異世界美容院『ANGELI』

大体の説明と、人事を発表し終えたジョニー。
しかし、一人複雑な表情を浮かべる者がいた。



フウ・・・これで凡その説明は終えたな。
さて・・・場の空気は上々。
ちょっと興奮気味の者もいるが、他っておけばいいだろう。
ん?・・・なんて言う顔をしてるんだ?・・・国王さんよ?
人だけ様子が違うようだが・・・

「ヘンリー国王、どうかしましたか?」
ボールを投げられて、今度は困った表情を浮かべている。

「いや・・・その・・・」

「何か問題でも?」

「問題では無く・・・あの・・・」
何なんだよ、はっきりと言いなさいよ。
そんな仲でもないでしょうよ。

「遠慮なくどうぞ」

「はあ・・・では、お言葉に甘えて・・・余は・・・何も役割は無いと言う事なのだろうか?」
この人、俺の話をちゃんと聞いて無かったのか?

「国王、あなたには最も大事な役割があるではないですか」

「というと?」
どうにも合点がいかないようだ。

「先ほども話ましたが、美容学校は国立です」

「であるな」

「国が主導して行う学校ということです」

「ふむ・・・」
まだ分からないかねえ?

「要は金ですよ!金!誰が出すとお思いで?」

「それは存じておる」

「それ以外にも、職員の確保や建物を誰が準備すると考えているんですか?そういった部分は国王がリードしないと」

「あっ!・・・そうであったな・・・」
やっと理解出来たみたいだな。

「建物の建設や、誘致する土地。職員の採用や運営に関する部分。また、他国とのやりとりは国王にリードして貰わないと話にならないのでは?」
そうであったと、目に活気が戻ってきた国王。
もう!いい加減にしてくれよ!
こんなことの説明がいるのか?
・・・要るのか・・・そうだよな・・・この世界には国立という物があって無い様な物だからな・・・
いやー、すまんすまん。
こんな調子で魔法学院の方は大丈夫なのか?
あっちも学院は国立なんだろ?
これはララやジョルジュも苦労するんじゃないのか?

そもそもだ。
この国だけに留まらず。
この世界には国立という概念が薄く感じる。
簡単な話、公務員が少ないのだ。
一番多い公務員は衛兵だ。
この衛兵だって今では扱いが随分と変わってきている。
それはララの出現によって平和が担保されたからだ。
そう言った側面があり、国軍は解体されている。
その為、現場に出る衛兵の数が減った。
内勤の者が増えて、仕事が希薄となったのだ。

この辺の運営ははっきり言って下手くそだ。
その人数を新たな部署を設立して運用しようとはならなかったのだ。
そう・・・俺が助言するまでは・・・
本当はそんな事に口を挟みたくは無かったよ。
だって俺は美容師ですよ?
政治家でも貴族でも、王家でもはありませんっての。

世界は急激に変貌を遂げている。
例えば、車擬きだ。
今ではしょっちゅう見かける。
しかしだ、その変化に国がついていけていない。
要は交通事故が多発したのだ。
そうなるのは当たり前の事で、少し考えたら分かることだ。
例えば交通ルール。
右側通行なのか?左側通行なのか?
信号なんてないのだから。
それにあったとしても、その意味を理解している者は皆無だ。
俺は交通整理に衛兵を回す様に提言しただけに過ぎない。
更には交通ルールをちゃんと認知させろと・・・
それを知らない者達が言い争っているのを何度か見かけたし、実際に事故にまで発展したのを何度か見ている。
幸い、怪我人が出て無い様でなによりではあるが・・・
正直見るに見かねたのだ。

これは文明化の弊害である。
新たに便利な物が増えるのはいいことだ。
しかし、その扱い方や定められたルールが無い限り、アクシデントは起こりえる。
必然的な話しである。
これが小さなコミュニティーであればさほど問題にはならない。
お互いよく知っている相手であれば、大事には発展しないだろう。
国全体、いや世界全体として大きく舵を切っている今。
こういった点がとても重要なのである。

今回のサミットではそういった点をよく話合うようにと、ジョルジュには釘を指してある。
全世界で統一したルールが必要であると。
ここには裏面のララも唸っていたな。
(流石はジョ兄・・・したたかであるな)
等と言っていた。
いや、したたかの意味を間違っていると思うぞ、ララよ・・・
まあ、突っ込まないけど・・・

結局のところ、王政ではこういった部分には配慮がたりないのだ。
本来最も重要な事項であるのにも関わらず。
どうしても自国の利益や、他国よりもリードしたいといった感情が表立ってしまっている様に思える。
気持ちは分からなくはないが、今は競い合う段階ではもう無くなっている。
要は文明の進歩に人の感情や気持ち、そして人間性の成長が追いついていないばかりか、制度が追いついていない。
便利さばかりが先走ってしまっている。

結果として国がリードしなければいけないという感覚が抜け落ちているのが現状。
というよりも、先を見越した考えが足りていないのかもしれない。
余りに経験値が不足しているのだ。
本当は口を挟みたくは無いのだが、これまでにちょいちょい見かねて提言を行っている。
衛兵の扱い方もそうだが、他にも車擬きを救急車にしたりだとか、消防車にしたりとか・・・
最も文明化の進んでいるエルザの村ですらも、そういった使い方はされていなかった。
ジョルジュは俺の提言に関心しきりだったよ。
なんだかねえ?・・・
パトカーもいるかもね・・・まあいいか・・・

話を戻そう。

「ヘンリー国王、国立の学校は国の施設なんですよ?分かってます?その意味?」

「であるな・・・」
俺が提言をした背景を知っている国王は反省した表情を浮かべていた。

「だったらやる事が一番多いのは、あなたなんじゃないですか?」

「これは恐れ入った・・・」
本当にわかってんのか?このおっさん・・・
まあ、これ以上は詰めないでおこうか・・・
それにしてもどうしてこうなった?