俺たちが迎撃準備を整えた瞬間、数十体の鬼が屋根へ飛び乗って来る。と、鬼たちの前へ1体の鬼が現れた。
その鬼からは葵祭や祇園祭で見た鬼面の靄と同様の気配を感じる。
靄の色も紫で、灰色の着物に黒の羽織を纏い、長い白髪は緩く下の方で括られていた。事情聴取で聞いた情報と特徴も合致している。
ひょっとして目の前にいるこいつが黒幕なのか?
そう前に出た鬼を凝視していると、当の本人がふっと口元を緩めた。
「我らの縄張りにようこそ。こうして直接お会いするのは初めてですね。SSの皆さん」
「なるほど、お前か。葵祭の時と言い、祇園祭の時と言い、裏で色々と操ってたのは」
俺は腰に差した刀へ手をかける。
「ほう。よくご存じで。後、お前じゃありません。この縄張りの頭領・天邪鬼です」
天邪鬼と名乗った鬼は、ニッコリと圧のかかった笑みを浮かべながら訂正した。
あれ? 自ら正体明かしていくスタイル? なんか想像してたのと違うな。俺たちをこうも翻弄したんだから、もっと狡猾でできる奴なのかと思ってたんだが……。
思わぬ発言に内心混乱しながら、みんなに向けて念話を飛ばす。
『アホなのかコイツ……。自分から名乗りやがったぞ』
『真名伏せるでしょう普通』
『名乗ってくれた方が色々やりやすいから、そこは無視しようぜ多田』
『そうですよ先輩』
流石のジュリアにちゅうじん、秋葉も呆れているようで、信じられないと言いたげな視線を天邪鬼へ向ける。と、天邪鬼がゴホンッ! と咳払いをした。
「多田さんとちゅうじんさんと言いましたか。人が話してるというのによそ見はいけませんね」
「待て、何で俺たちの名前を……」
天邪鬼に名前を呼ばれ、一気に俺とちゅうじんは顔を強張らせる。
こっちは名乗ってすらいないってのになんで分かるんだ……。
突然のことに困惑していると、天邪鬼は再び話し始める。
「いやはや、あなた方にはこれでもかという程してやられてますからね……。敵の情報を調べ上げるのは当然のことです。何なら話して差し上げましょうか? ここに至るまで我々が受けてきた屈辱の数々を。全ての始まりは、巨大な灰色の円盤が我らの縄張りを荒らしたときのこと――」
「おい、誰も話せなんて一言も言ってねぇよ。……って、それってもしかして――」
天邪鬼の話を耳にした俺は、咄嗟に斜め後ろで光線銃を握り占めていたちゅうじんへ振り返る。
すると、ちゅうじんは思い出したように「あっ」と声を漏らした。
「そ、そういえば、UFOを修理するときにその場にいた角の生えた奴らが邪魔だったんで、機体に搭載されているビームがまだ使えたからそれで土地ごと焼き払っちゃったんだぞ」
「全ての元凶はお前か! ちゅうじん!」
冷や汗を垂らしながら話すちゅうじんへすかさずツッコむ。
そういや前にチラッとそんな話を聞いたような覚えがあるな……。おっかな気持ち悪い輩に遭遇したとは聞いてたけど、まさか土地ごとそこにいた鬼を焼き払っていたなんて……。
というか、年明けに見たあのドデカいUFOってそんなビームも出せるのかよ。そっちの方がおっかねぇわ。
「そういうあなたにも第2の縄張りを荒らされましたけどね」
「え、俺も?」
まさかの発言に俺は首を傾げる。
え、嘘……。俺、そんな縄張りを荒らすような真似なんてしてないけどな……。
「去年の夏頃に縄張りをあそこにある八坂の山に移しましてね。それで今年の三が日のときに戻ってきたと思えば、またしても私の配下がやられていました……。こっちからしたら、マジでテメェらいい加減にしろよって話です」
