。

 SSメンバーにもいつもこのぐらいのスピード感とやる気で仕事してほしいんだけどな……。
 
 こんなときでさえ、仕事のことが思い出す俺はつくづく社畜だと思う。そんなこんなでプレゼント渡しがスタートするのだった。