「――あぁ、表に貼ってあるやつか。いつ剥がすか迷ってたが、珍しいな。ここに来るとは。しかもこの大きさで」
低く、落ち着いた、聞いてて心地がいい声。綺麗な顔立ちに合う声だと思った。――だが、そんな声でも、聞き捨てならないことがあった。
「誰がちっさいですか! どこもちっさくないですよ!」
身長とか胸とか胸とか胸とか胸とk――――(以下同文)
「んぁ? ――あー、語弊が生まれた。悪い。この年で、か」
「そうですよ!」
怖い顔して、なんてこと言うんだろうこの人は。
「アルバイト、だったか。奥、来い。面接してやる」
「ほんとですかぁ!」
でも、その一言でもうこの人への不審感は消えた。やっと努力が報われる気がする。
「お前、声でかいな……」
「珠洲矢……たま?」
「はぁい! 珠洲矢たまです!」
カウンターの中に案内されて、近くにあったパイプ椅子を広げて腰かける。妙な緊張感。
その人は、ファイルに入っていた履歴書に一通り目を通し、私の顔を一瞥したあと、一言。
「たまって顔じゃないな」
「よく言われますぅ」
「――――そうか。じゃあ、面接だ」
『そうか』ってなんですか? 何を思ったんですかその間があったときに。
「えっ、書類審査通ったんですか?」
「あぁ。でも、これといって聞くことねぇんだよな」
無計画なアルバイト募集……!? ここのアルバイト、大丈夫なのほんとに。
その人はしばし考えて、やがていいの思いついたみたいな顔になった。そして頬杖をついてこう言う。
「――お前、本、好きか?」
ただ、それだけ。
「はぁい! 本、大好きです! 古い本は特に! 昔ながらのレトロ~なフォントでびっしり埋められた文庫本とか、ページをめくった時にふわって香る古書の匂いとか! ついつい吸っちゃうくらい好きです! あとは……」
「わかった、もうわかったから。だいたいお前がどんなやつかは分かった。落ち着け。止まれ。俺から聞いといてあれだけど、十二分に分かった」
「ふぇ……」
しまった。呆れられてしまった。すごい困った顔してる。いや、怒ってる? どっちなんだろう。わかんないな。つくづく。
「お前。変わってるよな。こんなとこにわざわざバイト応募しに来るなんて。それに限らずだが」
「えへへ。変わってるって、よく言われますぅ」
「だろうな」
そう言いながら、履歴書を返してくれる。お礼を言って受け取ると、その人は口を開く。
「採用だ。珠洲矢」
「ほんとですかぁ! ……えっとぉ……んーと」
採用してくれたのはありがたいけど、いかんせん名前が分からない。名札もつけてないし。
「あぁ、俺の名前か。俺は――――烏丸。烏丸蒼汰だ。俺のことは『店長』と呼べ」
頬杖をつきながら、すごい真顔でそう言った。そこは笑ってもいいと思いますが。
「はぁい! わかりましたっ! てんちょーっ!」
へぇー、烏丸蒼汰さんっていうんだ。それにしても……。
「てんちょーだって、蒼汰って顔じゃないじゃないですか。爽やかさゼロですよ?」
「うるせぇ。目つきが悪いのも、三白眼も、生まれつきだ」
「ふふふっ。てんちょーって、意外とおしゃべりなんですね」
「どういう意味だよそれ」
「ふふっ、内緒ですっ」
「いいから、早く取り掛かるぞ。なにせ、量が多いんだ」
低く、落ち着いた、聞いてて心地がいい声。綺麗な顔立ちに合う声だと思った。――だが、そんな声でも、聞き捨てならないことがあった。
「誰がちっさいですか! どこもちっさくないですよ!」
身長とか胸とか胸とか胸とか胸とk――――(以下同文)
「んぁ? ――あー、語弊が生まれた。悪い。この年で、か」
「そうですよ!」
怖い顔して、なんてこと言うんだろうこの人は。
「アルバイト、だったか。奥、来い。面接してやる」
「ほんとですかぁ!」
でも、その一言でもうこの人への不審感は消えた。やっと努力が報われる気がする。
「お前、声でかいな……」
「珠洲矢……たま?」
「はぁい! 珠洲矢たまです!」
カウンターの中に案内されて、近くにあったパイプ椅子を広げて腰かける。妙な緊張感。
その人は、ファイルに入っていた履歴書に一通り目を通し、私の顔を一瞥したあと、一言。
「たまって顔じゃないな」
「よく言われますぅ」
「――――そうか。じゃあ、面接だ」
『そうか』ってなんですか? 何を思ったんですかその間があったときに。
「えっ、書類審査通ったんですか?」
「あぁ。でも、これといって聞くことねぇんだよな」
無計画なアルバイト募集……!? ここのアルバイト、大丈夫なのほんとに。
その人はしばし考えて、やがていいの思いついたみたいな顔になった。そして頬杖をついてこう言う。
「――お前、本、好きか?」
ただ、それだけ。
「はぁい! 本、大好きです! 古い本は特に! 昔ながらのレトロ~なフォントでびっしり埋められた文庫本とか、ページをめくった時にふわって香る古書の匂いとか! ついつい吸っちゃうくらい好きです! あとは……」
「わかった、もうわかったから。だいたいお前がどんなやつかは分かった。落ち着け。止まれ。俺から聞いといてあれだけど、十二分に分かった」
「ふぇ……」
しまった。呆れられてしまった。すごい困った顔してる。いや、怒ってる? どっちなんだろう。わかんないな。つくづく。
「お前。変わってるよな。こんなとこにわざわざバイト応募しに来るなんて。それに限らずだが」
「えへへ。変わってるって、よく言われますぅ」
「だろうな」
そう言いながら、履歴書を返してくれる。お礼を言って受け取ると、その人は口を開く。
「採用だ。珠洲矢」
「ほんとですかぁ! ……えっとぉ……んーと」
採用してくれたのはありがたいけど、いかんせん名前が分からない。名札もつけてないし。
「あぁ、俺の名前か。俺は――――烏丸。烏丸蒼汰だ。俺のことは『店長』と呼べ」
頬杖をつきながら、すごい真顔でそう言った。そこは笑ってもいいと思いますが。
「はぁい! わかりましたっ! てんちょーっ!」
へぇー、烏丸蒼汰さんっていうんだ。それにしても……。
「てんちょーだって、蒼汰って顔じゃないじゃないですか。爽やかさゼロですよ?」
「うるせぇ。目つきが悪いのも、三白眼も、生まれつきだ」
「ふふふっ。てんちょーって、意外とおしゃべりなんですね」
「どういう意味だよそれ」
「ふふっ、内緒ですっ」
「いいから、早く取り掛かるぞ。なにせ、量が多いんだ」
