「おはよー!」
夏海の声が教室に響く。夏休みが明け、二学期が始まった。
でも、いつもの席に樹の姿はない。
「なに、あいつまた来てないのー遅刻かよ」
と夏海が私の前の席にドカッとかけて話してくる。
「うん、たぶんねー」
「あいつ。最近多いなー最近って言うかここ数ヶ月か」
数ヶ月、その言葉に少しドキッとした。なぜだかわからないけど変な予感が一瞬した。でも、気のせいだと思い頭の中で必死に流した。
「授業始めるぞー席つけー」
先生の声が響き各々自分の席について、授業が始まる。
結局その日は樹は来なかった。
授業後、私が心配そうな顔を浮かべて下駄箱で立ってると、後ろから夏海が肩を組んできて
「大丈夫だって、そんな心配するなってどうせ寝坊か風邪だろ?」
と心配してる私の不安を拭い去ってくれる。
「うん、そうだよね、ありがとう夏海。」
「いいって、なんもしてないしさ、それより最近彼氏と遊んでばっかで付き合ってくれないし、一緒にカフェでも行こうぜ。」
「ちょ、ちょっと、ごめんって!」
「ハハハ、じょうーだん、ほら、行こう!」
と私の手を引いていつものカフェに向かってカフェで数時間ほど他愛もないお喋りをした。帰る頃には私の不安は完全に消えていて。そして、すっかり日が暮れてきていた。並んで、共に駅に向かい帰路に着く。
電車に乗ると共に座ってまたお喋りの続きをする。
「明日には来るって」
「そうだよねー」
と笑いながら話しながら電車に揺られ、途中まで歩き、分かれ道で別れた。
でも、その次の日も次の日も樹は来なかった。
そして、またあの日のように夏海とともに夏海の提案で樹の家に向かった。インターホンを相変わらず躊躇なく鳴らす夏海。
「ちょ、ちょっと待ってて」
心の準備ができる前に、ドアが開いたでも出てきたのは樹じゃなくて、樹のお母さんだった。
「ご、ごめんなさい!樹居ますか?」
樹のお母さんはなぜか複雑そうな顔をして私たちを家に上げた。そして、あの日樹のお母さんが悲しそうにしてたダイニングテールに座るよう言われた。
「あ、あのー樹は」
と私が口を開いた。お母さんは顔を両手で隠して震える声で言った。
「樹はね、死んだの、昨日」
「え、うそ、嘘ですよね?だって子に間まであんなに、、、」
樹のお母さんは泣きながら首を横に振る
「ううん、ほんとうなの。」
とうとう、樹のお母さんは声を上げて泣き出してしまった。
なんて、言えばいいか分からなかった。樹が死んだ?嘘だと言ってほしい、悪い夢なら覚めてほしい。
手の甲をつねったが当然痛かった。同時に、強い駆深い悲しみが押し寄せてきた。
「ウッ、ウッ」
私と夏海は肩を寄せて泣き合った。三人で泣いて、三十分程経った頃だろうか?ようやく全員少し落ち着いてきて、話をの詳細を聞き始めた。
「あれは、夏に入るすこし前くらいかしら、樹はね、具合が悪くてね、ある日倒れて、病院で検査したら。余命二ヶ月だって言われたの。」
信じられなかった、あんな元気だった奴が、余命二ヶ月と宣告されていたなんて。
その時頭で色々と繋がった。そして、樹のお母さんは口元を押さえて再び泣きそう人ありながら震える声でこう続けた。
「あの子ね、それ以来すごく塞ぎ込んでたの。でもね、あの子ずーっと陽菜ちゃんのことが好きだったの。だから、絶対、どうしても想いを伝えたいって。でもね、余命二ヶ月しかないやつが付き合っても辛い思いするだけって、なかなか踏ん切りがつかなかったの。」
知らなかった、樹が、あんなに明るく振舞ってたやつがそんな重たいものをか一人抱え込んでたなんて。そして、樹のお母さんは相引き続き震える声でこう言った。
「でもね、あの子ね、ある日から突然明るくなったの。なんでかって聞いたら、陽菜ちゃんに告白してOK貰えったって。でも夢を壊したくなかったんだけど、余命で悲しませるっていうのはどうしたのって聞いたら。あの子、口元の人差し指を当てていつもみたいにニタッと笑って「まあ期限付きの恋的な?」って笑って言ったの。意味が分からなかったけど、でもこの子が幸せならいいかって深く詮索しなかったの。」
