数々の奇妙なポスターが捨てられていたのは海が近い山の中だった。


誰がなんのためにこんなポスターを作ってここに置いたんだろう。


考えていると足音が聞こえてきて息をひそめた。


この山の所有者は僕の祖父で、その祖父がひと月前に他界したのをうけ、どんな状態にあるのか確認を頼まれてここへきた。


山は思っていたよりも大きく、山をぐるりと取り囲むようにフェンスが張り巡らされており、参道へ入るためには僕のようにフェンスの鍵を持っているか、あの高いフェンスをよじ登るより他方法はない。


つまり、僕以外のこの足音の正体は不法侵入者で間違いないのだ。


「誰?」


まだ姿が見えない不法侵入者へ向けて声をかける。


相手に声が届いたのか、足音が一瞬止まった。


そしてこちらへ向けて走ってくる音に変化する。


「助けてください!」


草木をかき分けで現れたのは服も髪もボロボロになった20代前半くらいの女性だった。


「あなたは――」


誰?

と、質問する言葉を飲み込んだ。

そういえばさっきのポスターで見たことがある顔だ。


視線を足元へ落として該当するポスターを目で探すとすぐに見つかった。


指名手配中の大浦さくらで間違いない。


「助けてください!」


再度言われて僕は手を差し伸べた。


彼女は安心した表情になり、次の瞬間その場に崩れ落ちていた。


きっと、緊張の糸がとけたんだろう。


僕は彼女の細すぎる体を抱き上げて歩き出した。


この子は大日帝国という国から逃れてここまでやってきた?


そこ国は日本によく似ていて、そして全く違う?


その国ではなにが行われていた?


疑問は浮かんでくるけれど、少し考えればどうでもいいことだった。


だって


ポスターを見ただけでも石能という人間はヤバイやつだ。


そんなヤツが必死になって探している大浦さくらを僕はみつけた。


大浦さくらを引き渡す代わりに、石能はどれくらいの金を用意するだろう?


できれば自身の洗脳国について知られたくないだろうから、かなりの金額を出すはずだ。


僕は大浦さくらの顔を見て、ほくそ笑んだのだった。


END