高校に入学してからの初めての初夏、外はセミが鳴き始めてて、窓辺から見える天色の空にはいかにも夏らしい積乱雲が浮かんでいる。プール終わりでへとへとになった私はまだ濡れている髪を少しでもかわいくみえるようにポニーテールにして、厳しい校則の中でも精一杯のおしゃれをしようとしている。
「あー樹とづきあいたい!」
更衣室から教室に向かう廊下で、私は親友である夏海に本音を漏らす。
「あんたそれ言うの何回目?」
夏海とは高校に入ってから知り合ったが、今では一番の親友で、私の自由奔放な発言に夏海はいつもいじりながらも、真摯に聞いてくれる。
「だってさー好きなんだもん。」
答えになってるような、なってないような言葉を夏海に返す。
「だからさ、告っちゃえばいいじゃん。」
少し呆れた声で、私にアドバイスをくれる。
「だからさ、それが出来たらこんなこと言ってないよ。」
「だってそれしか言いようがないじゃん。」
ごもっともな回答だ。きっと私が逆の立場でもそう答えるだろう。
「樹でしょ、あんたたち仲いいし、案外いけるかもよ。ってかダメならダメでそれでおわりじゃん。大好きなんでしょ?樹のこと」
あっけらかんでおおざっぱな性格の夏海らしい答えだ。夏海の答えに自分でも顔が熱くなって、赤くなっていくのが分かる。口にしていても改めて言われるとなんだか気恥ずかしい。言葉を返そうとしたが、生憎というか、救われたというべきか教室に着いてしまった。プール後の授業なんて頭に入るわけもない、これはきっと全学生に言えるべきことだろう。
とりあえず、席について次の授業である国語の準備をする。この教室はとても眺めがいい。SNSでは「日本一海に近い学校」と言う名前で呼ばれてるほど、人気な学校だ。そんな眺めも無視して私は授業が耳に入れることは1㎜も無く、斜め前に座っている、樹を見つめている。茶髪で少しくせっ毛な髪の毛、プール後で暑いからか乱雑にめくれたワイシャツの袖すら、愛おしく見える。
睡魔で船を漕ぎながらも授業は終わった。でも、樹よりはましだ。樹に至っては、船を漕ぐどころか、途中から、堂々と突っ伏して眠っていた。当然、先生にはばれ、大目玉を食らって、クラスの笑いものになっていた。
「陽菜―帰りにカフェ行こー!」
3列隣の席に座っていた夏海が荷物をまとめながら、楽しそうな提案をしてくれた。
「ごめん!今日はお母さんが夜からパートだから、私が晩御飯作らないといけなくて。」
両手を合わせて、夏海に申し訳ない気持ちを目いっぱい伝える。
「あーあんたも大変だね、いいよ全然。その代わり今度付き合ってね。」
私の事情を聞いて苦笑しながらも、私が罪悪感を感じないように笑いながら許してくれる。
いつもは夏海と放課後、遊んだり、カフェに行くので、あまり乗らない時間の電車に乗る。さすが日本一海に近い学校という肩書なだけあって、駅のホームからも青々とした海が広がっていて、水平線を境にまた違う空の淡い青さが広がっている。爽やかな潮風が吹き抜け、肌にまとわりつくような暑さもほんの少し和らげる。
「すずしー」
吹いてきた潮風の心地よさに揺られながら、そんなことを考えてた。ふと、ホームを見渡してみたら、さっきまでの私の目線を釘付けしていた相手、樹が立っていた。こっちに気づいた樹は学生かばんを左手で持って、乱雑に肩にかけ、高校生にもなっていたずらっ子ぽい笑みを浮かべてこちらに近づいてきた。
「一緒に帰ろうぜ!」
「いいよ。」
傍から見たら、冷静に返してる私も内心ガッツポーズをして、神様に心から感謝をして。ちょうどホームに滑り込んできた電車に乗り込む。
下校時間にも関わらず、珍しく空いている車両に共に鞄を膝に抱え込んで、並んで腰かけた。プシューと言う音と録音機から流しているのではないかと思うほど、毎日同じようにしか聞こえない車掌の声に合わせて扉が閉まる。さっきまでの笑みとは裏腹に樹はいつになく真面目な顔をして予想だにしていなかった言葉を言った。
「お前さ、好きな人とかいるの?」
「いるよ。」
唐突の言葉に内心パニック状態だったが、反射的に答えてしまった。
「じゃあさ、俺と二ヶ月だけ付き合ってほしい」
「驚愕」の二文字以外表現のしようがない気持ちだった。それでも想いを寄せていた相手からの告白は素直に嬉しかった。どう返そうか迷っていると、ふと樹の姿が目に入った。少し大人ぶろうとしている樹だけど、耳を見れば熟れたリンゴくらい真っ赤で、顔は恥ずかしさからそっぽを向いている。そのおかげだろうか、私の頬は緩んで、張り詰めていた空気がほんの少し、和んだ気がした。
