「おい、池田なんでこの店なんだよ?」
「ん?別にいいじゃい!このお店とってもいいでしょ!」
私達は、教室で店名を決めるのではなく外に出て決める事にした。どこか落ち着いて決められる所がいいとなったのだか、みんなこの辺の地理は詳しくなく、どこがいいか話し合っていた。
「あっ、私静かで良いところ知ってる!」
私は察しがついたが、残りの男子2人もそこでいいと言うので前に由花と2人で入ったfriedenというお店に入った。
正直に言うと、田島君の雰囲気にこのお店はあまりあっていない気がする。本人もそれには気付いているみたいで落ち着きがない。五十嵐の方はその場に溶け込むのが上手い性格で、もうこのお店には慣れたみたいだ。
「んっじゃ、飲み物も注文したし、店名を決めて行こうぜ」
はーい。という返事と共にお互いに意見を述べていく事になった。
「そうだね。ミサンガを体験でやるのならミサンガという名前を入れた方がより伝わるんじゃないかな?」
「えー、それださくない?パンフレットの最初の方にクラスの出し物名は書かれるんでしょ?そしたらサブタイトル的な名前にしようよ」
ださいと言われたのがショックだったのか五十嵐君は少ししょんぼりしている。
「サブタイトルっていうのはいい意見だな」
私はルーズリーフに今まで出た意見を書き出した。私も何か意見出さないとと思うが意見が浮かばない。
「お待たせいたしました。コーヒー4つですね」
ウェイターの上原さんが音が出ないように、ゆっくり机の上に置き始める。このお店ではコーヒーが一番安いみたいだが、一番美味しく自慢らしい。マスターの袋田さんが長年研究を重ねに重ね、できたのがこのコーヒー。普段飲まないがマスターのなら飲んでみたい。
「わぁ、上原さんありがとうございます!」
いつもと同じようににこっと笑う。
2人はまだ上原さんとは初対面だったのを忘れていた。2人はこの方どちら様?といった風に顔を見合わせている。こちらの様に気づいた上原さんが自己紹介を始めた。
「僕はこちらのお店でアルバイトをしている大学3年生の上原隼斗です。よろしくお願いします」
やっぱり大学生よね。と再確認することができた。五十嵐君と田島君も軽く自己紹介をする。
「そうだ、上原さんは文化祭の店名何がいいと思いますか?私達のクラスはミサンガ体験をするんですけど、サブタイトル的なのをつけたいんですよね」
外部の人から意見を聞くと違った見方の意見をもらえるかもしれない。私達4人は上原さんの答えを静かに待っていた。
「そうですね。まずは、どんなお店にしたいかを考えてみてはどうですか?そこからまた考えるといい意見が浮かぶと思いますよ」
どんなお店にしたいか…か。そうだな…。
「俺は、みんなが楽しめる店にしてぇな」
「その人の個性が表現できるっていうのもいいよね!」
「僕はみんなの思い出に残るお店にしたい」
私はその時真二の言っていた言葉を思い出した。
「私は、サブタイトルに鴇色って言葉を入れたい…なって」
みんな口を揃えて鴇色って何色?と言っている。やはり自分の意見を言うのは苦手だ。段々顔が熱くなってゆく。
「鴇色ってね、鴇が空を飛ぶ時に必要な風切り羽のことを言うのよ。鴇はその羽がないと空を飛ぶことができなくて、その羽じゃないとダメなの。だから、体験に来たお客様にもこの色がいいんだって思ってもらえると嬉しいから鴇色って入れたいと思ったの」
後半は自分でも何を言っているのか分からなかった。捲し立てるように言った後は、ゆっくりコーヒーを飲み喉を潤す。
最初に口を開いたのは以外にも田島君だった。
「へぇ…そんな色よく知ってるな。いいじゃねぇかそれ。その色使おうぜ」
え…?他にも様々な賛成意見が飛び交った。私は恥ずかしくなり下を向いた。でも、みんなに賛成してもらえたことは嬉しく、にんまりと笑う。
「そしたらさ、みんなの思っている世界を大切にしたいし、少しクサイかもしれないけど、鴇色の世界なんてどうかな?とっても素敵だと思う!」
「凄くいいと思う。僕も賛成だよ!」
トントン拍子に話は進み私達のクラスのサブタイトルは『鴇色の世界』に決定した。
「鈴木のおかげで凄くいい案がでたぜ。ありがとな」
別に私は何もしていない。この言葉を教えてくれたのも真二だ。でも、みんなが喜んでくれているから今度会った時にお礼でも言っておこうと思う。
「あっ、上原さーん!マスター聞いてください!」
「ちょっと、池田さん他にもお客さんいるからもう少し静かに…」
五十嵐君がお兄さんで由花が妹のように見えてくる。2人を見てるとなんだか微笑ましい。
上原さんとマスターは、わざわざ私達の席まで来てくれた。
「今日はお友達が多いね。私はマスターの袋田だよ。よろしくね」
先程と同様に軽く自己紹介を済ませると、由花が嬉しそうに上原さんとマスターに話しかける。
「さっきお話ししていた、サブタイトル決まったんですよ!鴇色の世界になりました!」
それはよかった!と言って一緒に喜んでくれた。私達も嬉しくなり少し照れ臭くなる。みんなで決めた大切な名前だから成功できるように頑張ろうと決めた。
———すみませーん。注文いいですか?
