今年の連休は四月の終わりに三連休、三日登校した後、五月の始めに四連休があった。今年の連休は通して猛暑。日の下に出れば肌がジリジリと焼かれる。
 連休の前半が終わった頃、教室で千尋と顔を合わせたけれど、肌は赤と黒の間の色をしていた。まだ赤みが残るその顔と腕は触ることも憚られるほどに痛々しかった。
「いやー、この三日間、部活で走り回っていたから、焼ける焼ける。こんがり焦げちゃったね」
 白い歯を見せながら笑っていた。ショートカットでスレンダーな体格、そして持ち前の明るい性格がアスリートの雰囲気を醸し出していた。肌が焼けることで、より一層そのイメージは強固なものとなって、クラスメイトの誰もが「彼女は運動が得意」「陸上部に所属している」ということを知っていた。
「いやぁ、痛そうねぇ」
 悪気も無く寧々が赤い腕に触れると、「痛っ! ちょっとやめてよ」と痛がる姿は面白い。連日の猛暑、特に日差しは例年よりも強い。ニュースでも取り上げられ、熱中症への注意喚起がされていた。そんな炎天下で運動をしていたなんて。「よくやるよね」と私は呟いた。
「陽菜子も寧々も部活には入っていないんだっけ?」
「そうねぇ、私も陽菜子も帰宅部だよ。休みの日まで学校に来る気にはなれないからねぇ」
「参加自由なら帰宅部で良い。気が合わない先輩とかいたら嫌だし」
「二人とも、高校生活を謳歌しなくていいの? 部活だよ? 楽しいよ?」
 力説してくるが、部員によって居心地の良さが変わる部活という集団に属することは私にはリスキーで、魅力には感じなかった。アルバイトを優先していることもあるが、寧々の言うとおり、休みの日まで学校に来る気にもなれない。
「千尋は足が速くて周りから認められているから、楽しいんだよ」
 そう思って口に出しそうになった。自分に認められる秀でたものがないと自覚してしまう。それに加えて、千尋に対しても失礼だと思った。足が速いから認められているのなら、彼女よりも足の速い人がいるなら、周りからの承認はどこに向くのか。まるで「由衣が陸上部じゃなくて良かったね」とでも言いたげではないか。そう思うと、口からその言葉は出なかった。陸上部で同学年だけでなく、先輩や先生からも千尋の足の速さは認められていて、千尋の中の由衣への嫉妬は薄れていた。とはいえ、水面下で人気のある由衣への“人気者”としての嫉妬はまだいくらか残っているようだった。