異世界美容院『ANGELI』

お店が異世界と繋がってからおよそ四年の歳月が経っていた。
メイデン領は、いやダンバレー国は着実に美容大国へと押しあがっていた。
現状を少し説明すると、『ヒナドリ』は既に国内に二十店舗存在する。
髪結いさん達も、立派な美容師へと変貌を遂げつつあった。
そして二名の美容師が、新たに美容院『ANGELI』の従業員となった。

メンバーについてはまた後日改めて話をするとしよう。
全員個性的な方々だと言っておこう。

ダンバレー国には、他国から視察に訪れる者が後を絶たない。
そして弟子入りを望んで美容院のみならず、他の職種への関心も高い。
エルザの村からの技術提供のお陰で、他国に先んじてダンバレー国は技術革新が進んでいるからだ。
その理由は簡単で、ダンバレー国にはララがいるからだ。
他国より優先的に扱われて当然と、他国も認めている。
俺としても鼻が高いよ。
それにしても・・・忙しいったらありゃしない・・・
競合が出来た今と成っても、美容院『ANGELI』の人気は衰えしらず。
半年先まで予約が埋まっているのだ。
これが本当の嬉しい悲鳴という事だな。

という事で、俺は今ある事を計画している。
それは・・・社員旅行である!
念願のと言っても過言ではないだろう。
本当にこれまで働き過ぎだっての!
いい加減ちゃんと休みたいぞ!
これが嘘偽りの無い本音ですよ!

参加者は残念ながら全社員とはならなかった。
温泉旅館が閉館に出来なかったからだ。
実に無念だ・・・公衆衛生場の側面もある温泉は、年中営業が基本とのこと。
そう言われてしまうと流石の俺でも休館には出来なかった。
温泉同好会の面々が居残りとなってしまった。
面目ない・・・その為金一封を手渡した処、無茶苦茶喜ばれてしまった。
あれ?家ってそんなに低賃金で働かせていましたっけ?
なんでも皆さんは最新の魔道具が欲しいらしい。
ところが最新の魔道具はそれなりにお高い様だ。
ならば良かった、一安心である。
それなりに高給取りな皆さんですよ、家のスタッフはね。

旅行先はエルザの村。
随分と前に行くと約束した場所だ。
移動には魔道飛行船をジョルジュに準備して貰おうかと考えていたが。

ララから、
(そんなの僕の転移魔法で行けるから必要無いよ)
とありがたい申し入れを頂いてしまった。

流石は伝説の聖獣だと褒めておいたよ。
確かにあの転移は凄いよね。
始めての時は腰を抜かすかと思う程驚いてしまったけどさ。
異世界って凄いよね?
いや、ララが凄いのか・・・どっちでもいいか?

そんなことはいいとして、移動方法は最も楽ちんな方法となった。
既にジョルジュにはエルザの村に社員旅行に伺うと伝えてある。
あいつめ・・・ララ様が来てくれると浮足立っていたよ・・・村を挙げて歓迎すると鼻息が荒かったな。
全く・・・ララは人気者だな。
等と考えていたが、どうやらそれだけでは無く。
俺や『ANGELI』のスタッフ達も人気者らしい。
どうしてか?

なんでもエルザの村にはこれまで美容の文化は余りなく、見た目には気を使う事があまり無かったらしい。
確かにメイフェザーなんて初めて会った時には酷かったからな。
髭は伸ばし放題、髪もぼさぼさだったからな。
ジョルジュも髪を後ろで縛っているだけだったし。
ジョルジュが言うには、
「ジョニー店長達は民衆に囲まれるかもしれないですよ」
とのことだった。
それは困る、なんたって社員旅行なんだからさ。
ジョルジュにはそれとなく、控える様に話してはおいたけど・・・
どうなることやら・・・民衆に囲まれない事を祈るばかりだ。

結局の所参加者は四十名近くとなった。
ライゼル達もここぞとばかりに着いてきやがった。
だろうなとは思ったけどさ。

今回は美幸は不参加だ。
だって亜紀には幼稚園があるから、休ませる訳にはいかないでしょうよ。
亜紀は行きたいと駄々を捏ねていたが、認める訳にはいかない。
いくら幼稚園とは言っても学びの場には変わりはないからね。
その分要らないおもちゃを購入することになってしまったが・・・やっぱり俺は姪っ子には甘いんだろうか?
ちょっと可哀そうに思えてしまったんだよね・・・
これぐらい勘弁してくださいよ。