だからだったんだ、私は再び泣きそうになった、全部が完全に繋がった。
そして、樹のお母さんに伝えなきゃ、樹の考えを、想いを、と思って震える声で伝えた。
「樹、だからか。樹二ヶ月だけ付き合ってくれって言われたんです。理由を聞いたら、「夏休みだけのお試し的なってなんか会わなかったらすぐ次行けるように」って?ふざけてるなって思って、怒ったんですけど、でも私嬉しくてOKしたんです。」
スカートに涙がぽたぽたとこぼれてきたが言葉を紡いだ。
「だから、あいつ私を悲しませないように二ヶ月だけの恋って。」
伝え終わると、私はまた顔を隠して泣き出してしまった。
「そう、あの子ったら、ウッ、そうだったのね。」
そういうと、樹のお母さんも泣き出した。樹の想いを伝えられてよかった。
「それから二週間くらい入院したの。ほら、二週間くらい休んだことあったでしょ?夏休みの前に?」
そうして、いろいろ聞いた。泣きながら、言葉を絞り出すように教えてくれた。
「花火大会の日も本当は具合が悪かったのあの子、先生にも止められてね。ウッ、でも、どうしても行きたいって言って、薬を多めに使ってね。帰ってきたら、限界だったみたいで、倒れてねそこから一週間入院したの。」
やっぱり、と話の流れ的に察してはいた。
そして、この間の水族館の事を聞いた、そう、私が最後に樹に会った時だ。
「樹はね、あの日も病院から水族館に向かったの強めの薬いれてもらってね、先生に本気で止められたんだけど、「俺行かないと、彼女待ってるんで」ってニコッと笑って向かったの、でもその後病院戻ったら急変してね、意識不明になっちゃって、学校にも当然いけなくて、とうとう昨日そのまま。」
樹のお母さんの目はもう真っ赤だった。それでもまだ、声を上げて泣き続けた。話を聞き終わると、また三人で大号泣した。
しばらくすると、樹のお母さんがこう言った。
「あの子、最後まで「陽菜」ってか細い声で呼んでたの。」
「樹」
それを聞いて泣いてしまった、最後まで私の事を想っててくれたなんて、なんで気づけなかったんだろと自分を責めた。
次の瞬間、樹のお母さんが私の手を握って涙ながらに言った。
「陽菜ちゃん。あの子あんたと付き合ってるときは本当に幸せそうだった。ありがとうあの子に希望をくれて。」
「いいえ、こちらこそ、ありがとうございます。」
互いに手を繋いだまま泣いた。
「今晩、お通夜なの、陽菜ちゃん、夏海ちゃん、来てもらえる?」
彼のお母さんは目元をハンカチで拭いながら、そう聞いてきた。
「もちろんです。」
二人の声はそろった。一度お互い家に帰りお通夜の服を取りに帰る。
お父さんとお母さんに事情を話したらお母さんは泣いていた。お父さんも腕で目元を隠し声を押し殺しながら自分の部屋に戻っていた。
そして、夜、樹の家に向かう。同級生出来てたのは私と夏海の二人だけだった。後は樹のお父さんとお母さんと親族だけだった。通常は知人も来るそうだが、まだ伝えていないので樹の友達は当然来なかった。
まずは親御さんからお焼香をして、棺の中の樹を見て泣いていた。
次に席順的に夏海が向かう、普段気丈な夏海が子供のように樹の顔を見ながら泣いていた。
最後に、私がご焼香をして、五木の顔見るとまるで眠ってるようだった。そして、ご両親が気を使って私と樹を二人きりにして下さった。
樹の棺の側に行き、座り、棺に腕を乗せて棺ごと彼を温かく抱きしめるように最後に泣きながら言葉をかける。
「樹、信じられないよ、言ってよ。ねえ、なんで抱え込むのさ。だから二ヶ月だったんだね、だから、最後に愛してるっていってくれたんだよね?」
当然返事はない。でも、震える声で涙を片手で拭いながら言葉を紡ぐ。
「ありがとう、私に大切な人に思いを正直伝えるってことを教えてくれて。ありがとう。愛してるよ、樹」
