「あぁ、起きたか」
「起きたかじゃねぇよ! 何勝手に家の物散らかしてくれてんだ⁉」

 リビング全体にはお菓子の袋や漫画、電化製品に至るまでありとあらゆるものが浮いている。とても仕事に行ける状態ではないのは明白だろう。
 
 どうしてくれるんだよこの状況……。こんなに散らかってたら出かける準備もできないじゃないか。
 
「別に良いダロ。今日からボクもここの住人なんだから」
「良くねぇわ! 誰が片付けると思ってるんだよ」
「あー、すまん。こっちで何とかしとくから心配しなくても大丈夫だぞ」

 ちゅうじんは俺に向かって軽く謝ると、スナック菓子を口に放り込みながら、漫画のページを捲った。その様子にイラつきを覚える。
 
 朝からこんなに疲れるとは……。取り敢えず、顔でも洗いに行くか。
 
 リビングを出て、そのまま洗面所へ向かう。だが、床が濡れていることに気づく。どこからか水が漏れているのかと周囲を見回していたら、洗濯機の中が泡だらけになって水と泡が漏れ出ていた。

「こ、この野郎……。おい! ちゅうじん!」
「んー? 今度は何だよ」

 俺が大声でリビングにいるちゅうじんに向かって叫ぶと、漫画片手にやってきた。本人は俺が何故怒っているのか分かっていないようで、きょとんとした表情を浮かべている。
 
「俺が寝てる間に何した?」
「え? あー、これから住むにあたって色々探ってたんだ。そしたら、液体の入った容器を見つけて、水と混ぜると良いって書いてあったからそれで……」
「あー、もう分かった。分かったから、お前はリビングで大人しくテレビでも見てろ」
 
 怒りを通り越して呆れた俺は、ちゅうじんにリビングへ戻るように言う。ちゅうじんがリビングの方へ戻るのを確認したら、掃除用具の中から雑巾とモップを取り出して、濡れた床を掃除していく。

 全く。なんで朝っぱらから、こんなことしなきゃならないんだよ……。

 ひたすらちゅうじんへの愚痴をこぼしながら、掃除をすること20分。掃除を終えて、リビングに戻ってくる頃には7時を回っていた。

「げっ。もうこんな時間かよ!」

 急いで仕事に行く準備をする。こっちが焦っている間、ちゅうじんは呑気にテレビのリモコンを操作していた。
 
 これじゃあ朝飯はコンビニで買っていくしかねぇか……。後、ちゅうじんには帰ったら説教してやらないとな。

 ちゅうじんをよそ目に、手早く準備を済ませると俺は再度、大人しくしてろと声をかけて家を出るのだった。
 
 
 ◇◆◇◆

 時は流れ、午後10時。仕事を終えた俺はキテレツ荘の中へと入っていく。

 今日は朝からバタバタだったから、疲労がエグイことになってるな。こりゃ、帰ったら即寝落ち確定だな……。にしても、ちゅうじんちゃんと留守番してるよな?

 階段を上がっていたら、何やら焦げた匂いが漂ってきた。ここの住民が焼き魚でも焼いているのだろうと思い、303号室の扉を開けて。そのままリビングの方へと向かう。

「ただいまー」
「おー、おかえり~」
「って、またかよ……」

 リビング全体に目を向けてみたら、朝と同様、物が大量に浮いていた。こりゃ、何回言っても聞かないだろうなと見切りをつけて、俺は空いている椅子に鞄を下ろす。
 
 帰ってきて早々、溜息を吐きながら手を洗うために洗面所へ移動する。どうやら、朝みたく床は濡れていないようだった。俺はささっと手を洗うと、ご飯を作るために再びリビングへと戻る。

 そのついでに、ちゅうじんへ地球での生活はどうかと訊いてみる。

「色んなものに溢れてるから飽きないな。加えてテレビってのは凄い。これ1台でたくさんの情報が収集できるのはめちゃくちゃ便利だ。特に昼ドラは人間性が知れて、見ていて面白い」
「な、なるほどな……」
 
 昼ドラって結構ドロドロしたもんが多いイメージがあるが、ちゅうじんはそう言うのが好きなのか……?

 まぁ、ここでの生活を気に入ってもらえたようで何よりだ。それじゃあ軽く飯でも作って食べるとするか。

 そのままキッチンの方へ移動し始める。すると、やけにむせ返るような臭いにおいが強まっていることに気づく。まさかと思い、ガスコンロの方へ急いで行ってみたら、そこから炎が発火していた。

「おい! ちゅうじん、一体何やった⁉」
「へ? あー、お腹減ったからご飯作ろうと思って、適当に弄ってたらあぁなった」
「アホか! そういう大事なことはもっと早く言え! てか、何だこのゲテモノは!? いい加減にしろよ!」

 コンロの方を見てみると、鍋からこの世のものとは思えないような紫色の液体が飛び出ていた。
 
 これが本物の闇鍋か……。じゃなくてこいつに料理をさせるのはマズい。間違いなく俺の胃が終わる。
 
 顔を引き攣らせつつ、俺は慌てて家の外に設置してある消火器を取りに行く。

 その道中で、前に大家さんが火災報知器壊れているから気を付けてと言っていたことを思い出した。だから、いつまで経っても鳴らなかったのだ。急いで消火器を持って戻ると、炎が燃え広がらないうちに消火へ取り掛かった。