実は社員旅行に無遠慮に同行しようとしている者がいた。
ヘンリー国王であった。
ここは丁重にお断りさせて貰いましたよ。
ライゼルとの関係を考えるといいかな?とも思ったのだが、俺が国王を引き連れていくのもどうなの?ってな感じ。
随分寂しそうにしていたが・・・こうなるともうお友達確定じゃんよ!
どうしたもんかねえ?ヘンリー国王は国家元首でしょうよ・・・



社員旅行当日。
ララの言う通り、一瞬にして移動は完了していた。
俺はもう慣れてしまっているが、他の者達は違う。
驚く者、尻餅を付く者、呆気に取られている者等々・・・
これがあれば物流革命が起きるよね?だって日本でも出来ない事だもんね。

それはいいとして、エルザの村は活気に溢れていた。
到着まじかに大騒ぎとなっていた。
そして次々に膝まづく者達。
視線を下げて、仰々しくしている。

やっぱりこうなったか・・・
自慢げな顔のララは、全体を見回してウンウンと頷いていた。

(面をあげよ)
念話が民衆の脳に直接話し掛けていた。
一斉に顔を上げる民衆。
その眼には涙を浮かべている者、尊敬の眼差しの者、笑顔の者が多数いた。

(立ち上がるがよい)
その声を受けて立ち上がる人々。
もはや見慣れた光景だ。
やれやれだな・・・

そして俺達にも好奇の視線が向けられてくる。
ジョルジュの言う通りか・・・しょうがないか・・・
当のジョルジュが待ってましたと、俺達に歩を進める。

「ララ様!ジョニー店長!はるばるお越し下さりありがとうございます!」
今一度頭を垂れるジョルジュ。
それに倣って民衆も頭を下げた。
もういいってば・・・
隣を見ると何故だか誇らしそうにしている家のスタッフ達。
止めなさいっての・・・気持ちは分からなくはないけど・・・

それにしても・・・ここがエルザの村か・・・
確かに俺の知る異世界の街並みとは異なっている。
とは言ってもメイデン領から出たことないけどね。
家屋は石造りが多く、装飾もなされていた。
建物に高級感や拘りを感じるな・・・
高い屋根が特徴的で、石畳が敷かれた道路や側溝なども完備されて清潔的だ。

なるほど・・・街灯の数も多く、安全な夜道が保証されているに違いない。
水飲み場も完備されており、何かと便利さを感じさせる。
ジョルジュがこの世界で一番文明化が進んでいると大見えを切ったもの頷けるな。
そして自動車やバイクに似た乗り物らしき物も見かけた。
飛行船があるぐらいだから、あって当然だろうね。
逆に馬車の様な中世を彷彿とさせる物が皆無だった。
いいじゃないか、これぞ旅行気分だね。
見たことの無い物に触れ、知らない土地を散策する。
最高じゃないか!

逆に問題となるのはこの人の多さだな・・・
やれやれ・・・ララがいればこんなもんか・・・しょうがないよね?
ジョルジュに案内される形での移動となった。
自動車擬きに乗り込み、整備された道路を走る。
速度はゆっくりであったが、不満を感じる程ではない。
なにより揺れが少ないのが良かった。
馬車では辛い体験をしたからね。
お尻が痛いのなんのって・・・
マリオさんのお陰で大分よくなったけど、未だにしんどい事に変わりはないからね。



まずはホテルにチェックインした。
ホテルであってる?よく分からんよ。
まぁ、お宿と言う事で・・・
この後はジョルジュにアテンドは任せている。
あいつなら無難に熟すだろう。

ホテルの前に集合すると、そこには民衆が待ち構えていた。
あらら・・・こうなったか・・・ジョルジュがすまなさそうにしている。
しょうがないよね・・・
車擬きに乗り込んだ俺達、何とオープンカーだった。
これでまずは街を散策するとのことだった。
エルザの村の見学だね、街を知るには最適な判断だな。
さてと、この先どうなることやら・・・

車擬きはノロノロと進む、まるでパレードだ。
ララに向けた声援が多数送られてくる。

「ララ様!」

「お越し下さり光栄です!」

「御尊顔を賜りありがとうございます!」
ララも誇らしそうに俺の肩に鎮座していた。
そして時折ララ以外の者へも声援が送られた。

「ジョニー店長!」

「イケメン!」

「私の髪を切って!」
参ったなー、俺も人気者ってか?

「おやっさん!」

「盆栽を教えてください!」

「おやっさん!最高!」
おいおいおい!親父に向けても声援が送られているぞ・・・なんだかなあ・・・
困ったものだな。
こんな社員旅行ってありなのか?・・・よく分からんよ・・・