春也に出会ったのは九年前。大学に入学した時のことだった。
たまたま一緒の講義を取って、それですぐ親しくなった。
「紬ちゃん、なんでやねん!」
「春也くん、関西人じゃないでしょ!」
春也は一緒にいると楽しい。わたしは春也といるといつも笑顔になれた。
でも最初は、ちょっとお調子者っぽい春也のことを、友達としては好きだけど恋愛的には好みじゃないなと思っていた。
けれど、一年後、一緒に受けていた講義が終わって接点がなくなった後すぐに、急に告白された。
「紬ちゃんがいないと、俺元気出ないみたい。付き合って欲しいんだけど」
なんだその情けない告白は、そう思って最初は断った。「ごめんね、春也くんのことそういう目では見られない」と。
多分すぐ諦めてくれるだろうと、そう思っていた。きっと春也もわたしのことを恋愛的にそれほど好きではないだろう。春也は人気があるから、きっとすぐわたし以外の彼女ができて、わたしのことも忘れるだろう。それが少し寂しい気持ちがしたが、あえて気にしないようにした。
ところが、春也はその後もわたしにアプローチをかけてきた。共通の友達と一緒に遊びに行く予定を立てたりして、積極的に好意を寄せてくれる。
遊園地で「紬ちゃん、これ好きだったよね?」と好きな飲み物を差し出された時は、どこでリサーチしたんだとわずかに引いたりもした。
「紬ー。春也くんのこと、断るならちゃんと断らないと春也くんかわいそうだよ?」
友達にそう言われた。春也と一緒にいるのは心地よいのでつい断れない。
「春也くんには前に告白されたけどちゃんと断ったの。だから春也くんは単なる友達として誘ってくれてるだけだよ」
そう答えると友達は釈然としなそうに「まあ、お互いがそれでいいならいいけど」と深く追究はしてこなかった。が、中途半端に期待を持たせるような自分が、とても最低な人間に思えた。
それでも春也はいつも明るく自分に接してくれた。
三年生になった時、ついにほだされてしまった。
「紬ちゃん、まだ俺と付き合う気持ちになれない?」
そう聞かれて、まだわたしのことを好きでいてくれたのかと動揺すると同時に、心の中が熱くなった。
「あの、わたし。……春也くんと付き合ってもいいよ?」
真っ赤になってもじもじとそう言うと、春也に無言でぎゅっと抱き締められた。
それが嬉しくて涙が出そうになって、ああ「ほだされた」んじゃなくて「落とされた」んだなと気付いた。
大学を卒業してすぐ、わたしたちは同棲を始めた。元々仲の良い友達同士だったわたしたちは、特に大きな衝突をすることもなくうまいこと同棲生活を続けていた。
あまりに楽しく生活が回るもので、刺激が少なく「同棲ってもっと違うものじゃないのかな」とか「このままでいいのかな」と思うこともあった。でも、家に帰ると春也がいる。楽しく笑い合える、それがとても心地よくて、一緒に暮らしているうちに、同棲生活は五年目に入った。