「はい、今伺います」
お客さんからの呼び出しがあったため、上原さんとマスターは仕事に戻る。私達も今日の目標だったサブタイトルが決まり、一安心していたが田島君は違っていた。
「今日せっかく集まったから、もう少し先の話もしたいんだがいいか?」
先の話し?なんの話か分からなかったが、田島君が話したそうだったので今後のことをもう少し話し合う事にした。
「2つあるんだが、まず1つ目はどこでミサンガの糸を購入するか。2つ目は料金を取るかどうかだ」
また難しい問題を出してきたと思った。まずは、ミサンガをどこで購入するかについて話し合われる。
「100均で糸を買うのはどうかな?」
「100均だとすぐに糸が切れてしまうと思う、駅前にある手芸屋さんはどうかな?オーダーメイドで糸も発注してくれるみたいなんだけど」
「よく知ってるわね」
「妹がよく行ってるからね」
「え!?妹さんいるの!?何歳?名前なんて言うの?」
「え?美雪だけど…中学2年生」
「いいな〜私弟だから、羨ましい!」
「お前ら話が脱線してるぞ」
楽しい時間はあっという間で気づいたら、空も暗くなり始める。後は料金を取るかどうかの問題だけだ。
「私は別にお金払わなくてもいいかなって。体験だしお金払わなくてもなって」
「僕は逆かな。もしかしたらクラスの中でお金に困っている人がいるかもしれない。お金を払ってプラスマイナス0になればいいなと思う」
どちらも言っていることは当たっている。
「プラスマイナス0にするのは難しいかもしれないけど、小学生は無料で中学生から料金が発生するのはどうかしら?いくらかはまだ決められないけど」
「今日の瑠璃冴えてるね!間をとってそれでいいと思う!」
みんなの同意が得られ、今日の会議は終了した。自転車組と電車組に分かれ、私と由花はいつも通り会話をしながら帰る。
「瑠璃…今日はごめんね」
いきなり謝られた私はどう返していいか分からない。きっと文化祭実行委員のことを言っていることはすぐに分かった。
「私さ、前に由花が砂月さんのこと助けた時凄いと思ったのよ。私は正直に言ったら関わり合いたくなかった。でも、いつも助けてくれた大切な由花が困っていたから…気づいたら手を挙げていたわ」
由花の目は涙目になっていた。
「えっ!!ちょっと由花!?」
私の首元に手を回しぎゅーと抱きしめてくる色々と思うことがあって疲れていたのだと思う。大丈夫よと言いながら頭を撫でるとありがとう。とか細い声で返してくれた。
家庭内での事やアルバイトの事で一杯一杯になっていた由花は私に今の心情を吐露し始める。話を聞いていくうちに、すっきりしたのか最後には笑顔になっていた。
「話聞いてくれてありがとう。本当今日は瑠璃に助けられてばかりだな。文化祭実行委員の仕事何か手伝える事があったら遠慮なく言ってね。グループラインで言ってくれてもいいし」
そう、私達は4人最後に別れる時にLINEを交換していた。何かあった時に助け合えるようにと五十嵐君からの提案だ。グループ名は文化祭にし、何か決まるごとに書き込んでいくらしい。
「ありがとう。本当心強いわ」
よかった。という風に微笑んでくれる由花はいつもと変わらない由花だった。
「そういえばこの前の色を観る治療どうだった!?ちゃんと観えた!?」
あっ、伝えていなかったことを思い出す。由花は私の答えをじーっと待っている。
「しっかり観えたわ。とても…綺麗だった」
「あはは!その答え瑠璃っぽーい!」
そしてまた私にぎゅーっとして微笑んでくれる彼女の顔が見える。
家に着くと、母がお風呂から上がりパジャマ姿になっていた。おかえりと言われたのでただいまと返す。
家に帰るといつもと変わらない日常が流れている。さっきまで4人で一緒に居たのでなんだか寂しい。
「今日は学校どうだった?楽しかった?」
この質問が来ると、楽しかったよ。とだけ返す。でも、今日は違っていた。
「お母さん、私文化祭実行委員になったわ」
え!?母のびっくりした顔がおかしかった。なぜそうなったのか、さっきまで何をしていたか今日一日あった出来事を母に話した。学校であったことを普段からあまり話さない私が、楽しそうに話しているのを見て、とても嬉しそうだった。
「そうなのね。新しいお友達もできたみたいで良かったわ」
