やっと後1時間で終わる。午後の授業は午前中よりも眠くなる。人間は30分くらい昼寝すると良いと専門家も言っているのだから、授業の合間に取り入れてほしい。
隣を見ると由花は机に突っ伏して眠っている。6時限目のチャイムが鳴ったのに起きる気配は見られない。
身体を揺すると、ん〜…という声は聞こえるがそれだけだった。全くと思いながら今度は声をかけてみる。
「由花起きなさいよ。そろそろ黒石先生来るわよ」
「え〜来たらちゃんと起きるよ。大丈夫大丈夫」
大丈夫じゃないから、声をかけているのに。彼女は一度眠ると中々起きない。このまま眠ってしまったら先生が入ってきても起きない可能性が大だ。
ガラガラとドアが開き、黒石先生が教室の中に入ってきた。
ほら、先生来たよと思い横を振り向くとゆっくりと起き上がり始める。あら?眠る前に先生が来たから起きたのね。よかったよかった。
日直の号令と共に6時限目が始まった。
「よーし、前に話してた文化祭の実行委員をこれから決めるぞー。後は学級委員の2人に任せるから後はよろしく」
学級委員の古田さんと田中君は、はいと返事をすると席を立ち教卓の前に立った。黒石先生から資料を受け取ると一通り目を通し、これから何をすべきか内容を確認している。
「では、これから文化祭実行委員を男女1名ずつ決めたいと思います。立候補する人いますか?」
クラスの中は静まり返り、返事をする生徒は1人もいなかった。
「おいおい、高校入ってから初めての文化祭だろ?おめぇらもっとやる気出せよ」
学級委員の2人に黒石先生の助け舟が出ても立候補する生徒は現れなかった。
それもそのはずだ、そんな面倒くさい事をわざわざ自らやろうという生徒はいない。クラスをまとめて文化祭までの期間準備もする。せっかくの夏休みも学校と関わりを持ちたい生徒はいない。
「これから5分位時間を取ります。周りの人と相談して話し合ってみて下さい。」
そこから教室の中は賑やかな話し声で包まれた。黒石先生は他のクラスに迷惑だから声のトーンを落とせなど言っている。
———あなた文化祭実行委員やってみたら?
———えぇー嫌よ。私は夏休み入ったら彼氏と過ごしたいもん
———お前夏休みどうせ暇だろ?
———暇じゃねぇよ。バイトをたくさん入れる予定なんだから
話し合いをしたってみんな他の人に押し付けるだけだ。
「ねぇ、瑠璃どうしようか?」
「どうしよう言われてもねぇ。私はなるべくならやりたくないと思ってるけど」
どうやら由花も実行委員はやりたくないらしい。夏休み中もアルバイトをたくさん入れる予定なのだろう。本当に暇な人か文化祭を思いっきり楽しみたい人が実行委員になるべきなのだ。
「みなさん一回話し合いをやめて下さい」
ここで、学級委員から5分たったので声かけが入った。みんなも結局は話しがまとまらなかったらしく、小声で話してる人も見られる。
「文化祭実行委員をやってもいいと言う人はいますか?」
誰も手を挙げない。これじゃいくら時間が経っても決まる事は無さそうだ。すると、1人の男子学生が手を挙げた姿が目に入る。それはクラスのお調子者の進藤君だった。
「こんだけ話しても話しがまとまらないなら〜学級委員の2人がやったらどうですか〜?」
その意見に古田さんと田中君は驚いている。古田さんは少しため息を吐きながら言った。
「学級委員は文化祭実行委員と兼任してする事はできません。資料にもそう書いてあります」
「へぇーそうなんだ。知らなかったよ」
自分にはいかにも関係ない風なその姿にクラスの雰囲気はもっと悪くなる。
シーンとしている中今度は女の子が手を挙げた。それは水木さんだ。水木さんが文化祭実行委員をするような人には失礼だが見えない。何か裏があるのかと思っているとその予想は的中した。
「私は池田さんがいいと思います。行動力もあるしクラスを引っ張ってくれると思いまーす」
いきなり何を言い出すのか。それに追い討ちをかけるように根田さんも由花のことを推薦し出した。
