その夜、桜月庵の仕事を終えた後。
美咲は、悠人に声をかけた。
「悠人さん、少し……お話しできますか?」
夜風に揺れる提灯の灯り。店の前を通り抜ける風が、どこか優しく背中を押してくれるようだった。
二人は並んで裏庭に出た。夜空には、春の星が穏やかに瞬いている。
しばし沈黙が流れる。美咲は胸に手を当て、深呼吸をした。
今日、大女将に語った「覚悟」。それを、いまこそ悠人に伝えなければならない。
「悠人さん……」
震える声。それでも美咲は視線を逸らさなかった。
「私……最初は、ここにいることさえ不安でした。記憶を失って、母のことも何も分からなくて……。でも、桜月庵で働きながら、少しずつ自分の居場所を見つけられた気がします」
悠人は黙って聞いている。その眼差しは真剣で、どこまでも温かい。
「大女将に言われました。覚悟が必要だって。……それで気づいたんです。私にとっての覚悟は、この店を守りたいっていう気持ちと……そして……」
一瞬、言葉が途切れる。
鼓動が早鐘のように鳴り響き、息が詰まりそうになる。
それでも、美咲ははっきりと告げた。
「悠人さんと、一緒に歩んでいきたいという気持ちです」
言葉を吐き出した瞬間、胸の奥に溜め込んでいた重さが、ふっと軽くなった。
悠人の瞳が大きく揺れる。だが次の瞬間、彼は微笑んだ。
「……美咲さん。いや、さくら」
懐かしむように妹の名を呼びながらも、その声には別の温度があった。
「僕も……ずっと迷っていた。君を妹として守るべきか、それとも一人の女性として想うべきか。でも今日、決めたんだ」
悠人はゆっくりと美咲の手を取った。温かな掌が重なり、二人の距離が一気に縮まる。
「僕も、美咲さんと一緒に歩んでいきたい。……これからの人生を」
胸の奥が熱くなる。涙が込み上げそうになるのを堪え、美咲は強く頷いた。
「ありがとうございます……悠人さん」
星空の下、二人の影が静かに重なった。
幼い頃の絆を越えて、いま新たな愛の物語が始まろうとしていた。
美咲は、悠人に声をかけた。
「悠人さん、少し……お話しできますか?」
夜風に揺れる提灯の灯り。店の前を通り抜ける風が、どこか優しく背中を押してくれるようだった。
二人は並んで裏庭に出た。夜空には、春の星が穏やかに瞬いている。
しばし沈黙が流れる。美咲は胸に手を当て、深呼吸をした。
今日、大女将に語った「覚悟」。それを、いまこそ悠人に伝えなければならない。
「悠人さん……」
震える声。それでも美咲は視線を逸らさなかった。
「私……最初は、ここにいることさえ不安でした。記憶を失って、母のことも何も分からなくて……。でも、桜月庵で働きながら、少しずつ自分の居場所を見つけられた気がします」
悠人は黙って聞いている。その眼差しは真剣で、どこまでも温かい。
「大女将に言われました。覚悟が必要だって。……それで気づいたんです。私にとっての覚悟は、この店を守りたいっていう気持ちと……そして……」
一瞬、言葉が途切れる。
鼓動が早鐘のように鳴り響き、息が詰まりそうになる。
それでも、美咲ははっきりと告げた。
「悠人さんと、一緒に歩んでいきたいという気持ちです」
言葉を吐き出した瞬間、胸の奥に溜め込んでいた重さが、ふっと軽くなった。
悠人の瞳が大きく揺れる。だが次の瞬間、彼は微笑んだ。
「……美咲さん。いや、さくら」
懐かしむように妹の名を呼びながらも、その声には別の温度があった。
「僕も……ずっと迷っていた。君を妹として守るべきか、それとも一人の女性として想うべきか。でも今日、決めたんだ」
悠人はゆっくりと美咲の手を取った。温かな掌が重なり、二人の距離が一気に縮まる。
「僕も、美咲さんと一緒に歩んでいきたい。……これからの人生を」
胸の奥が熱くなる。涙が込み上げそうになるのを堪え、美咲は強く頷いた。
「ありがとうございます……悠人さん」
星空の下、二人の影が静かに重なった。
幼い頃の絆を越えて、いま新たな愛の物語が始まろうとしていた。