今日一日とっても疲れた私はゆっくり休むことにした。明日はまた病院に行く日なので気合を入れて治療に臨まなければ。
———ピロン
ん?それは携帯が鳴った音だった。そういえば帰ってから携帯を見ていなかったことに気づく。中を開いてみると、文化祭グループからだった。
———今日は色々とありがとな
あっ、田島君からだ。
———いえいえー!今日は暇だったし!役に立てたなら良かったよー(*≧∀≦*)
由花も返信してる。
———僕もお役に立てて良かったです。また何かあったら言ってください^_^
私も何か返信しないとと思うがなんで返せばいいか分からない。クラスのLINEグループには一応入っているが、会話には参加したことがない。んー…簡潔に分かりやすく。
———今日ありがとうございました。とても助かったわ。おやすみなさい。
精一杯頑張った結果がこれだった。これだけの文章を送るだけで凄く緊張する。
———ピロン
また携帯が鳴った。
———おやすみ
———おやすみ(*'▽'*)
———おやすみなさい。
みんなからの返信を確認すると、電気を消し布団の中に入った。
明日は確か黄色系統だったかしら。黄色と言われたらと聞かれてもすっと答えることが私にはできなかった。でも、明日治療すればそんなことはなくなるだろう。
実際に私は赤色といえば?ともし聞かれたら、迷いなく紅葉と答える。ピンクといえば?と聞かれたら桜だ。少しずつではあるが着々と覚えていけている。
この日私は夢を見た。うっすらとモヤのかかった世界で、みんなと楽しく文化祭を繰り広げている。その日までに知り合った友人達をたくさん呼んで、忘れられない日になるはずだった。でも夢の中の文化祭で唯一、真二だけが来てくれなかった。
「ん?別にいいじゃい!このお店とってもいいでしょ!」
私達は、教室で店名を決めるのではなく外に出て決める事にした。どこか落ち着いて決められる所がいいとなったのだか、みんなこの辺の地理は詳しくなく、どこがいいか話し合っていた。
「あっ、私静かで良いところ知ってる!」
私は察しがついたが、残りの男子2人もそこでいいと言うので前に由花と2人で入ったfriedenというお店に入った。
正直に言うと、田島君の雰囲気にこのお店はあまりあっていない気がする。本人もそれには気付いているみたいで落ち着きがない。五十嵐の方はその場に溶け込むのが上手い性格で、もうこのお店には慣れたみたいだ。
「んっじゃ、飲み物も注文したし、店名を決めて行こうぜ」
はーい。という返事と共にお互いに意見を述べていく事になった。
「そうだね。ミサンガを体験でやるのならミサンガという名前を入れた方がより伝わるんじゃないかな?」
「えー、それださくない?パンフレットの最初の方にクラスの出し物名は書かれるんでしょ?そしたらサブタイトル的な名前にしようよ」
ださいと言われたのがショックだったのか五十嵐君は少ししょんぼりしている。
「サブタイトルっていうのはいい意見だな」
私はルーズリーフに今まで出た意見を書き出した。私も何か意見出さないとと思うが意見が浮かばない。
「お待たせいたしました。コーヒー4つですね」
ウェイターの上原さんが音が出ないように、ゆっくり机の上に置き始める。このお店ではコーヒーが一番安いみたいだが、一番美味しく自慢らしい。マスターの袋田さんが長年研究を重ねに重ね、できたのがこのコーヒー。普段飲まないがマスターのなら飲んでみたい。
「わぁ、上原さんありがとうございます!」
いつもと同じようににこっと笑う。
2人はまだ上原さんとは初対面だったのを忘れていた。2人はこの方どちら様?といった風に顔を見合わせている。こちらの様に気づいた上原さんが自己紹介を始めた。
「僕はこちらのお店でアルバイトをしている大学3年生の上原隼斗です。よろしくお願いします」
やっぱり大学生よね。と再確認することができた。五十嵐君と田島君も軽く自己紹介をする。
「そうだ、上原さんは文化祭の店名何がいいと思いますか?私達のクラスはミサンガ体験をするんですけど、サブタイトル的なのをつけたいんですよね」
外部の人から意見を聞くと違った見方の意見をもらえるかもしれない。私達4人は上原さんの答えを静かに待っていた。