「どうだ池田やってみるか?せっかくの機会だし」
今まで黙っていた黒石先生も話し合いに参加し始める。急に推薦された由花は戸惑いを隠せない様子だった。
水木さんと根田さんはさっきの話し合いの時に口裏を合わせていたみたいだ。挙げ句の果てに向田さんにも、池田さんがいいと思うよね?と話を振っている。いや…まぁ…。まだしっかりと答えていないのにでかでかとした声でクラすのみんなに言う。
「向田さんも池田さんで良いって言ってますし、女子の実行委員は池田さんで決定でどうですかー?」
クラスの女子もそれでいいと言った雰囲気になっている。この前の昼休みに砂月さんが絡まれてるのを助けた由花に、反感を持ったのかもしれない。
助けられた砂月さんも自分には関係ないと言った態度で顔色一つ変えていない。由花も、もう自分が実行委員をやればこの場が治ると思っている。
「んっ…じゃあ、みんながそういうなら…」
そんなのおかしい。みんな自分勝手な理由で実行委員やりたくないだけだ。その中の1人に自分もきっと入っているだろう。私は色が見えないことを周りの人に知られたくなかった。実行委員になればバレる確率はうんっと大きくなるだろう。それでも、私は由花に無理をして文化祭実行委員をやってもらいたくはなかった。
気づいたら、私は手を挙げていた。
「私が文化祭実行委員やります。女子はこれで決定で構いませんよね?」
私は授業中も先生の質問を手を挙げて答えるタイプではない。ましてや、自分の意見を言うのも苦手だ。そんな私が手を挙げ発言したことにより、クラスの中でどよめきが起こった。
「まぁ、自分からやってもいいと言う人がいればそれに越した事はありません。では、鈴木さんお願いします」
はい、分かりました。水木さんと根田さんが面白くない顔をしているのが分かる。
「ちょっと瑠璃!?どうしていきなりそうな…」
由花の言いたいことは分かる。私の心配をしてくれていることも。それでも、私は自分の目のことを軽蔑せずに親身になってくれた彼女にとても感謝した。だから今度は私が彼女に返す番なのだ。
「じゃあ、俺も実行委員やるよ。他にやりたそうなやつもいねぇしな」
名乗りを挙げたのはあまりいい噂を聞かない、田島勇気君だ。彼とペアを組むことになるのは予想していなかった。
「よぉーし。これで文化祭実行委員は決まったな。この後は2人にバトンタッチだ。学級委員の2人もありがとなー。」
学級委員の2人とバトンタッチし、これからの進行の内容を確認する。とりあえず、今日までに決めないといけないことは…。わぁ、たくさんある。
ん?この後文化祭実行委員の会議もあるの?そんなの聞いてない。
「おい、先生俺たちの仕事多くねぇか?」
その意見には同意見だ。私達の仕事はこの資料を見ると明らかに多い。
「そんなのお前らが適当にクラスのみんなに仕事を振ればいいんだよ。少しは頭使えー」
そんな煽るような言い方しなくても…。でも、このままというわけにはいかない。とりあえず、この時間に出し物だけは決めておかなければ。
「よぉし、これから文化祭の出し物を決めていくぞ。何がいいか意見を言ってくれ」
案外しっかりまとめてくれている。普段の彼からは想像つかないので、呆気に取られていた。
「じゃあ、鈴木は黒板に出た意見をまとめてくれ」
あっ、うん。チョークを手に取り準備しようと思った時だ。あっ、粉受けの上には複数のチョークが置かれている。どれが白なのか分からない。
「ん?鈴木、黄色じゃなくてその右端にある白のチョークで書けよ。そっちの方がみんなも見やすいだろ」
うん、ごめん。私が苦し紛れに取ったチョークはどうやら黄色だったらしい。ご丁寧に白の場所まで教えてくれた田島君は案外優しい人なのかもしれない。
———はいはーい!屋台系がいいです!
———えぇーアトラクションとかがいいよー
———体育館で劇やるのもいいなー!
———体験コーナーとかもいいよね!
