異世界美容院『ANGELI』

翌日。
今日は特に決まった催しは無く、フリーの日だ。
ひとまずは朝食を済ませて温泉に入る。
朝からのんびりってのもいいよなー。
これぞ休暇って感じだな。
但し、長風呂は厳禁。
俺にとって朝からの長風呂は体力を消耗しかねないからね。
ほどほどに温まったら終了に限るよ。
ふうー、良いお湯でした。

朝食もビュッフェ形式だった。
根付いてるねえー。
トーストにバターを塗って食べる、ちょっとパンが硬いのが気になるがご愛敬だ。
そもそも日本でのパンがフワフワ過ぎるのだ。
それに高級パンなんて、柔らかすぎるぐらいだからね。
何度かお土産で持参したけど、皆な驚いていたからさ。
俺も始めて食べた時には衝撃を受けたよ。
でもよーく考えてみると、トーストって子供の頃はそれなりの高級品だったような気がする。
朝食で出てくるなんて稀だったな。

それはさておき、トースター擬きにパンを入れて数分待つ。
するとトーストがこんがりと焼き上がっていた。
このトースター擬きも、家の家電を参考に造られたものらしい。
いいじゃないか、何でも便利な物はパクるに限るよ。
パクられただとか、俺は全く気にならない。
そもそも家にある家電は俺が創った物でもなんでもないからね。
購入して利用しているだけに過ぎない。
そんな物の特許権を主張するなんて間違っている。
そこまで欲張る事なんて出来ませんっての。
とはいっても、元々似た様な魔道具があったみたいだからお門違いなんだけどさ。
少々固めのトーストを齧り、何かしらのスープを流し込んだ。
このスープはキノコが入った牛乳ベースのスープだ。
悪くないな。
他にも適当に選び、最後にお茶を飲むことにした。
特にこれといって美味なる物はなかったが、満足は出来たな。
さてと、この先どうしようかな・・・



一端、部屋に戻り出かける準備をした。
とは言っても、少し髪形を弄っただけだ。
この世界のドライヤーを俺は使えないから出来る髪形は限られる。
そうこうしていると、誰かが部屋にやってきた。
コンコン!
誰だろうか?

「どうぞ!」

「失礼します!」
元気よく部屋に入って来たのはライゼルだった。

「ジョニー!居るか?」

「ああ」

「今日はどうするんだ?」

「特には決めていないが・・・」

「ウネウネを料理するんじゃなかったのか?」

「そうだったな・・・」
ハハハ・・・のんびりし過ぎて忘れていたよ・・・昨日の今日だってのにさ・・・

「なんだよ!忘れてたのか?」

「悪い悪い、忘れてた・・・じゃあジョルジュを呼んで来てくれないか?」

「ああ、分かったよ」
ジト目で見られてしまった、もしかして楽しみにしていたのかな?

数分後。
「ジョニー店長、御用でしょうか?」

「ああ、悪いが屋台を準備してくれないか?ウネウネを料理するからさ」

「畏まりました、他に何か用意する物はありますか」

「じゃあ・・・」
俺は他にも調理に必要な物を伝えた。
手際のいいジョルジュは一時間後には俺を呼びに来ていた。

俺は屋台街の片隅で、屋台を構えていた。
物好きなもので、社員旅行中に俺も何をやってるんだか。
まあこれは趣味みたいなものだから許して欲しい。

さっそく昨日釣ったウネウネを捌いて行く。
骨に沿って三枚におろす。
その後、目だった骨をピンセットで抜く。
これが地味に大変だったりもする。
そうこうしていると、何が始まったのかと人が集まって来た。
やれやれ、どうにも注目を集めてしまうようだ。
中には昨日買い物をした屋台の親父さんまで混じっていた。

「ジョニー店長、なんで屋台で料理なんてしてるんでさあ?」
無遠慮に話かけてきた。

「昨日釣りをしてさあ、ウネウネを何匹か釣ったんだが、その時に料理してやると約束してさ。せっかくたくさん釣ったんだし、皆にお裾分けと思ってさ」

「へえー、ウネウネですかい?ありゃあどうにもならん魚じゃねえですかい?」

「そうでもないぞ、まあ見てなって」

「ほう、なら儂にも手伝わせて貰えねえですかい?売り物になるってんなら教わりてえでさあ」

「お好きにどうぞ」
屋台の親父は内側に入って来た。

「ほお・・・綺麗におろしてますねえ・・・ふむ・・・骨を抜いてるんですかい?」
感心したのか親父さんは何度も頷いていた。

「ああ、全部は無理だが、目立つ物は抜いておけばちゃんと身の味が分かるだろう?」

「なるほど、細けえ仕事だがこの一手間が肝心ってことですかいねえ?」

「そういうことだ」
濃い口しょうゆ、砂糖、みりん、ハチミツを軽く煮詰める。
そこに取り除いた骨と頭で煮詰めた出汁を混ぜる。
簡単だが、これで鰻のタレが完成する。
継ぎ足しを重ねた名店の味とまではいかないが、これだけでも充分に鰻のタレとなる。
その後、串を打つ。
これだけでもプロの職人は数年かかると言われているが、そんなことは気にしない。
薪に火を付けて、炭火にする。
これが何気に時間が掛かるのだが、手伝うとしゃしゃり出てきた屋台の親父に任せていた為、ほとんど出来上がっていた。
流石に屋台の親父さんだけあって、炭に関しては手際が良い。
それにしても随分と人が集まってきているな。
大方、あの噂の御仁が何か奇妙な事でも始めたんだと噂になっているんだろう。
お好きに眺めてくださいなってね。

炭でウネウネを焼いていく。
この時気を付けなければならないのは、火に近づけ過ぎない事だ。
流行る気持ちを抑えて、じっくりと焼いていく。
最初に皮から火にかけて、その後焼き上がったら裏返す。
いい感じに匂いが立ち昇っているな。
そう、あの人を引き寄せる匂いだ。
この匂いを嗅いだだけでお腹が空いてくる。
これはもう、本能だな。

「ほう、随分と丁寧な仕事をするんですねえ」

「それが肝心要ってことさ」
さて、ここからが本番だ。
前以って作っておいたタレをウネウネに塗る。
すると一気に匂いが変わる。

「なんだ、この匂いは?」

「美味そうな匂い・・・」

「何とも香しい・・・」
民衆の声が漏れる。
焼き上げた鰻を手に取り、親父さんに差し出す。

「さて、試食といこうか」

「宜しいので?」
今更そう遠慮されてもねえ・・・

「手伝ってくれたんだ、試食ぐらいしないとな。それにそれが目当てだったりしたんだろ?」

「ハハハ!バレてましたか!」
よく言うよ、まったく・・・

「さあ、食べてみてくれ」

「よっしゃ!」
屋台のおやじさんは豪快に齧りついていた。
俺はちゃんと串から外してから食べる。
うん、名店の味とまではいかないが、まずまずといったところだな。