わたしは窓の外を流れる景色を見つめた。
最近はお互い完全に馴れ合いみたいな関係になっちゃったけど、こうして昔のことを思い出すのもいいかもしれないな。初心に返るっていうのかな、いや、ちょっと違うかな。
窓に写る自分の顔が微笑んでいる。それが照れくさくて、わたしはふっと顔を逸らした。
明日こそ春也にケーキ買ってあげよう。それでお祝いするんだ。どこかに美味しいもの食べに行くのもいいかな。
なんだかんだ言って、わたしは春也のことが大好きなのだ。それは認める。
ーー早く春也に会いたいな。
わたしはそっと目を閉じた。
電車はそろそろ終点に着こうとしている。
窓の外は真っ暗だ。田舎には美しい夜景なんてものは存在しない。
「次はー終点、終点。お出口左側です」とアナウンスが響いた。わたしはふうっと背伸びをして降りる準備をした。
都会と比べるとだいぶ暗い駅のホームに降りる。駅を出ても、地方都市の駅前は薄暗い。わたしは横にしないように注意しながらケーキの箱を持って、予約したホテルへと向かって歩いた。
あまり大きくないホテルに着いた。わたしはフロントで手続きをして部屋に入ると、真っ先にケーキの箱を冷蔵庫に入れた。
「保冷剤入れてもらったから、なんとか大丈夫そう」
時間は零時近い。これから一人でこのケーキを二個食べるのは太るだろうし悲しすぎる。が、もったいないから食べないという選択肢はない。
わたしはスマホを手に取った。電話を入れてあげないと多分春也が心配しているだろう。
スマホをタップして繋がった途端、春也が出た。
「うわ、早!」
わたしは驚きの声を上げた。春也は自慢げな声で答えた。
「ははは、待機してたからな!」
「なんで待機する必要が」
わたしが突っ込むと、春也は急に声を真面目なものにした。
「だって心配じゃん、こんな夜中に。そこの駅前結構暗いだろ?」
その台詞にどこか気恥ずかしいものを感じてしまい、わたしは混ぜっ返した。
「そんな、若い子じゃあるまいし。大丈夫だよ」
春也は「おま! なんてことを!」と大袈裟な声を出した。
「まだ二十七歳の分際で! それ職場のお局様の前では絶対言うなよ!」
「言わんて!」
どこの方言かわからない返事をすると、春也はきゃははと楽しそうに笑った。
ーー楽しいな。
春也と一緒にいるのはとても楽しい。そんなところを好きになったとしみじみ思い出した。
「あ、ごめんね。もう寝るよね」
わたしは時計を見て焦った。時間は零時を過ぎてしまった。春也は笑った。
「いいよ、どうせ明日は土曜日だから昼まで寝てるし」
「いや、そこはちゃんと起きて」
そして電話を切る前に大事なことを思い出した。
「そうだ。ハッピーバースデイ! 春也!」
ぱちぱちぱちぱちーと声に出して電話で伝える。春也は驚いたような声を出した。
「え。覚えててくれたの?」
「覚えてるに決まってんじゃん。あたしを誰だと思ってるの。彼女だよ?」
「いや、でも、ここんとこ出張準備で忙しそうだったから、多分忘れてるなと踏んでたんだけど」
「わたしの記憶力に感謝して!」
電話の向こうで春也が「ははー」と頭を下げた気配がした。
「せっかくだから東京の有名なケーキ買ったんだけどね。賞味期限切れちゃうから、一人で二個とも食べちゃうよ」
一緒に食べたかったな。
ふとそんな気持ちが溢れ出して、声は少し涙声になってしまった。
電話の向こうの春也はしばらく黙り込んでから、「えっ」と大きな声を上げた。
「駄目だろ! 太るぞ!」
「ダイエット頑張るから大丈夫ですー!」
そう言って強がってわたしは電話を切った。いつまでも電話をしていたら春也が眠れなくなってしまう。
「忘れないうちに今日の報告書仕上げちゃうかなー」
私はバッグの中から書類を取りだして仕事を始めた。