みんなの意見を黒板に書いていくが一向に決まっていかない。クラス中もだんだん自由な感じになり始め、実行委員の私達の話にも聞く耳を持たなくなった。
ちょっとお前らいい加減に…。さすがの田島君も苛々を隠しきれない様だ。
教卓の中に厚みのある冊子を見つけた。それを取り出し、思いっきり教卓に叩きつける。
バシーーーーン!!と大きい音が鳴り、みんなが教卓に視線を向ける。私の行動に不快感を表している人もいるが私には関係ない。あなた達の行動も私にとったら不快なのでおあいこである。
お前やるなぁ…。と隣に立っている田島君に声をかけられ、どもうと返す。
「じゃあ、まずは屋台、アトラクション、劇、体験コーナーで多数決を取りたいと思う。みんな一つに手を挙げてくれ」
こうして始まった多数決。私達のクラスは男女合わせて33人編成だ。実行委員の私達も多数決に入る。屋台7名、アトラクション10名、劇5名、体験コーナー11名で体験コーナーに決まった。
問題はこれからでなんの体験コーナーをするかだ。体験コーナーに手を挙げた人達も、特に何かやりたい訳ではなく一番楽そうだからという理由らしい。ちなみに、私と由花は屋台に手を挙げていた。
何かいい案はないかしら?後10分で授業も終わってしまう。その後帰りの会をしすぐに会議が始まる。私達のクラスだけ決まっていないなんてだめだ。
「はーい!私はミサンガ作り体験がいいと思いまーす!」
元気よく発言してくれたのは友人の由花だった。確かに最近ミサンガブームがまた来ている。それは、今人気の男性アイドルグループがみんなお揃いでつけているのを真似して、女の子達の間で流行り始めたのだ。
クラスの女の子達も由花の発言に大賛成している。目でありがとうと伝えると向こうもどういたしましてと目で伝えてくれた。
「今日はこんなもんでいいんじゃね?ある程度決まったし、みんなも文化祭までにはミサンガ作れるようにしといてくれよ」
ふぅー。緊張した。私達が席に戻ると黒石先生が教卓に立ち帰りの会を始めた。特に連絡も無く、淡々進められた。
帰りの会が終わり、荷物を整えていると田島君が私の席のところまで来てくれた。
「鈴木準備できたか?もうすぐ始まるから行くぞ」
あっ、うん。もしかしたら会議には参加しないかもしれないと思っていたがそんなことはなかった。案外真面目な人なのかもしれない。
由花また明日ね。と声をかけるとうん、また明日と返してくれた。田島君も私の準備ができたのを確認し、一緒に教室を出た。
会議が行われる部屋に入ると、数名の生徒が集まっていた。他学年と関わる機会が少ないので流れる空気も変わる気がする。
「え〜本日は文化祭実行委員の会議にお集まりしていただきありがとうございます。本日、司会進行役を務めさせていただく杉田と申します。よろしくお願いします。この後クラスの出し物の大まかな説明と、当日までの役割分担を決めていきたいと思います」
上級生から順番に各クラスで行われる出し物の説明が始まった。もし内容が重複するようなら、話し合いやジャンケンで決まるらしい。
各クラス被ることなの順調に私達のクラスまで回ってきた。
「では、次は〜一年一組お願いします」
どちらがいうか目を合わせる。田島君がいいよ、俺言うと言い立ち上がった。
「自分たちのクラスは、ミサンガの体験コーナーをやりたいと思います。当日までにクラスの個人個人がミサンガを作れるようにします。以上です」
パチパチと拍手がなり、次のクラスへと移る。
「あの、田島君ありがとう。人前で話すの苦手だから助かったわ」
「別に、いいよそのくらい」
言葉はぶっきらぼうだか、対して気にもならない。前までだったらこんな態度の人と痛くないって思ってたけど…なんで平気になったのかしら?最近までの生活を振り返るとすぐに答えは分かった。あっ…真二と見た目は違うけど性格が似ている事に気づく。
ん?なんだよ。私がずっと見ているのに気づいた田島君が声をかけてくる。ごめんなさい、何でもないわ。んー…距離感が掴めない。
「では…次に文化祭当日までの役割分担を決めたいと思います。黒板に役割は書きましたが、みなさんどれを担当したいですか?」
なるべく簡単なやつを…と思うがそれはどのクラスも思ってる事よね。ここは、田島君と相談して…。
「はい、俺たちのクラス真ん中に書いてある花1000個作ります」
どよめきが上がった。私もそれはちょっと…。と思った。100個作るのでも大変なのに1000個って。先輩方からいろんなお言葉が飛び交う。
———一年生ー!初めての文化祭だから楽しみなのも分かるけど1000個はきついって!
