流れ星を追いかける君と、輝く夜明けに。

 やや大げさに流星が驚いたかと思うと、バレーボールが唯一の出入り口の扉に転がっていく。
 扉のすりガラス越しに見える外の色はどこまでも灰色だ。

 「塾の先生って……。明紗。その時、小6だったよね。相手の男いくつ?」
 「一人は大学生って言ってたけど、もう一人は二十代……」
 「え? 塾の先生、二人に告白されてんの?」

 ここで止まっていたら、話の先が進められないから、吃驚している流星は受け流す。
 大人と呼ばれる人に告白されたのはそれが初めてではなかった。

 「別れた理由を聞きたかったわけじゃない」
 「……」
 「その前の段階の……付き合うって何なんだろうって本当は聞きたかった」
 「……」
 「男の人に告白されるって、何を私に求められているんだろうって何か怖い……」

 ずっと言えなかった誰にも伝えたことのない私の本音が雨音に混ざる。
 塾の先生のような大人が私の何を好きだと言うのだろう。
 私と何がしたいと言うのだろう。
 だから、あの時、自宅に来ていた流星にすがるように聞いてしまった。
 ――遠回しすぎるとわかっていながら。

 「明紗」

 肩を引き寄せられて、私の側頭部は流星の肩へと着地した。
 何かこれ、心が(ゆる)んでいく。
 鳴り止まない雨音が、この少し湿った土埃の香る空間が、やけに心地いい。

 「俺だけに見せて。俺だけに聞かせてよ。そういう儚げな明紗」

 流星とだけおかしい距離感は自覚している。
 男の人には関わらない、近寄らない、話しかけない、見つめない。
 そう決めていた。
 そう決めていたはずなのに。

 「俺も付き合うってよくわかんなくなった……」
 「何?」
 「何でもない。ほんっと明紗ってどんだけモテんの?」
 「何か、ごめんなさい」
 「え? それ何の謝罪? 何で明紗、俺に謝ってんの?」

 無性に流星に謝りたくなった。
 なぜなんだろう。
 自分でもわからない。
 私は流星の前でだけ見せてしまう私を自分で持て余している。
 落下し続ける雨音に混じって校内にチャイムが鳴り響く。

 「あーあ、ずっと昼休みだったらいいのに」

 そう流星が呟きながら、私の肩に回していた腕を緩める気配を感じたから、

 「え?」

 私は咄嗟に逆側の手で流星の手を掴んでいた。
 空中で結びついた視線。
 突然の私の行動に面食らったのか至近距離にある流星の整った顔は驚きを示していた。

 「何か、ごめんなさい」

 二度目の謝罪を伝えて、流星より先に足早に部室を出る。
 私は何をしてしまったんだろう。
 流星の手が私から離れるのが嫌だと感じてしまった。

 「何なの? 明紗って本当に俺を殺す気?」

 背中で流星の声を受け止めながら、扉を開けてすぐに閉めた。
 (のき)でも完全に防ぎきれない雨が身体を濡らす。
 何で流星にあんなことしてしまったんだろう。
 自分から流星の手を握るなんて……。
 急ぎ足で校舎に戻る私の心音は雨音よりも大きくて頬が紅潮していくのを止められなかった。
 本当に私は私を持て余している。
 流星の前でだけ……。