アサクラさんの駄文




篠山くんは助手席に座ると住所を教えてくれた
「自分じゃ、打ち込めないです」
「いいよ」

今どきは音声入力というのもあるのだけれどね
歩いたら完全に酔いが回ったのか
住所を言って集中が切れたのか
心ここにあらずとでも言おうか
寝ても覚めてもいない様子だった

「君は送り狼とか知らないのかい」
起きているかと聞くように冗談を言ってみる

「アサクラさん、なら綺麗ですし、世の男は、大歓迎。ですよ」
「ははっ…口が達者なガキだね」
昔の私を見ているようだ
親近感と恥ずかしさで冗談を続ける余裕はなかった

車を動かし始める
ラジオの音量を下げる
彼は店での続きのようなうわ言をつぶやき始めた
小一時間は喋っていた
私は相槌すらも返さなかった
私が彼ならそうしてほしいから

「夢を諦めたくない」

その言葉が嫌に、私にも刺さった



悩んでいた
夢を追ってあがいてみるか
諦めて働くか