もちろん、いいえと答えるわけはない。
「いいよ。」
「ほんとに?やったー!」
さっきまでの真剣な表情はどこへ行ったのやら、電車にいることも忘れて、子犬のように喜びだした。
こんな素直で愛らしい所も私が樹を好きな理由だ。
そこからは普段30分以上かかる時間があっという間に降りる駅に着き、共に電車を降りる。いまだ、長年想いを馳せていた相手からの告白を信じられずに心躍っていたが、10分前に比べ少し冷静になった私は浮かんだ一つの疑問を隣で歩いている、樹に問いかけた。
「なんで二ヶ月だけなの?」
樹は少し言葉を探すようにして、少し間をおいてから答えた。
「あーなんていうか、ほら、これから夏休みじゃん、だから夏休みだけのお試し?みたいな」
なんてヘラヘラわけの分からない理由を並べる樹に腹が立った。
「はー!?何言ってるの?ばっかじゃないの?あんた乙女の気持ち弄んでいるわけ?サイッテー!」
見た目こそ少しチャラそうに見える樹だが、本当は誠実な樹からそんな言葉を言われ、弄ばれてるような気がした、私は怒りの言葉をまくし立てて、スクールバッグと想いを樹にぶつけた。
「わりぃーってただ、夏休みの間ダメだったら、お互い気軽に次に行けるじゃん?もちろん俺は夏休み後も付き合うつもりだって。ごめんな、俺舌足らずで、さっそく彼女怒らせちまったな。」
苦笑しながら申し訳なさそうに必死に早口にその言葉の意図を伝えてきた。そんな、樹を見ていたらなんだか笑けてきて、それに「彼女」という響きが妙にくすぐったくて、気づけば声に出して笑っていた。
「もういいよー、これからよろしくね。彼氏くん。」
言った側から、言った自分が気恥ずかしくて、顔が赤くなっていくのが分かった。でもそれは、樹も同じようで顔が赤く染まっている。
「樹、顔赤いよ。」
笑いながら、半心からかいながら伝えると、
「バカ、こ、これは夕日のせいでそう見えるだけだし!」
と分かりやすく照れていて、ますますおかしくなった。いつしか、日はすっかり傾いていて、二人の影は伸びて、仲良く寄り添っているようにも見えた。そして、そんなことですら今の私にとっては嬉しくて、楽しくて仕方がなかった。
気づけば、自宅の前についていて、樹に別れを告げた。
「あー樹とづきあいたい!」
更衣室から教室に向かう廊下で、私は親友である夏海に本音を漏らす。
「あんたそれ言うの何回目?」
夏海とは高校に入ってから知り合ったが、今では一番の親友で、私の自由奔放な発言に夏海はいつもいじりながらも、真摯に聞いてくれる。
「だってさー好きなんだもん。」
答えになってるような、なってないような言葉を夏海に返す。
「だからさ、告っちゃえばいいじゃん。」
少し呆れた声で、私にアドバイスをくれる。
「だからさ、それが出来たらこんなこと言ってないよ。」
「だってそれしか言いようがないじゃん。」
ごもっともな回答だ。きっと私が逆の立場でもそう答えるだろう。
「樹でしょ、あんたたち仲いいし、案外いけるかもよ。ってかダメならダメでそれでおわりじゃん。大好きなんでしょ?樹のこと」
あっけらかんでおおざっぱな性格の夏海らしい答えだ。夏海の答えに自分でも顔が熱くなって、赤くなっていくのが分かる。口にしていても改めて言われるとなんだか気恥ずかしい。言葉を返そうとしたが、生憎というか、救われたというべきか教室に着いてしまった。プール後の授業なんて頭に入るわけもない、これはきっと全学生に言えるべきことだろう。
とりあえず、席について次の授業である国語の準備をする。この教室はとても眺めがいい。SNSでは「日本一海に近い学校」と言う名前で呼ばれてるほど、人気な学校だ。そんな眺めも無視して私は授業が耳に入れることは1㎜も無く、斜め前に座っている、樹を見つめている。茶髪で少しくせっ毛な髪の毛、プール後で暑いからか乱雑にめくれたワイシャツの袖すら、愛おしく見える。
睡魔で船を漕ぎながらも授業は終わった。でも、樹よりはましだ。樹に至っては、船を漕ぐどころか、途中から、堂々と突っ伏して眠っていた。当然、先生にはばれ、大目玉を食らって、クラスの笑いものになっていた。
「陽菜―帰りにカフェ行こー!」
3列隣の席に座っていた夏海が荷物をまとめながら、楽しそうな提案をしてくれた。