———そうだぞー!その項目だけ毎年最後まで残ってるんだから!
———お前らすげーよ!自分たちから立候補するやつら初めて見たよ!
どんな言葉が飛んできても微動だにしない田島をこの時初めて凄いと思った。周りからの視線に耐えられないと思った時、杉田さんが口を開いた。
「まだ、他の候補もあるし今なら変えても大丈夫だよ?」
優しい口調で助け舟を出してくれたもの、彼の意志は揺るがなかった。
「大丈夫です。やれるので」
「わかった。毎年決まったクラスから解散しているんだ。ここにある袋を持って行ってくれ。中におはながみが3種類入っているから。あ〜あとあと、これもね」
そう言って渡されたのは、一枚の紙だった。
「この紙にクラスと店名を書いて夏休み前までに、職員室の前にあるボックスに入れるか、僕に直接渡してくれ。これで以上だ。お疲れ様でした」
お疲れ様です。こうして、私達2人は会議が行われていた部屋を後にした。
「田島君どうして?1000個なんて一番大変なやつにしたの?」
会議の時に思っていた疑問をぶつけてみた。別に不満をぶつけている訳ではない。なぜ、これを選んだのかが気になるのだ。
「俺さ、兄貴がいるんだよ。ここの卒業生でさ文化祭実行委員やってたんだ。俺と兄貴は性格が真逆で凄く大人しいんだよ。きっとその性格を利用されて花1000個作らされてるのを見た時、嫌ならなんで断らないんだよってその時思ったんだ」
———兄貴なんで断らないんだよ。嫌なら嫌って言えよ
———別に嫌じゃないさ。こうして一つ一つ作っていくのが好きなんだ。
———それにしたって、二人で1000個なんて多すぎだろ?
———勇気は優しいな。僕は一人で作っているわけじゃないよ。クラスのみんなが協力してくれてる。これはほんの一部だ。みんなと作る文化祭はとても楽しいから、勇気も高校に入ったら文化祭実行委員をやればいい。
そんな過去があったなんて知らなかった。お兄さんの教え通りに文化祭実行委員になったのも素直に凄いと思う。
「別にやりたくて立候補したわけじゃねぇよ。あのままじゃ拉致があかなくてやっただけだ」
確かにあのままじゃ拉致があかなかったが、それだけじゃないような気がしてくすっと笑った。
———おーい!2人ともおつかれさん!
声がする方を向くと由花が帰りの支度を済ませて、下駄箱で待っていた。
「どうしたの?帰ったんじゃないの?」
今ここに居るはずのない人がいると動揺してしまう。
「バイトがあるから帰ろうと思ったんだけどさ、店長が今日は人手が多いから休んでもいいよーって!最近休みがなかったら久々にゆっくりするよ!」
「ほんっと、池田ってテンション高いよな」
「高くて悪い?ん?」
「あーもう、うるせぇーうるせぇー」
あはは!と笑いが起きる。
———ん?みんなそろってどうしたの?
そこに立っていたのは五十嵐君だった。ほとんどの生徒が下校しているのに、同じクラスの4人が出会すのも凄い。
「さっきまで文化祭実行委員の集まりだったんだよ。それで、この袋に入ってるのがおはながみだ。当日までに1000個作る」
『1000個も!?』
そういう反応になるわよね…。由花と五十嵐君は開いた口が塞がらないといった感じだ。
「どうしてそんな事になったのよ!?」
「いくらなんでも多すぎないか!?」
私と同じ反応をされた田島君は恥ずかしくなったのかそっぷを向いた。
その後2人にもお兄さんとあった出来事を話し、これに至った経緯を説明した。
説明を聞くと2人とも納得したみたいで、何かできることがあれば手伝うとまで言ってくれた。
「明日からおはながみは作るつもりだ。今日は特に何もねぇかな」
「そうねぇ…あっ、店名を考えるのは夏休み前までだから少し急いだ方がいいかも」
夏休みまで土日を除くとあと3日しかない。クラスのみんなで考えるのもありだが、あのクラスではまとまるまでに時間がかかりそうだ。
「それなら、この後みんなで店名考えようよ!予定がなかったらだけどさ!」
