他の席へ注文を取りに行こうとしたとき、店長に声をかけられて足を止めた。
ネームには大田と書かれていて年齢は20代半ばくらい。

背が高くて整った顔立ちをしているから、女性従業員の間では結構人気があった。
「はい」

「あの子たち、君の友達?」
聞かれて大田店長の視線を追いかけると、鳴海たちが調子よく歌を歌っているところだった。

「はい」
「悪いけど、大きな声で歌うのはやめてもらえるかな?」
太田店長が申し訳なさそうな顔になって言う。

眉を寄せて懇願するようなその顔はなんだか可愛くて、私は好きだった。
「わかりました」

他の席への注文を別のバイトにまかせて、私は鳴海たちの席へと向かった。
人差し指をたてて「しー」と言うと、鳴海たちが舌を出して「ごめん」と笑う。

普通に注意するよりもこっちのほうが角が立たない。
今日はカラオケも断ってしまったし、印象が悪くならないためにも必要だった。