「ごめん!今日はお母さんが夜からパートだから、私が晩御飯作らないといけなくて。」
両手を合わせて、夏海に申し訳ない気持ちを目いっぱい伝える。
「あーあんたも大変だね、いいよ全然。その代わり今度付き合ってね。」
私の事情を聞いて苦笑しながらも、私が罪悪感を感じないように笑いながら許してくれる。
いつもは夏海と放課後、遊んだり、カフェに行くので、あまり乗らない時間の電車に乗る。さすが日本一海に近い学校という肩書なだけあって、駅のホームからも青々とした海が広がっていて、水平線を境にまた違う空の淡い青さが広がっている。爽やかな潮風が吹き抜け、肌にまとわりつくような暑さもほんの少し和らげる。
「すずしー」
吹いてきた潮風の心地よさに揺られながら、そんなことを考えてた。ふと、ホームを見渡してみたら、さっきまでの私の目線を釘付けしていた相手、樹が立っていた。こっちに気づいた樹は学生かばんを左手で持って、乱雑に肩にかけ、高校生にもなっていたずらっ子ぽい笑みを浮かべてこちらに近づいてきた。
「一緒に帰ろうぜ!」
「いいよ。」
傍から見たら、冷静に返してる私も内心ガッツポーズをして、神様に心から感謝をして。ちょうどホームに滑り込んできた電車に乗り込む。
下校時間にも関わらず、珍しく空いている車両に共に鞄を膝に抱え込んで、並んで腰かけた。プシューと言う音と録音機から流しているのではないかと思うほど、毎日同じようにしか聞こえない車掌の声に合わせて扉が閉まる。さっきまでの笑みとは裏腹に樹はいつになく真面目な顔をして予想だにしていなかった言葉を言った。
「お前さ、好きな人とかいるの?」
「いるよ。」
唐突の言葉に内心パニック状態だったが、反射的に答えてしまった。
「じゃあさ、俺と二ヶ月だけ付き合ってほしい」
「驚愕」の二文字以外表現のしようがない気持ちだった。それでも想いを寄せていた相手からの告白は素直に嬉しかった。どう返そうか迷っていると、ふと樹の姿が目に入った。少し大人ぶろうとしている樹だけど、耳を見れば熟れたリンゴくらい真っ赤で、顔は恥ずかしさからそっぽを向いている。そのおかげだろうか、私の頬は緩んで、張り詰めていた空気がほんの少し、和んだ気がした。
もちろん、いいえと答えるわけはない。
「いいよ。」
「ほんとに?やったー!」
さっきまでの真剣な表情はどこへ行ったのやら、電車にいることも忘れて、子犬のように喜びだした。
こんな素直で愛らしい所も私が樹を好きな理由だ。
そこからは普段30分以上かかる時間があっという間に降りる駅に着き、共に電車を降りる。いまだ、長年想いを馳せていた相手からの告白を信じられずに心躍っていたが、10分前に比べ少し冷静になった私は浮かんだ一つの疑問を隣で歩いている、樹に問いかけた。
「なんで二ヶ月だけなの?」
樹は少し言葉を探すようにして、少し間をおいてから答えた。
「あーなんていうか、ほら、これから夏休みじゃん、だから夏休みだけのお試し?みたいな」
なんてヘラヘラわけの分からない理由を並べる樹に腹が立った。
「はー!?何言ってるの?ばっかじゃないの?あんた乙女の気持ち弄んでいるわけ?サイッテー!」
見た目こそ少しチャラそうに見える樹だが、本当は誠実な樹からそんな言葉を言われ、弄ばれてるような気がした、私は怒りの言葉をまくし立てて、スクールバッグと想いを樹にぶつけた。
「わりぃーってただ、夏休みの間ダメだったら、お互い気軽に次に行けるじゃん?もちろん俺は夏休み後も付き合うつもりだって。ごめんな、俺舌足らずで、さっそく彼女怒らせちまったな。」
苦笑しながら申し訳なさそうに必死に早口にその言葉の意図を伝えてきた。そんな、樹を見ていたらなんだか笑けてきて、それに「彼女」という響きが妙にくすぐったくて、気づけば声に出して笑っていた。
「もういいよー、これからよろしくね。彼氏くん。」
言った側から、言った自分が気恥ずかしくて、顔が赤くなっていくのが分かった。でもそれは、樹も同じようで顔が赤く染まっている。
「樹、顔赤いよ。」
笑いながら、半心からかいながら伝えると、
「バカ、こ、これは夕日のせいでそう見えるだけだし!」
と分かりやすく照れていて、ますますおかしくなった。いつしか、日はすっかり傾いていて、二人の影は伸びて、仲良く寄り添っているようにも見えた。そして、そんなことですら今の私にとっては嬉しくて、楽しくて仕方がなかった。
気づけば、自宅の前についていて、樹に別れを告げた。