あれかーい! それ、つい先日の出来事じゃねぇかよ。いや、あれは荒らしたんじゃない。年越し大掃除と称した祟魔退治。俺たちは毎年恒例の行事をきちんとこなしただけだ。
それにあれはあそこに縄張りを移した天邪鬼たちが悪いんだよ。うん、やっぱり1番最初に縄張りを荒らしたちゅうじんが全ての元凶だな。
「その他にもあの憎き皇を暗殺しようと思ったら邪魔をされ、長官クラスの人間を殺そうとしたら邪魔をされ……。かの名高い三条宗近作の長刀を奪ってこちらのものにしようとしたときもそうです。ここ10カ月、あなた方には散々邪魔をされましたからね……。せっかく相まみえたんです。仲間の敵討ちと今までの鬱憤を晴らすために、ここいらで潰しておくとしましょ――」
「――さっきから聞いてりゃ、話長ぇんだよ腐れ外道が。その口喋れなくしてやる」
「こっちは依頼で来てるんだ。そう簡単に潰されてたまるかよ」
後半になるにつれてどんどん表情が険しくなっていく天邪鬼。そんな彼の長すぎる話を遮った夜宵と王子は、それぞれ大鎌の切っ先と銃口を天邪鬼へ向ける。
夜宵の言う通りだ。ベラベラ喋ってんじゃねぇよ。こっちは始発が出る夜明けまでに始末つけなきゃならないんだ。
一般人に悟られたら厄介だからな。ほら、後ろに控えてる鬼の皆さんも早くしろって目で見てるよ。そんなんで大丈夫なのかこの頭領……。
「多田さんと言い、あなた方と言い、どいつもこいつも私の話を遮るとはいい度胸ですね。やれるものならやってみなさい。木っ端微塵に叩きのめして差し上げます」
こめかみに青筋を立てだした天邪鬼は手元に錫杖を出現させる。
どうやら俺たちは見事に彼の怒りを買ったらしく、天邪鬼を筆頭に後ろで控えていた鬼たちが飛び掛かってきた。それに乗じて俺たちも武器を構えて走り出す。
やっとお祓いの時間がやって来たな。
俺は抜刀し、真っ先に天邪鬼へ向けて刀を振りかぶるのだった。
その鬼からは葵祭や祇園祭で見た鬼面の靄と同様の気配を感じる。
靄の色も紫で、灰色の着物に黒の羽織を纏い、長い白髪は緩く下の方で括られていた。事情聴取で聞いた情報と特徴も合致している。
ひょっとして目の前にいるこいつが黒幕なのか?
そう前に出た鬼を凝視していると、当の本人がふっと口元を緩めた。
「我らの縄張りにようこそ。こうして直接お会いするのは初めてですね。SSの皆さん」
「なるほど、お前か。葵祭の時と言い、祇園祭の時と言い、裏で色々と操ってたのは」
俺は腰に差した刀へ手をかける。
「ほう。よくご存じで。後、お前じゃありません。この縄張りの頭領・天邪鬼です」
天邪鬼と名乗った鬼は、ニッコリと圧のかかった笑みを浮かべながら訂正した。
あれ? 自ら正体明かしていくスタイル? なんか想像してたのと違うな。俺たちをこうも翻弄したんだから、もっと狡猾でできる奴なのかと思ってたんだが……。
思わぬ発言に内心混乱しながら、みんなに向けて念話を飛ばす。
『アホなのかコイツ……。自分から名乗りやがったぞ』
『真名伏せるでしょう普通』
『名乗ってくれた方が色々やりやすいから、そこは無視しようぜ多田』
『そうですよ先輩』
流石のジュリアにちゅうじん、秋葉も呆れているようで、信じられないと言いたげな視線を天邪鬼へ向ける。と、天邪鬼がゴホンッ! と咳払いをした。
「多田さんとちゅうじんさんと言いましたか。人が話してるというのによそ見はいけませんね」
「待て、何で俺たちの名前を……」
天邪鬼に名前を呼ばれ、一気に俺とちゅうじんは顔を強張らせる。
こっちは名乗ってすらいないってのになんで分かるんだ……。
突然のことに困惑していると、天邪鬼は再び話し始める。
