朝日はすでに昇りきっていた。
ピンクとオレンジの狭間だった海は少しずつ青さを取り戻していく。
波打ち際を照らす光の中で、深山くんは私の泣き顔と、その背後に広がる海のグラデーションを紙の上に定着させていく。
ああ、この人には、見せていいんだ……。
嘘の笑顔を浮かべなくてもいい。無理に誰かに合わせなくてもいい。
ただ静かにここにいて、深山くんの描く景色の一部になるだけで、自分の存在が肯定されているような気がした。
私の心から、重くて冷たい塊がすーっと溶け出していく。
数分後、
深山くんが
「……できた。」と小さく息を吐き出し、鉛筆を止めた。
私は膝立ちになって、深山くんの横からスケッチブックを覗き込む。
そこに描かれていたのは、朝焼けの海と、膝を抱えて涙を拭う一人の少女の姿だった。
デッサン自体はまだ荒削りで、黒い鉛筆の線だけなのに、その絵からは驚くほど静かな波の音と、朝焼けの潮風の匂いが漂ってくるようだった。
そして何より、絵の中の少女は、切ないけれど、ちゃんとそこに「生きて」いた。
絵の中の私はちゃんと息をして、生きていた。