「そうですね。まずは、どんなお店にしたいかを考えてみてはどうですか?そこからまた考えるといい意見が浮かぶと思いますよ」
どんなお店にしたいか…か。そうだな…。
「俺は、みんなが楽しめる店にしてぇな」
「その人の個性が表現できるっていうのもいいよね!」
「僕はみんなの思い出に残るお店にしたい」
私はその時真二の言っていた言葉を思い出した。
「私は、サブタイトルに鴇色って言葉を入れたい…なって」
みんな口を揃えて鴇色って何色?と言っている。やはり自分の意見を言うのは苦手だ。段々顔が熱くなってゆく。
「鴇色ってね、鴇が空を飛ぶ時に必要な風切り羽のことを言うのよ。鴇はその羽がないと空を飛ぶことができなくて、その羽じゃないとダメなの。だから、体験に来たお客様にもこの色がいいんだって思ってもらえると嬉しいから鴇色って入れたいと思ったの」
後半は自分でも何を言っているのか分からなかった。捲し立てるように言った後は、ゆっくりコーヒーを飲み喉を潤す。
最初に口を開いたのは以外にも田島君だった。
「へぇ…そんな色よく知ってるな。いいじゃねぇかそれ。その色使おうぜ」
え…?他にも様々な賛成意見が飛び交った。私は恥ずかしくなり下を向いた。でも、みんなに賛成してもらえたことは嬉しく、にんまりと笑う。
「そしたらさ、みんなの思っている世界を大切にしたいし、少しクサイかもしれないけど、鴇色の世界なんてどうかな?とっても素敵だと思う!」
「凄くいいと思う。僕も賛成だよ!」
トントン拍子に話は進み私達のクラスのサブタイトルは『鴇色の世界』に決定した。
「鈴木のおかげで凄くいい案がでたぜ。ありがとな」
別に私は何もしていない。この言葉を教えてくれたのも真二だ。でも、みんなが喜んでくれているから今度会った時にお礼でも言っておこうと思う。
「あっ、上原さーん!マスター聞いてください!」
「ちょっと、池田さん他にもお客さんいるからもう少し静かに…」
五十嵐君がお兄さんで由花が妹のように見えてくる。2人を見てるとなんだか微笑ましい。
上原さんとマスターは、わざわざ私達の席まで来てくれた。
「今日はお友達が多いね。私はマスターの袋田だよ。よろしくね」
先程と同様に軽く自己紹介を済ませると、由花が嬉しそうに上原さんとマスターに話しかける。
「さっきお話ししていた、サブタイトル決まったんですよ!鴇色の世界になりました!」
それはよかった!と言って一緒に喜んでくれた。私達も嬉しくなり少し照れ臭くなる。みんなで決めた大切な名前だから成功できるように頑張ろうと決めた。
———すみませーん。注文いいですか?
「はい、今伺います」
お客さんからの呼び出しがあったため、上原さんとマスターは仕事に戻る。私達も今日の目標だったサブタイトルが決まり、一安心していたが田島君は違っていた。
「今日せっかく集まったから、もう少し先の話もしたいんだがいいか?」
先の話し?なんの話か分からなかったが、田島君が話したそうだったので今後のことをもう少し話し合う事にした。
「2つあるんだが、まず1つ目はどこでミサンガの糸を購入するか。2つ目は料金を取るかどうかだ」
また難しい問題を出してきたと思った。まずは、ミサンガをどこで購入するかについて話し合われる。
「100均で糸を買うのはどうかな?」
「100均だとすぐに糸が切れてしまうと思う、駅前にある手芸屋さんはどうかな?オーダーメイドで糸も発注してくれるみたいなんだけど」
「よく知ってるわね」
「妹がよく行ってるからね」
「え!?妹さんいるの!?何歳?名前なんて言うの?」
「え?美雪だけど…中学2年生」
「いいな〜私弟だから、羨ましい!」
「お前ら話が脱線してるぞ」
楽しい時間はあっという間で気づいたら、空も暗くなり始める。後は料金を取るかどうかの問題だけだ。
「私は別にお金払わなくてもいいかなって。体験だしお金払わなくてもなって」
「僕は逆かな。もしかしたらクラスの中でお金に困っている人がいるかもしれない。お金を払ってプラスマイナス0になればいいなと思う」
どちらも言っていることは当たっている。
「プラスマイナス0にするのは難しいかもしれないけど、小学生は無料で中学生から料金が発生するのはどうかしら?いくらかはまだ決められないけど」
「今日の瑠璃冴えてるね!間をとってそれでいいと思う!」
