午前五時三十分。
海辺で夜を明かした私たちは、始発電車に乗り込んだ。
「廉くん、いつも私の小さい隠し事に気付くよね」
人の少ない電車内で、直してもらった下駄を少し上にあげながら彼を見る。
「例えば?」
「給食のとき、落ちてるご飯気付かずに踏んじゃったときとか」
「あったあった。気持ち悪そうな顔してたよな」
「あとは、部活のときに虫が怖くて動けなかったとき」
「凍りついてたから。すぐにわかったよ」
他にもたくさん、助けてもらっていた。
思い出してはいけないと思っていたことを、こうして思い出せることが嬉しくて。懐かしく思いながら話せることが、幸せで。
「俺、結構見てたから。花純のこと」
「えっ」
喜ぶべきか、恥ずかしがるべきか。
正直自分の行動に見られていてもいいようなものは思い浮かばなくて、絶望的な声が口からこぼれる。
「授業中、居眠りしてたりとか。でも何より、莉子と一緒にいるときはいつも一番の笑顔で、正直莉子が羨ましかった」
そんなふうに思っていたなんて、あのときも、きっとこうして逢えていなかったら今も。
知らずに、莉子と過ごしていた。
親友で、好きな人の好きな人で。だからこそ、一緒にいるのが苦しいときもあったけど、それすら隠して。
そんな日々も、もう終わり。
ただの親友として、やっと莉子をまっすぐ見ることができる。
「きっと俺、ずっと莉子といる花純を見てたから、勘違いされたんだろうな」
「そんなに好きだったの?」
「当たり前だろ。逢えなくても、好きなんだから。どんな花純でも、好きでいられる自信があるよ」
まっすぐこちらを見て、まっすぐな言葉が飛んでくる。
繋いだままの手を離して顔を隠そうとするけど、廉くんは両手で私の右手を包んだ。
「花純の線香花火が落ちてくれてよかった」
そう、私の目を見る。
微笑んだ、優しい顔が私の目に映った。
「俺が幸せにするから。花純のこと」
「じゃあ、私が廉くんのこと幸せにするね」
大切にする。幸せにする。
簡単じゃないとは思うけど、私たちならきっとできる。
根拠はないけど、窓に映る私たちの姿を見ていたら、自信を持ってそう思えたんだ。