「いやはや、あなた方にはこれでもかという程してやられてますからね……。敵の情報を調べ上げるのは当然のことです。何なら話して差し上げましょうか? ここに至るまで我々が受けてきた屈辱の数々を。全ての始まりは、巨大な灰色の円盤が我らの縄張りを荒らしたときのこと――」
「おい、誰も話せなんて一言も言ってねぇよ。……って、それってもしかして――」
天邪鬼の話を耳にした俺は、咄嗟に斜め後ろで光線銃を握り占めていたちゅうじんへ振り返る。
すると、ちゅうじんは思い出したように「あっ」と声を漏らした。
「そ、そういえば、UFOを修理するときにその場にいた角の生えた奴らが邪魔だったんで、機体に搭載されているビームがまだ使えたからそれで土地ごと焼き払っちゃったんだぞ」
「全ての元凶はお前か! ちゅうじん!」
冷や汗を垂らしながら話すちゅうじんへすかさずツッコむ。
そういや前にチラッとそんな話を聞いたような覚えがあるな……。おっかな気持ち悪い輩に遭遇したとは聞いてたけど、まさか土地ごとそこにいた鬼を焼き払っていたなんて……。
というか、年明けに見たあのドデカいUFOってそんなビームも出せるのかよ。そっちの方がおっかねぇわ。
「そういうあなたにも第2の縄張りを荒らされましたけどね」
「え、俺も?」
まさかの発言に俺は首を傾げる。
え、嘘……。俺、そんな縄張りを荒らすような真似なんてしてないけどな……。
「去年の夏頃に縄張りをあそこにある八坂の山に移しましてね。それで今年の三が日のときに戻ってきたと思えば、またしても私の配下がやられていました……。こっちからしたら、マジでテメェらいい加減にしろよって話です」
あれかーい! それ、つい先日の出来事じゃねぇかよ。いや、あれは荒らしたんじゃない。年越し大掃除と称した祟魔退治。俺たちは毎年恒例の行事をきちんとこなしただけだ。
それにあれはあそこに縄張りを移した天邪鬼たちが悪いんだよ。うん、やっぱり1番最初に縄張りを荒らしたちゅうじんが全ての元凶だな。
「その他にもあの憎き皇を暗殺しようと思ったら邪魔をされ、長官クラスの人間を殺そうとしたら邪魔をされ……。かの名高い三条宗近作の長刀を奪ってこちらのものにしようとしたときもそうです。ここ10カ月、あなた方には散々邪魔をされましたからね……。せっかく相まみえたんです。仲間の敵討ちと今までの鬱憤を晴らすために、ここいらで潰しておくとしましょ――」
「――さっきから聞いてりゃ、話長ぇんだよ腐れ外道が。その口喋れなくしてやる」
「こっちは依頼で来てるんだ。そう簡単に潰されてたまるかよ」
後半になるにつれてどんどん表情が険しくなっていく天邪鬼。そんな彼の長すぎる話を遮った夜宵と王子は、それぞれ大鎌の切っ先と銃口を天邪鬼へ向ける。
夜宵の言う通りだ。ベラベラ喋ってんじゃねぇよ。こっちは始発が出る夜明けまでに始末つけなきゃならないんだ。
一般人に悟られたら厄介だからな。ほら、後ろに控えてる鬼の皆さんも早くしろって目で見てるよ。そんなんで大丈夫なのかこの頭領……。
「多田さんと言い、あなた方と言い、どいつもこいつも私の話を遮るとはいい度胸ですね。やれるものならやってみなさい。木っ端微塵に叩きのめして差し上げます」
こめかみに青筋を立てだした天邪鬼は手元に錫杖を出現させる。
どうやら俺たちは見事に彼の怒りを買ったらしく、天邪鬼を筆頭に後ろで控えていた鬼たちが飛び掛かってきた。それに乗じて俺たちも武器を構えて走り出す。
やっとお祓いの時間がやって来たな。
俺は抜刀し、真っ先に天邪鬼へ向けて刀を振りかぶるのだった。