みんなの同意が得られ、今日の会議は終了した。自転車組と電車組に分かれ、私と由花はいつも通り会話をしながら帰る。
「瑠璃…今日はごめんね」
いきなり謝られた私はどう返していいか分からない。きっと文化祭実行委員のことを言っていることはすぐに分かった。
「私さ、前に由花が砂月さんのこと助けた時凄いと思ったのよ。私は正直に言ったら関わり合いたくなかった。でも、いつも助けてくれた大切な由花が困っていたから…気づいたら手を挙げていたわ」
由花の目は涙目になっていた。
「えっ!!ちょっと由花!?」
私の首元に手を回しぎゅーと抱きしめてくる色々と思うことがあって疲れていたのだと思う。大丈夫よと言いながら頭を撫でるとありがとう。とか細い声で返してくれた。
家庭内での事やアルバイトの事で一杯一杯になっていた由花は私に今の心情を吐露し始める。話を聞いていくうちに、すっきりしたのか最後には笑顔になっていた。
「話聞いてくれてありがとう。本当今日は瑠璃に助けられてばかりだな。文化祭実行委員の仕事何か手伝える事があったら遠慮なく言ってね。グループラインで言ってくれてもいいし」
そう、私達は4人最後に別れる時にLINEを交換していた。何かあった時に助け合えるようにと五十嵐君からの提案だ。グループ名は文化祭にし、何か決まるごとに書き込んでいくらしい。
「ありがとう。本当心強いわ」
よかった。という風に微笑んでくれる由花はいつもと変わらない由花だった。
「そういえばこの前の色を観る治療どうだった!?ちゃんと観えた!?」
あっ、伝えていなかったことを思い出す。由花は私の答えをじーっと待っている。
「しっかり観えたわ。とても…綺麗だった」
「あはは!その答え瑠璃っぽーい!」
そしてまた私にぎゅーっとして微笑んでくれる彼女の顔が見える。
家に着くと、母がお風呂から上がりパジャマ姿になっていた。おかえりと言われたのでただいまと返す。
家に帰るといつもと変わらない日常が流れている。さっきまで4人で一緒に居たのでなんだか寂しい。
「今日は学校どうだった?楽しかった?」
この質問が来ると、楽しかったよ。とだけ返す。でも、今日は違っていた。
「お母さん、私文化祭実行委員になったわ」
え!?母のびっくりした顔がおかしかった。なぜそうなったのか、さっきまで何をしていたか今日一日あった出来事を母に話した。学校であったことを普段からあまり話さない私が、楽しそうに話しているのを見て、とても嬉しそうだった。
「そうなのね。新しいお友達もできたみたいで良かったわ」
今日一日とっても疲れた私はゆっくり休むことにした。明日はまた病院に行く日なので気合を入れて治療に臨まなければ。
———ピロン
ん?それは携帯が鳴った音だった。そういえば帰ってから携帯を見ていなかったことに気づく。中を開いてみると、文化祭グループからだった。
———今日は色々とありがとな
あっ、田島君からだ。
———いえいえー!今日は暇だったし!役に立てたなら良かったよー(*≧∀≦*)
由花も返信してる。
———僕もお役に立てて良かったです。また何かあったら言ってください^_^
私も何か返信しないとと思うがなんで返せばいいか分からない。クラスのLINEグループには一応入っているが、会話には参加したことがない。んー…簡潔に分かりやすく。
———今日ありがとうございました。とても助かったわ。おやすみなさい。
精一杯頑張った結果がこれだった。これだけの文章を送るだけで凄く緊張する。
———ピロン
また携帯が鳴った。
———おやすみ
———おやすみ(*'▽'*)
———おやすみなさい。
みんなからの返信を確認すると、電気を消し布団の中に入った。
明日は確か黄色系統だったかしら。黄色と言われたらと聞かれてもすっと答えることが私にはできなかった。でも、明日治療すればそんなことはなくなるだろう。
実際に私は赤色といえば?ともし聞かれたら、迷いなく紅葉と答える。ピンクといえば?と聞かれたら桜だ。少しずつではあるが着々と覚えていけている。
この日私は夢を見た。うっすらとモヤのかかった世界で、みんなと楽しく文化祭を繰り広げている。その日までに知り合った友人達をたくさん呼んで、忘れられない日になるはずだった。でも夢の中の文化祭で唯一、真二だけが来てくれなかった。