由花はとてもうきうきした感で楽しそうだ。
「別に俺はかまわねぇけど」
「私も平気よ」
「僕も大丈夫だよ」
じゃあ、決まり!とすぐに決定し私達は4人は初めて一緒の時を過ごす事になった。
隣を見ると由花は机に突っ伏して眠っている。6時限目のチャイムが鳴ったのに起きる気配は見られない。
身体を揺すると、ん〜…という声は聞こえるがそれだけだった。全くと思いながら今度は声をかけてみる。
「由花起きなさいよ。そろそろ黒石先生来るわよ」
「え〜来たらちゃんと起きるよ。大丈夫大丈夫」
大丈夫じゃないから、声をかけているのに。彼女は一度眠ると中々起きない。このまま眠ってしまったら先生が入ってきても起きない可能性が大だ。
ガラガラとドアが開き、黒石先生が教室の中に入ってきた。
ほら、先生来たよと思い横を振り向くとゆっくりと起き上がり始める。あら?眠る前に先生が来たから起きたのね。よかったよかった。
日直の号令と共に6時限目が始まった。
「よーし、前に話してた文化祭の実行委員をこれから決めるぞー。後は学級委員の2人に任せるから後はよろしく」
学級委員の古田さんと田中君は、はいと返事をすると席を立ち教卓の前に立った。黒石先生から資料を受け取ると一通り目を通し、これから何をすべきか内容を確認している。
「では、これから文化祭実行委員を男女1名ずつ決めたいと思います。立候補する人いますか?」
クラスの中は静まり返り、返事をする生徒は1人もいなかった。
「おいおい、高校入ってから初めての文化祭だろ?おめぇらもっとやる気出せよ」
学級委員の2人に黒石先生の助け舟が出ても立候補する生徒は現れなかった。
それもそのはずだ、そんな面倒くさい事をわざわざ自らやろうという生徒はいない。クラスをまとめて文化祭までの期間準備もする。せっかくの夏休みも学校と関わりを持ちたい生徒はいない。
「これから5分位時間を取ります。周りの人と相談して話し合ってみて下さい。」
そこから教室の中は賑やかな話し声で包まれた。黒石先生は他のクラスに迷惑だから声のトーンを落とせなど言っている。
———あなた文化祭実行委員やってみたら?
———えぇー嫌よ。私は夏休み入ったら彼氏と過ごしたいもん
———お前夏休みどうせ暇だろ?
———暇じゃねぇよ。バイトをたくさん入れる予定なんだから
話し合いをしたってみんな他の人に押し付けるだけだ。
「ねぇ、瑠璃どうしようか?」
「どうしよう言われてもねぇ。私はなるべくならやりたくないと思ってるけど」
どうやら由花も実行委員はやりたくないらしい。夏休み中もアルバイトをたくさん入れる予定なのだろう。本当に暇な人か文化祭を思いっきり楽しみたい人が実行委員になるべきなのだ。
「みなさん一回話し合いをやめて下さい」
ここで、学級委員から5分たったので声かけが入った。みんなも結局は話しがまとまらなかったらしく、小声で話してる人も見られる。
「文化祭実行委員をやってもいいと言う人はいますか?」
誰も手を挙げない。これじゃいくら時間が経っても決まる事は無さそうだ。すると、1人の男子学生が手を挙げた姿が目に入る。それはクラスのお調子者の進藤君だった。
「こんだけ話しても話しがまとまらないなら〜学級委員の2人がやったらどうですか〜?」
その意見に古田さんと田中君は驚いている。古田さんは少しため息を吐きながら言った。
「学級委員は文化祭実行委員と兼任してする事はできません。資料にもそう書いてあります」
「へぇーそうなんだ。知らなかったよ」
自分にはいかにも関係ない風なその姿にクラスの雰囲気はもっと悪くなる。
シーンとしている中今度は女の子が手を挙げた。それは水木さんだ。水木さんが文化祭実行委員をするような人には失礼だが見えない。何か裏があるのかと思っているとその予想は的中した。
「私は池田さんがいいと思います。行動力もあるしクラスを引っ張ってくれると思いまーす」
いきなり何を言い出すのか。それに追い討ちをかけるように根田さんも由花のことを推薦し出した。
