昼休みに食堂で弁当を食べていると大槻がやってきた。食堂には大勢人がいるのに、よく毎度毎度私を見つけられたものだと感心してしまう。
「このあといい?」
「断れる?」
「無理だね」
 だろうね。分かっていたけれど。いつも呼びに来る大槻も苦労人だ。
「あなたも大変だね」
「誰のせいだと思ってんの?」
「城ヶ崎」
「……」
 取り巻き達の本音は分からないが、きっと皆が城ヶ崎を親しく感じているわけではないのだろう。私が城ヶ崎に従っているように。
「毎日呼び出されるのも骨が折れるんだけど、どうにかならないのかな」
「城ヶ崎に言って」
「嫌だよ、怖い」
 これ以上心象を悪くしたくない。今日の呼び出しは、今朝の間瀬が原因だろう。余計なことをしてくれた。折角の弁当も味がしない。
 多目的室に呼び出され、そこにいたメンバーも同じ。
 挨拶も無く開口一番に、
「間瀬に何か言った?」
 と詰め寄られた。
「何も言ってない」
「本当に?」
「信じないの?」
「だってさ、あんたは私との約束、破ったでしょ? 金曜日の帰り、高瀬と一緒に帰ったらしいね。本当に仲が良いんだ、あんた達」
 やはり見られていた。私がどれほどの監視の下に置かれているのか想像がつかなく恐ろしくなった。どこでも、どこまでもお見通しということか。
「そういうのさ、私ムカつくんだよね。約束を守らないやつって」
 約束? 言いなりにならないやつの間違いじゃないか?
「まあ、いいよ。あんたはやっぱり高瀬の仲間だし、私はあいつをこれ以上自由にさせたくない。……そうだ、あんたが高瀬に何かしなよ。大切なものを盗るでもいいし、手をあげてもいい。どう? やりなよ。仲良しのあんたがそんなことをすれば、高瀬も懲りるでしょ」
 なんてことを言うのか。
 そんなこと、やるわけがない。
「やるわけないでしょ、そんなこと」
「……ちっ、いいよ。私に縋りたくなるようにしてやるよ。そうだな。噂でも流そうか。どうせ誰も否定できやしない。だって、誰もあいつのことを知らないから。まぁ、助けを請うてきたら、助けてやらんでもないけどさ」
 どうしよう。根拠のないことでも、皆は私や由衣よりも城ヶ崎の言葉を信じるだろう。疑うことは許されない。城ヶ崎の言ったことが本当になるのだ。
 これまで大人しくしていたはずなのに、こんな結末になるのか。
 ……そうか。城ヶ崎はこの状況になることを決めていたのだ。私がどんな行動をとるかは関係ない。ここに行き着くことは変わりないのだ。城ヶ崎が由衣に遇われた、あのときから結末は決まっていたに違いない。私が足掻こうが関係なかったのだ。