俺が作戦を伝えた直後、秋葉から結界を貼り終えたとの連絡を受けて、屋根での戦闘から凍った鴨川での戦闘に移行すること数分。

 足元がアイスリンクと化す中、次々と迫りくる鬼と対峙していた。向こうは足元が滑ってまともに攻撃を繰り出せずにいるようだ。

 その隙に斬撃を飛ばして、敵を一掃。氷上に手をつき、足先を祓力で強化。飛び掛かって来た鬼たちへ回転蹴りを喰らわす。

 地面に足をつけた俺は、だんだん近づいてくる銃声を耳にし、屋根の方を見上げる。
 
「死ねぇぇぇ!」
 
 視線の先には霊眼で視力を強化した王子が、屋根の上を走りながら氷上にいる鬼をアサルトライフルで次々と撃ち抜いていく姿が見えた。

 すると、俺の足元スレスレを銃弾が通過。王子はライフルを片手で持ち、仕留めきれなかった鬼たちに向かって、苦無を放つ。
 
 相変わらず危ないことしやがる。仲間が戦ってるってのにお構いなしかよ……。
 
 自分の方にも飛んできた苦無を刀で弾き、アイススケートの要領で回転しつつ、鬼の首を跳ねていく。

 と、今度は蒼炎が一直線に放たれ、多田の背後スレスレを通過。放射源となる方を見てみると、そこには大鎌に蒼炎を纏わせ、周囲の鬼を蹴散らしている夜宵がいた。
 
「お前ら2人、さっきから仲間である俺を狙ってんじゃねぇだろうな⁉」
「はぁ? そんなところにいるお前が悪いんだよっ!」
 
 夜宵は大鎌で自分以上に背のある鬼へ向けて鎌を振るう。
 
「正直言って邪魔でしかねぇな」
 
 こいつら揃いも揃って無茶苦茶言いやがって……。
 
 王子も懲りずに俺の背後にいる鬼へ向かって苦無を投げてきた。咄嗟にしゃがみと同時に踏み込んで、その場を離脱。

 三条大橋方面へ移動しながら、周囲の鬼へ向けて斬撃を繰り出す。
 
 と、ジュリアが屋根から後ろ向きに降り、バク転で目の前に着地した。俺はぶつかるまいとブレーキをかけて足を止め、彼女を見る。
 
「天邪鬼、こんなのはどうです?」
 
 ジュリアは天邪鬼に向けて、無数の矛を宙に出現させる。
 
 お、おい待てジュリア……。戦闘に集中するのは良いが、今それをやられるとこっちが困るんだよ。
 
「そちちがその気ならこちらも対抗するまで」
 
 屋根の上にいた天邪鬼も同様に、ジュリアへ向けて無数の錫杖を自らの周りに展開した。
 
 いや、あいつもかい……。こりゃ、刺殺される前に一旦上がった方が良さそうだな。
 
 俺が慌てて氷上から屋根の上に向かって跳躍した瞬間、両者一斉に武器を発射。錫杖と矛が飛び交う中、ギリギリのところで屋根に飛び乗った俺は傷を負わずに済んだ。

 だが、氷上にいた鬼たちはその攻撃の余波をまともに喰らい、凍結した氷の上に釘付けにされて身動きが取れなくなっている。
 
 天邪鬼のやつ。手下の連中も巻き込むとは人の心――いや、外道にも程があるな。

 と、ここで音が止んだ。勝負が着いたのかと思い、そっちの方を見てみると、ジュリアと天邪鬼は互いに切り傷を負いながらも生存していた。
 
「このままやり合っても消耗するだけですからね。一旦退かせてもらいますよ」
「あ、待ちなさい!」
 
 ジュリアが制止するも、天邪鬼は踵を返してその場から離れようとする。
 
「そうはいくか!」
「っ……!」
 
 今まで姿を見せていなかったちゅうじんが天邪鬼に向かってライトセーバーを振る。天邪鬼はギリギリのところで細道を挟んだ向かいの屋根へ飛び移り、攻撃を回避。
 
「これはすっかりあなたの事を失念しておりました」
「忘れて貰ったら困るな。今までこいつらを倒すために駆けずり回ってたんだぞ」
「ほう。これは……」

 ちゅうじんが真下に向かって指を差したので、天邪鬼は視線を下に下ろす。

 つられて俺も下を向くと、細道に大量の鬼の死体が転がっていた。その数は軽く30を超えている。流石の俺もこれには引かざる負えない。
 
「……良いでしょう。人外同士、とことんやり合うと致しますか」
「望むところだ!」
 
 細道の鬼が消滅していく中、屋根ではちゅうじんと天邪鬼が対峙。戦いの邪魔にならないよう、俺も残った手下の鬼を掃討すべく動き出す。

 鬼が槍を突き刺してくるのを刀で押さえ、絡めて上に弾く。間髪入れずに空いた胴へ向け、刀を斜めに振り下ろした。直後金棒と刺股を手に持った鬼が左右からやってくる。

 俺は刀と腰から引き抜いた鞘で両者の攻撃を受け止める。ギチギチと音が鳴る中、ふっと両腕の力を緩めて退き、鬼2体の体勢が下に崩れたところを上から刀と鞘で一気に叩いて首を落とす。
 
 と、これまでの戦闘の余波で剝がれていた瓦が宙に浮き始めた。後ろを振り返って見てみたら、どうやらちゅうじんが念力を発動させたようだ。
 
「それは赤鬼たちを倒した力……!」
「まだまだこれからだぞ」
 
 天邪鬼が念力に反応すると、ちゅうじんは浮かせた瓦を一気に放つ。天邪鬼が飛び退いて避けようとするが、瓦はその後ろを追撃する。

「加勢するぜ、うーさん!」
「下に蔓延っていた雑魚どもの掃除は終わった。後はお前だけだ」
「今度は逃がしませんよ!」
 
 追い打ちをかけるように下で祓っていた王子と夜宵、ジュリアが参戦。俺も最後の1体を祓いきって鞘を腰に戻して、加勢に入る。
 
「チッ。こうなったら――」
 
 瓦から逃げ回っていた天邪鬼が突如俺たちの方を振り返る。すると、突如として大量の灰が出現し、俺たちに向かって飛んできた。

 各自、直撃を免れようと武器を振りかざす。俺も刀を持った方の腕で庇いながら目を閉じる。
 
 数秒して灰が止み、目を開ける。だが、特にこれと言って外傷はない。

 何だったんだ今の……。
 
 不思議に思っていると、やけに手が重いことに気づく。
 
「おいおい、マジかよ……」
 
 視線を落として見てみると、自分の手には何故かアサルトライフルが握られていた。