「どうだ池田やってみるか?せっかくの機会だし」
今まで黙っていた黒石先生も話し合いに参加し始める。急に推薦された由花は戸惑いを隠せない様子だった。
水木さんと根田さんはさっきの話し合いの時に口裏を合わせていたみたいだ。挙げ句の果てに向田さんにも、池田さんがいいと思うよね?と話を振っている。いや…まぁ…。まだしっかりと答えていないのにでかでかとした声でクラすのみんなに言う。
「向田さんも池田さんで良いって言ってますし、女子の実行委員は池田さんで決定でどうですかー?」
クラスの女子もそれでいいと言った雰囲気になっている。この前の昼休みに砂月さんが絡まれてるのを助けた由花に、反感を持ったのかもしれない。
助けられた砂月さんも自分には関係ないと言った態度で顔色一つ変えていない。由花も、もう自分が実行委員をやればこの場が治ると思っている。
「んっ…じゃあ、みんながそういうなら…」
そんなのおかしい。みんな自分勝手な理由で実行委員やりたくないだけだ。その中の1人に自分もきっと入っているだろう。私は色が見えないことを周りの人に知られたくなかった。実行委員になればバレる確率はうんっと大きくなるだろう。それでも、私は由花に無理をして文化祭実行委員をやってもらいたくはなかった。
気づいたら、私は手を挙げていた。
「私が文化祭実行委員やります。女子はこれで決定で構いませんよね?」
私は授業中も先生の質問を手を挙げて答えるタイプではない。ましてや、自分の意見を言うのも苦手だ。そんな私が手を挙げ発言したことにより、クラスの中でどよめきが起こった。
「まぁ、自分からやってもいいと言う人がいればそれに越した事はありません。では、鈴木さんお願いします」
はい、分かりました。水木さんと根田さんが面白くない顔をしているのが分かる。
「ちょっと瑠璃!?どうしていきなりそうな…」
由花の言いたいことは分かる。私の心配をしてくれていることも。それでも、私は自分の目のことを軽蔑せずに親身になってくれた彼女にとても感謝した。だから今度は私が彼女に返す番なのだ。
「じゃあ、俺も実行委員やるよ。他にやりたそうなやつもいねぇしな」
名乗りを挙げたのはあまりいい噂を聞かない、田島勇気君だ。彼とペアを組むことになるのは予想していなかった。
「よぉーし。これで文化祭実行委員は決まったな。この後は2人にバトンタッチだ。学級委員の2人もありがとなー。」
学級委員の2人とバトンタッチし、これからの進行の内容を確認する。とりあえず、今日までに決めないといけないことは…。わぁ、たくさんある。
ん?この後文化祭実行委員の会議もあるの?そんなの聞いてない。
「おい、先生俺たちの仕事多くねぇか?」
その意見には同意見だ。私達の仕事はこの資料を見ると明らかに多い。
「そんなのお前らが適当にクラスのみんなに仕事を振ればいいんだよ。少しは頭使えー」
そんな煽るような言い方しなくても…。でも、このままというわけにはいかない。とりあえず、この時間に出し物だけは決めておかなければ。
「よぉし、これから文化祭の出し物を決めていくぞ。何がいいか意見を言ってくれ」
案外しっかりまとめてくれている。普段の彼からは想像つかないので、呆気に取られていた。
「じゃあ、鈴木は黒板に出た意見をまとめてくれ」
あっ、うん。チョークを手に取り準備しようと思った時だ。あっ、粉受けの上には複数のチョークが置かれている。どれが白なのか分からない。
「ん?鈴木、黄色じゃなくてその右端にある白のチョークで書けよ。そっちの方がみんなも見やすいだろ」
うん、ごめん。私が苦し紛れに取ったチョークはどうやら黄色だったらしい。ご丁寧に白の場所まで教えてくれた田島君は案外優しい人なのかもしれない。
———はいはーい!屋台系がいいです!
———えぇーアトラクションとかがいいよー
———体育館で劇やるのもいいなー!
———体験コーナーとかもいいよね!
