アサクラさんの駄文


「ほれ、起きろ、」
「んえ」
「喉乾いてんだろ、水だ」

「あ”り…ん”ん」
声が引っかかったようだった
さっきまでカウンターに伏していた気がする
いや、でも眼の前にアサクラさんがいるということはあの店から歩いた記憶も夢ではないらしい
せめてと頭を軽く下げてペットボトルを受け取る
そのままフタを開け口をつけた

「君一時間くらいずっと喋ってたんだ」
「あんだけ喋っていれば喉はカッサカサだろうさ」
僕はまた余計なことを言ったのだろうか
「でPAにつけようとしたら直前で完全に寝てしまってね」

「パーキングエリアって、僕住所なんて言いました!?」
おかしい、あの店から僕のアパートは別に高速を使うような距離じゃないはずだ

「言っただろう、ドライブに付き合えと。」
理解が及ばない、なにを、まず何と聞けばいい
ドライブ、言っていた気がする
「えっと…どこに向かっているんです」
やっと声が自然になってきた

「それはだね…あ、篠山くん明日…てかもう今日か。ってなんか予定あるかい?」

「…溜まった洗濯物との格闘ですかね」
大学のものも、就活も、明日はなかった。だから飲んでいた

「じゃあ良さそうだな」

きっともうこの人は今の状況を詳しくは説明してくれないのだろう
せめて聞くだけ聞いてみる
「僕は、何を喋ってましたか」
いや、知らないほうが良かったかもしれない。また後悔する

「…君の話は中堅の芸人のラジオより良かったよ」

アサクラさんは僕の思っていることを見透かすような返答をした
内容はわからないままだった

「そろそろ出るから、トイレとか行っときな」

「はい」

なぜ言われるままに動いているのだろう。
いや、ここで降ろされても困るので従えと脅されたらそりゃ従うのだが
別に脅されているわけではない
…アサクラさんは僕の心を見透かしているようだが、僕はあの人が何を考えているかわからない
どこに向かっているかさえもわからない
用を足しながら酒と眠気の残る頭でいろいろと考えてみる

「海老…名…」
トイレからでてPAの看板を見てそのまま声に出して読む
海老名SAいやサービスエリアじゃないか

「お、戻ってきたね。じゃあ出ようか。」
「海老名って…」
「ああ、しばらくは起きてるといい、いいものが見れるよ」

「少し遠回りだが許してくれよ、その価値はあるからさ」

アサクラさんとの夜はまだ続く