「うっわ、マジかよ!」
 電話の向こうで春也(はるや)が声を上げた。
「いや、マジだよ」
 夜中の都会の駅のホーム。わたしは半泣きになった。
「あ、そろそろ電車乗っちゃうから。また電車降りたら電話するね!」
 電話の向こうの「おう。(つむぎ)も気をつけて帰れよ」という返事を聞いて、わたしは電話を切った。
 あーあ。なんでこんなことに。って、自分が悪いんだけど!
 わたしはため息をつきながら電車に乗り込んだ。
 今日は春也の誕生日だったのに。今日中に帰宅できなくなってしまった。なんでこんなことに。
 いや、東京出張中にスマホを落としたわたしが悪い。それはわかっている。
 何時間か探し回って、やっととある駅に届いているとの情報を得た。そこですぐさまその駅に向かって、無事にスマホを取り戻した。そして帰宅の路線の時刻表を調べた。
 間に合わない。
 わたしと春也が同棲しているマンションは田舎にある。東京からJRの終点駅までは戻れるが、そのあと少し離れた場所の駅まで歩いて行き、そこからまた電車に乗らないと我が家には辿り着けない。その駅に着く頃には、終電は走り去ったあとだ。
「ケーキ、せっかく買ったのにな」
 春也の誕生日ということで、駅ビルで田舎では買えない有名店のケーキを奮発して買ったのだ。だが、賞味期限は明日までもたない。
 先に時刻表調べてから買えば良かった……。
 自分の間抜けさ加減にがっかりだった。
 しかし、過ぎたことは考えても仕方がない。わたしは終点駅近辺のビジネスホテルの予約をしようとスマホで検索し始めた。