みんなの意見を黒板に書いていくが一向に決まっていかない。クラス中もだんだん自由な感じになり始め、実行委員の私達の話にも聞く耳を持たなくなった。
ちょっとお前らいい加減に…。さすがの田島君も苛々を隠しきれない様だ。
教卓の中に厚みのある冊子を見つけた。それを取り出し、思いっきり教卓に叩きつける。
バシーーーーン!!と大きい音が鳴り、みんなが教卓に視線を向ける。私の行動に不快感を表している人もいるが私には関係ない。あなた達の行動も私にとったら不快なのでおあいこである。
お前やるなぁ…。と隣に立っている田島君に声をかけられ、どもうと返す。
「じゃあ、まずは屋台、アトラクション、劇、体験コーナーで多数決を取りたいと思う。みんな一つに手を挙げてくれ」
こうして始まった多数決。私達のクラスは男女合わせて33人編成だ。実行委員の私達も多数決に入る。屋台7名、アトラクション10名、劇5名、体験コーナー11名で体験コーナーに決まった。
問題はこれからでなんの体験コーナーをするかだ。体験コーナーに手を挙げた人達も、特に何かやりたい訳ではなく一番楽そうだからという理由らしい。ちなみに、私と由花は屋台に手を挙げていた。
何かいい案はないかしら?後10分で授業も終わってしまう。その後帰りの会をしすぐに会議が始まる。私達のクラスだけ決まっていないなんてだめだ。
「はーい!私はミサンガ作り体験がいいと思いまーす!」
元気よく発言してくれたのは友人の由花だった。確かに最近ミサンガブームがまた来ている。それは、今人気の男性アイドルグループがみんなお揃いでつけているのを真似して、女の子達の間で流行り始めたのだ。
クラスの女の子達も由花の発言に大賛成している。目でありがとうと伝えると向こうもどういたしましてと目で伝えてくれた。
「今日はこんなもんでいいんじゃね?ある程度決まったし、みんなも文化祭までにはミサンガ作れるようにしといてくれよ」
ふぅー。緊張した。私達が席に戻ると黒石先生が教卓に立ち帰りの会を始めた。特に連絡も無く、淡々進められた。
帰りの会が終わり、荷物を整えていると田島君が私の席のところまで来てくれた。
「鈴木準備できたか?もうすぐ始まるから行くぞ」
あっ、うん。もしかしたら会議には参加しないかもしれないと思っていたがそんなことはなかった。案外真面目な人なのかもしれない。
由花また明日ね。と声をかけるとうん、また明日と返してくれた。田島君も私の準備ができたのを確認し、一緒に教室を出た。
会議が行われる部屋に入ると、数名の生徒が集まっていた。他学年と関わる機会が少ないので流れる空気も変わる気がする。
「え〜本日は文化祭実行委員の会議にお集まりしていただきありがとうございます。本日、司会進行役を務めさせていただく杉田と申します。よろしくお願いします。この後クラスの出し物の大まかな説明と、当日までの役割分担を決めていきたいと思います」
上級生から順番に各クラスで行われる出し物の説明が始まった。もし内容が重複するようなら、話し合いやジャンケンで決まるらしい。
各クラス被ることなの順調に私達のクラスまで回ってきた。
「では、次は〜一年一組お願いします」
どちらがいうか目を合わせる。田島君がいいよ、俺言うと言い立ち上がった。
「自分たちのクラスは、ミサンガの体験コーナーをやりたいと思います。当日までにクラスの個人個人がミサンガを作れるようにします。以上です」
パチパチと拍手がなり、次のクラスへと移る。
「あの、田島君ありがとう。人前で話すの苦手だから助かったわ」
「別に、いいよそのくらい」
言葉はぶっきらぼうだか、対して気にもならない。前までだったらこんな態度の人と痛くないって思ってたけど…なんで平気になったのかしら?最近までの生活を振り返るとすぐに答えは分かった。あっ…真二と見た目は違うけど性格が似ている事に気づく。
ん?なんだよ。私がずっと見ているのに気づいた田島君が声をかけてくる。ごめんなさい、何でもないわ。んー…距離感が掴めない。
「では…次に文化祭当日までの役割分担を決めたいと思います。黒板に役割は書きましたが、みなさんどれを担当したいですか?」
なるべく簡単なやつを…と思うがそれはどのクラスも思ってる事よね。ここは、田島君と相談して…。
「はい、俺たちのクラス真ん中に書いてある花1000個作ります」
どよめきが上がった。私もそれはちょっと…。と思った。100個作るのでも大変なのに1000個って。先輩方からいろんなお言葉が飛び交う。
———一年生ー!初めての文化祭だから楽しみなのも分かるけど1000個はきついって!
———そうだぞー!その項目だけ毎年最後まで残ってるんだから!
