時は流れて1月中旬。ちゅうじんの帰還まで残り2週間というところで、俺たち特別支援室、通称・SSの面々に密着取材の依頼が来た。

 時期的にこれがちゅうじんにとって最後の仕事になるだろう。

「最後までしっかりやれよ」
「勿論だぞ~」
 
 ちゅうじんは気の抜けたような声色で返しながら、しゃがんだ状態でストーブに手を翳している。
 
 本当にやる気あんのかこいつ……。
 
 椅子に座って、業務に追われている俺は呆れた目をちゅうじんへ向ける。
 
「それで、今回俺たちを取材する人たちって言うのは、どこにいるんです?」
 
 ちゅうじんと一緒にしゃがんでストーブの前で暖を取っていた王子が室長に問うた。
 
「その人たちなら応接室で待ってるそうだから、行ってみると良い。俺はこれから会議があるから、何か変わったことがあったら連絡してくれ」

 室長はそう言い残すと、デスクに置いてあった書類を持ってオフィスから出て行った。
 
 相変わらずの放任主義……。そんなんだからこの部署は怠けた連中が多いんだよ。室長なんだからもっとビシッと言ってやってほしいもんだ。
 
 室長の人の良さに参りながらも席を立ち、ストーブにいる連中へと視線を向ける。
 
「おい、そこの2人。ストーブの前で温かそうにしてる暇があったら、さっさと立て。客人を待たせるんじゃない」
「ちぇー。今、立とうと思ってたのに」
「生真面目な多田くんは、少しくらい待つということも覚えた方が良いんじゃないの~?」
「煩ェ。早くしろ」

 こめかみに青筋を立てながら、駄々をこねる2人に向かって言い放つ。全く子供かよ……。呆れながら、今度は左隣のデスクへ顔を向ける。

「夜宵、お前もだ」
「あー、怠っ……。そんなに行きたいんなら多田1人で行って来いよ」
「おい」
 
 椅子に座りながらスマホを弄る夜宵の発言に、またしても青筋を立てる。すると、椅子に座って状況を静観していたジュリアがガバッと腰を上げた。
 
「取材なんて滅多に受けられないんですから、皆さん早く行きますよ!」
「はぁ……ジュリアが言うなら仕方ないな。おら、そこの2人も行くぞー」
「はーい」
 
 夜宵は徐に席を立つと、王子とちゅうじんへ声を掛けた。すると、2人はすっと立ち上がって扉の方へ向かう。

 俺の言うことは聞かずにジュリアと夜宵の言うことは聞くって何だ。理不尽にも程があるだろ。
 
 3人の言動に顔を引き攣らせつつ、俺はちゅうじんたちに続いてオフィスを後にし、応接室へと向かった。
 
 
 ◇◆◇◆

「本日はよろしくお願いします。編集者の川島恵美と言います」
「どうも、今回ライターを務める北桜(ほくおう)ああ秋葉(あきは)です」
「編集者の恵美さんは分かるけど、なんでお前までいるんだよ」

 俺たちと向かい合わせに座っている恵美さんの隣には、大神学園時代に俺と同じく生徒会で庶務を務めていた後輩の北桜秋葉が座っていた。確か彼女は今、代報者として稼ぎつつ北桜神社の神主を務めているはずだ。
 
 なのにどうして、こんなところにいるんだ……。俺にはさっぱり分からん。
 
「実は私、代報者としての仕事もしながら副業の方でライター業やってまして。今回、恵美さんには編集者として同席していただいているんですよ。後、ついでに噂のうーさんにお会いしたくって」

 秋葉はちゅうじんに目を向けると、微笑んだ。
 
「そうなのか?」
 
 ちゅうじんは首を傾げながら問う。
 
「えぇ。お時間あるときで良いんで、色々お話を伺えたらと……」
「勿論だぞ!」
 
 満面の笑みを浮かべながら返事をするちゅうじん。
 
 二次元大好き創作オタクの秋葉のことだ。今回の本命はどちらかというと、ちゅうじんの方だろう。

 どこから噂を聞きつけてきたのかは知らないが、物珍しい宇宙人がいるとなったらこいつは絶対に食いつく。取材は建前に決まってる。

 そう訝しんでいると、恵美さんが口を開く。
 
「そういうわけですので、SSの皆さん数日間お世話になります。よろしくお願いします」

 今回の密着取材では老舗旅館・甘野のPRのため、実際に俺たちが旅館に泊まってどういうところが魅力的なのか、その旅館の良さと足りてないところを見極めていく。

 この密着取材もPRの一環で、秋葉と恵美さんが旅館の利用者や従業員に取材。俺たちSSの取材と纏めて1つの冊子にし、最終的には書店で販売するのが目的だ。
 
 ちなみに企画の発案者はジュリアで、甘野旅館を選んだのも彼女だ。普段はやりたいことがぶっ飛びすぎて室長や俺から却下を喰らっているのだが、こんな良い企画案を持って来られては俺たちも納得するしかなかった。
 
 そういう経緯で始まった密着取材。応接室で一通りの工程を確認後、俺たちは今回の舞台となる甘野旅館へと赴くことになった。
 
 
 ◇◆◇◆

 
 電車を乗り継いで、祇園四条駅に到着した俺たちは大雪の降る中、四条大橋を渡っていた。

「寒っ……! いつもこんなに冷えてましたっけ……」
「そういえば、今日は大寒波の影響で朝から鴨川が凍結してたってニュースでやってたわよ。あ、ほら今も凍ってる」
 
 秋葉が両腕を抱えて橋の上を歩く中、恵美さんが橋の下を流れている鴨川を覗く。俺たちもつられて除いてみると、確かに鴨川の水が凍っていた。

 この寒さだしそうなるのも当然か。今までそんなこと有り得なかったんだがな……。
 
「けど、これだけ凍ってたらアイススケートできるんじゃないか?」
「あ、確かに。空いた時間に降りてみましょうか」
 
 ちゅうじんの問いにジュリアが答える。

 こんなクソ寒い中、よく降りてみようとか思えるよな……。今は凍ってるけど、溶けたら極寒の川の中に真っ逆さま。もし、泳げない俺がそうなったら、一巻の終わりだ。