異世界美容院『ANGELI』

資金について俺がどれだけ顔を突っ込んで良いのかはさっぱり分からない。
これが日本であれば、俺がとやかく口を出す事ではない。
しかしここは異世界だ。
なにより俺はこの異世界に、競合となる美容院を造ると腹を括ったんだ。
つまり、しっかりと首も顔も口も突っ込もうという事だ。
手を緩めるつもりは毛頭ない。

出店に関しての方法はいくつもあるが、先ずはこの異世界の現状からして、銀行は存在しない。
金貸しは存在するが、決して褒められたものでは無い。
高金利で所謂やくざもんと対して変わらないのだ。

真面にお金を借りる方法としては、商人ギルドから借りるという方法がある。
しかしだ・・・この商人ギルドからお金を借りるもの余り良い方法とは言えない。
というのも、商人ギルドもそれなりに金利が高いのだ。高利貸しほどではないのだが・・・
簡単に表現すると、日本の銀行の金利の三倍ぐらいだろうか?
借金返済に追われる経営をすることに成りかねない。
結果、自己資金がなければ独立は難しいのである。
これまでの様に、髪結い屋であれば自己資金は殆どなくても、ハサミと椅子さえあれば開業ができる。
しかし美容院はそうはいかない。



さて、どうしたものか・・・
下策としては商人ギルドのギルマスであるバッカスさんに、低金利で借りれないか交渉することである。
これまで商人ギルドには貸しがある為、いくらかは融通してくれるかもしれない。
しかしこれまでの商文化を簡単に変えることは難しいだろう。
それに商人ギルドが俺では無く、美容師を特別視する理由が無い。
交渉は相当にハードなものになるだろう。
とてもではないが、上策とは言えない。

中策だと思えるのはマリオさんの手を借りる事だ。
お店に必要な設備や備品などをマリオさんが買い取って美容院にリースをする。
つまり機材を賃貸することだ。
理解のあるマリオさんであれば、喜んで手を差し伸べてくれるに違いない。
彼にとっても旨味のある話だしね。

でもここは上策を推し進めたい。
ピンチはチャンス。
そうここはチャンス処なのである。



俺はバー『ANGELI』に訪れた伯爵とヘンリー国王を捕まえた。
ここはあっさりと帰す訳にはいかない。

「お二人さん、お寛ぎの所申し訳ないですが、話をしても?」

「何のご用件でしょうか?・・・」
俺からの話ということでビクついている伯爵。
そう身構えんでくださいよ。
善良な美容師さんですよ?

「ジョニー店長が話とは、聞かぬわけにはいかんなあ」
ヘンリー国王は打って変わって余裕の表情。

「少し長くなるかもしれませんがいいですか?」

「かまわんよ」

「ああ・・・」

「先ずはヘンリー国王、先日は美容師免許の授与式、ありがとうございました」

「なになに、あれしきの事。これでまた美容師がこの国に誕生したのだな。余としても嬉しい限りであるぞ」

「ですね」

「その美容師達なんですがね、どうやらまだ自ら経営する美容院を開業できそうに無いんですよ」

「ほう、それはどうしてか?」
よし、喰い付いてきたぞ・・・

「先ずは資金面です」

「なるほど・・・」

「そして経験です」

「ムム・・・」
腕を組んで唸っているヘンリー国王。

「しかし彼女らは先日美容師免許を取得したではないか?それでは足りないと?」

「不十分ですね、美容師免許は言うならば、ハサミを持って自分以外の誰かの髪の毛を切ってもいいと、国が許可したものです。美容師のカットはそんなレベルではありませんよ」

「確かに・・・『ANGELI』の美容師は髪結いさんとは比べ物にならんほどの技術を有しておるしな・・・」

「美容師は免許を取ってからが勝負なんですよ」

「そうか・・・とても奥深い職業であるな」

「そこで、これらを解決する方法があるんです」

「解決とな?」
俺は間を取って、じっくりと二人を見定めた。

「折り入って二人には協力して貰いたいなと・・・」

「外ならぬジョニー店長のお願いとならば、何なりと申してみよ」

「ええ、遠慮は無用ですね」
フフフ・・・言質は取りましたからね。

「先ずは伯爵に美容院を経営してもらいたいのです」

「私がですか?」
素っ頓狂な声を挙げている伯爵。

「正確には領主として美容院を経営して貰いたい」

「待ってくれジョニー店長、私は美容師ではないし、ましてや美容院の経営などしたこともありませんが?」

「ええ、説明しましょう」
こうして新たな美容師達のお店に関する計画は進められていくのであった。