———お前らすげーよ!自分たちから立候補するやつら初めて見たよ!
どんな言葉が飛んできても微動だにしない田島をこの時初めて凄いと思った。周りからの視線に耐えられないと思った時、杉田さんが口を開いた。
「まだ、他の候補もあるし今なら変えても大丈夫だよ?」
優しい口調で助け舟を出してくれたもの、彼の意志は揺るがなかった。
「大丈夫です。やれるので」
「わかった。毎年決まったクラスから解散しているんだ。ここにある袋を持って行ってくれ。中におはながみが3種類入っているから。あ〜あとあと、これもね」
そう言って渡されたのは、一枚の紙だった。
「この紙にクラスと店名を書いて夏休み前までに、職員室の前にあるボックスに入れるか、僕に直接渡してくれ。これで以上だ。お疲れ様でした」
お疲れ様です。こうして、私達2人は会議が行われていた部屋を後にした。
「田島君どうして?1000個なんて一番大変なやつにしたの?」
会議の時に思っていた疑問をぶつけてみた。別に不満をぶつけている訳ではない。なぜ、これを選んだのかが気になるのだ。
「俺さ、兄貴がいるんだよ。ここの卒業生でさ文化祭実行委員やってたんだ。俺と兄貴は性格が真逆で凄く大人しいんだよ。きっとその性格を利用されて花1000個作らされてるのを見た時、嫌ならなんで断らないんだよってその時思ったんだ」
———兄貴なんで断らないんだよ。嫌なら嫌って言えよ
———別に嫌じゃないさ。こうして一つ一つ作っていくのが好きなんだ。
———それにしたって、二人で1000個なんて多すぎだろ?
———勇気は優しいな。僕は一人で作っているわけじゃないよ。クラスのみんなが協力してくれてる。これはほんの一部だ。みんなと作る文化祭はとても楽しいから、勇気も高校に入ったら文化祭実行委員をやればいい。
そんな過去があったなんて知らなかった。お兄さんの教え通りに文化祭実行委員になったのも素直に凄いと思う。
「別にやりたくて立候補したわけじゃねぇよ。あのままじゃ拉致があかなくてやっただけだ」
確かにあのままじゃ拉致があかなかったが、それだけじゃないような気がしてくすっと笑った。
———おーい!2人ともおつかれさん!
声がする方を向くと由花が帰りの支度を済ませて、下駄箱で待っていた。
「どうしたの?帰ったんじゃないの?」
今ここに居るはずのない人がいると動揺してしまう。
「バイトがあるから帰ろうと思ったんだけどさ、店長が今日は人手が多いから休んでもいいよーって!最近休みがなかったら久々にゆっくりするよ!」
「ほんっと、池田ってテンション高いよな」
「高くて悪い?ん?」
「あーもう、うるせぇーうるせぇー」
あはは!と笑いが起きる。
———ん?みんなそろってどうしたの?
そこに立っていたのは五十嵐君だった。ほとんどの生徒が下校しているのに、同じクラスの4人が出会すのも凄い。
「さっきまで文化祭実行委員の集まりだったんだよ。それで、この袋に入ってるのがおはながみだ。当日までに1000個作る」
『1000個も!?』
そういう反応になるわよね…。由花と五十嵐君は開いた口が塞がらないといった感じだ。
「どうしてそんな事になったのよ!?」
「いくらなんでも多すぎないか!?」
私と同じ反応をされた田島君は恥ずかしくなったのかそっぷを向いた。
その後2人にもお兄さんとあった出来事を話し、これに至った経緯を説明した。
説明を聞くと2人とも納得したみたいで、何かできることがあれば手伝うとまで言ってくれた。
「明日からおはながみは作るつもりだ。今日は特に何もねぇかな」
「そうねぇ…あっ、店名を考えるのは夏休み前までだから少し急いだ方がいいかも」
夏休みまで土日を除くとあと3日しかない。クラスのみんなで考えるのもありだが、あのクラスではまとまるまでに時間がかかりそうだ。
「それなら、この後みんなで店名考えようよ!予定がなかったらだけどさ!」
由花はとてもうきうきした感で楽しそうだ。
「別に俺はかまわねぇけど」
「私も平気よ」
「僕も大丈夫だよ」
じゃあ、決まり!とすぐに決定し私達は4人は初めて一緒の時を過ごす事になった。

