「げっ……よりにもよって金魚すくいからかよ……」
 
 目線の先にある金魚すくいの屋台を見て、俺は思わず顔を顰める。
 
「それがどうかしたのか?」
「え、いや何でもな――」
「あれぇ? もしかして魚が苦手だったりー?」
 
 咄嗟に否定するも、王子はニヤリとした目で俺の方を見る。

 こうなったら、王子はこっちが白状するまでしつこく訊いてくるからな……。

 早々に観念して、溜息を吐く。
 
「あぁ、そうだよ」
「ほー、なるほど。……それだけじゃないよな?」
 
 なんで分かるんだよコイツ……。王子の観察眼の異常な鋭さに、思わずジト目で見返しながら、重い口を開ける。

「……泳げん」
「はっ? え、嘘だろ……。須佐之男命(海の神様)祀ってるのに泳げないとか有り得ねぇ」
「はぁ……だから言いたくなかったんだよ……」
 
 別に水が嫌いとかではない。一応、10歳の頃までは泳げていたのだ。

 泳げなくなって、魚が無理になったのは家族で海水浴に行ったときのこと。海で泳いでいたら破天荒な親父が突如、水中バレーをしよう言い出して妹と俺と3人でやることになった。
 
 だがその最中、海底に紛れていた大型の魚の姿をした祟魔が俺の真後ろに接近。祟魔は親父が駆除してくれたのだが、異様に大きかったそいつに驚いた俺は溺れてしまい、そこからトラウマになってしまったのだ。
 
 ちなみに、全てのトラウマの発端となった親父は未だに許していない。あのとき、水中バレーをやろうなんて言い出さなかったら今頃、魚嫌いになって泳げなくなるなんてことにはならなかったのだから。
 
 王子に泳げなくなった原因を話せと言われたので、仕方なく当時のことを話していたら、王子が興味深そうな声を漏らした。
 
「ほぇ~、なら尚更行くしかないよな」
「なんでそうなる⁉ 俺は絶対に金魚すくいだけはやらんからな!」
 
 必死に抗議する中、王子が思いっきり俺の腕を引っ張って金魚すくいの屋台へ行こうとする。
 
 こいつ、見た目に反してどんだけ力強いんだよ……! 王子なんて生易しいもんじゃねぇ!
 
「金魚すくいは夏祭りの定番! 行かない理由はねぇ!」
「射的でも輪投げでも、魚に関するもの以外なら何でもやるからそれだけは勘弁!」
 
 これでもかと踏ん張って金魚すくいから逃れようとしたら、王子が急に手を離して、危うくこけそうになる。

 何とか踏みとどまって王子の方を見れば、目を細めて口角を上げた彼がそこにいた。
 
「お、言ったな? 言質取ったからな? よし、じゃあまずは射的からだ!」
 
 王子はビシッと射的の屋台を指差して、笑みを浮かべた。
 
 こ、こいつ……完全にこうなることを狙ってやがったな……。

 王子の射撃スキルは異常なほどに正確だ。もしや、今までの発言は全て自分の土俵に持ち込む策だったのか。

 やってしまったと自らの発言に後悔して肩を落としていたら、後ろからりんご飴を持ったジュリアと綿あめを持ったちゅうじんがやってきた。

「タロさん、泳げないんですか?」
「そうなのか?」
「そうだよ。なんか悪いか?」
「いや、意外だなと思いまして……。ほら、タロさんって何でもできる万能神みたいなイメージがあるので」
 
 ジュリアがそう口にすれば、ちゅうじんはコクコクと頷いた。
 
 こいつら、俺を何だと思ってんだよ……。こちとら普通の人間だぞ。ちょっと周りにいる人間のクセの強さが異常ってだけで。
 
 すると、先に射的の屋台へ行っていた王子から声が掛かる。
 
「ほら、早くやるぞ」
「はいはい」
「おっ? 何やるんだ?」

 屋台の方へ行こうとした矢先、持っているものを食べ終わったちゅうじんとジュリアが興味津々な目で見てきた。
 
「射的だよ。的にコルク状の球を当てて景品を落とすゲームでな。落とした商品はそのままゲットできる。やるか?」
「勿論だぞ!」「やります!」
「なら、うーさんとジュリアも四番勝負に参加ってことで。おじさーん、四人分の銃とコルクよろしく~」
 
 王子が屋台のおじさんに声を掛ける中、参加することになったジュリアとちゅうじんは手に持っているものを急いで口に含み、おじさんからコルク銃と10個のコルクの入った入れ物を受け取る。
 
 全員分行き渡ったところでゲームスタート。両サイドで次々と景品を撃ち落ちしていく王子。ちゅうじんは始めてやるからか初撃を外すも、その後は全弾命中。屋台の周囲に居た人たちから歓声が上がる。

 いくら何でも本気になり過ぎだろこの2人。この分だと店の景品全部かっさらっていくことになりかねないな。半分呆れながら自分とジュリアも着実に的を突いていく。
 
 最終的に王子が1位で10発、ちゅうじんが2位で9発。俺とジュリアは仲良く7発で3位。

 せっかくだからポイント制にしようということになり、1位は3ポイント、2位は2ポイント、3位が1ポイント、最下位が0ポイントに決まった。

 最後にポイントを合算して1番多かった勝者に敗者が何かを奢るという新ルールも追加され、勝負に燃える俺を含めた一同は勝負に燃え始める。
 
「いやはや、やっぱり自分の得意分野で勝てると嬉しいね~。次はあれやろうぜ」
 
 景品の入った袋を見ながら王子が次に指差したのは輪投げだった。俺たちはさっそく列に並ぶ。
 
「輪投げってなんだ?」
「うーさん、輪投げというのはですね~」
 
 ちゅうじんが不思議そうな目で隣にいたジュリアの方を見てきた。ジュリアはそれに対して意気揚々と説明し始める。
 
 普段から苦無を投げまくっている王子に取ったらこのゲームも勝ったも同然だろう。

 また王子の得意分野……この四番勝負、俺に勝ち目あるのか?

 そう不満げに眉を顰めながら、並ぶこと3分。ちょうどちゅうじんが輪投げが何なのか分かったところで順番がやって来た。 全員分の輪が行き渡ったところで輪投げ開始。
 
 配布された輪は5個。王子は持ち前の投擲スキルで5個全てを木の棒へ輪を入れていく。

 一方のちゅうじんは力加減ができずにいるようで、ほとんどの輪が木の棒が刺さっている長方形の的よりも外に飛んで行ってしまい、結果は5個中1個。

 そんな中、俺は5個中4個、怪力持ちのジュリアは力加減を途中で覚えて5個中2個を入れることに成功し、まずまずの結果となった。全員が輪を投げ終わったところでフィニッシュ。

 輪投げを制したのはやはり王子。1位を獲得し、王子は現在6ポイント、その次に俺が2位で現在3ポイント、ジュリアが現在2ポイント、最後にちゅうじんが最下位で現在2ポイントとなった。

「また王子の勝ちか……」
「後、2つあるからまだ逆転のチャンスはありますって」
「だな」
 
 隣を歩くジュリアにそう言われ、何か他のゲームはないのかと辺りを見回す。すると、やけに白熱したブースがあった。そっちを見れば『チャンバラ合戦』と書かれた旗があった。